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デッドリフトのリフティングの基本を知っておこう【デッドリフトの科学】


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 前回は、デッドリフトのフォームの基本について、アメリカの有名トレーナーであるMark Rippetoe氏の著書「Starting Strength」を参考に考察してきました。

 

 デッドリフトのボトムのフォームでは「股関節のモーメントを小さくする」、「体幹の剛性を高める」ことをポイントにして、フォームをデザインすることが推奨されています。

『デッドリフトのフォームの基本を知っておこう【デッドリフトの科学】』

 

 では、デッドリフトのリフティング動作のパフォーマンスを高めるためには、どうしたら良いのでしょうか?

 

 この問に、Rippetoe氏はこう答えています。

 

 「バーベルを垂直に挙げよう」

 

 「そこから身体の使い方をデザインしよう」

 

 今回は、デッドリフトのリフティングの基本について、Rippetoe氏の著書「Starting strength」を参考に、近年の研究報告を合わせてご紹介しましょう。



Table of contents



◆ セットアップで体幹の剛性を高めよう

 

 バーベルの前に立ち、バーをグリップしたら、ボトムのフォームをしっかりとセットアップします。

 

 デッドリフトは、スクワットよりも股関節に大きなモーメント(回転力)が生じるトレーニングです。そこでRippetoe氏は、効率的にバーベルを持ち上げるためには「股関節のモーメントをなるべく小さくする」ようにフォームをデザインしようと言います。さらに、股関節で作り出したパワーを効率的にバーベルへ伝達するために「体幹の剛性を高める」ことをポイントとして挙げています。

 

 そして、これらのポイントを達成するために以下のようなフォームを推奨しています。

 

・バーベルはミッドフット上に位置させる。

・股関節の高さは頭部と膝関節の真ん中に位置させる。

・肩関節はバーベルよりも前方に位置させる。

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  ボトムのフォームがつくれたら、つぎにセットアップを行い、さらに体幹の剛性を高めていきます。その役割を担っているのが「広背筋」です。Rippetoe氏は、広背筋の収縮を高めるために「肩甲骨を下制する」ことを推奨しています。

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 広背筋は、肩甲骨の下辺(下角)から胸腰椎、骨盤に起始をもち、上腕骨に付着しています。そのため、上腕骨をしっかりと引きつけると同時に、肩甲骨を下制することによって、さらに収縮を促し、体幹の剛性を高めることができるのです。

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  体幹の剛性を高め、セットアップができたら、リフティング動作に入ります。



◆ バーベルは垂直に持ち上げよう

 

 重たい荷物をもって10m移動するより、5m移動するほうが楽です。なぜ、楽なのかというと、5mのほうが仕事量が少ないからです。仕事量は重量と移動距離から算出でき、同じ重さであれば、距離が短いほうが仕事量は少なくなります。

 

 仕事量 = 重量 × 距離

 

 では、デッドリフトの場合はどうでしょうか?

 

 デッドリフトのボトムのポジションでは、バーベルはミッドフット上に位置しています。これをトップのポジションまで持ち上げるとき、もっとも仕事量が少ない移動方法は「垂直に移動させる」ことです。ミッドフット上から垂直に、まっすぐ持ち上げることによって、もっとも仕事量の少ない効率的なリフティング動作が可能になるのです。

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図:Mark Rippetoe著「Starting strength」より筆者作成

 

 これが、Rippetoe氏が「バーベルを垂直に挙げよう」という理由です。

 

 これに対して、ボトムのポジションでバーベルが前方にある場合や、リフティングのときに膝関節から伸ばさず、体幹で引き上げようとする場合には、バーベルの移動距離が延長してしまいます。これでは仕事量が増大し、非効率的なリフティング動作になってしまいます。

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図:Mark Rippetoe著「Starting strength」より筆者作成

 

 では、バーベルを垂直に持ち上げ、効率的なリフティング動作を行うためには、どのようなポイントに注意すれば良いのでしょうか?



◆ リフティング動作を分析してデザインしよう

 

 Rippetoe氏は、バーベルが垂直に持ち上がるためのリフティング動作をA〜Dのように示しています。ここでは、A〜Dまでの動作を3つのフェーズに分けて、フェーズごとに各動作の分析するとともに、ノルウェー・HVLのAndersenらの筋電図による研究報告(Andersen V, 2019)をもとに、筋活動を見ていきましょう。

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 まずはA〜Bのファースト・フェーズです。

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 Aはボトムのフォームになります。ボトムのフォームでは、バーベルはミッドフット上に位置させ、肩関節はバーベルよりも前方に位置させ、股関節の高さは頭部と膝関節の真ん中に位置させることがポイントになります。このポジションにより、股関節のモーメントが小さくなり、広背筋の収縮効率が高まります。

 

 Bはボトムのフォームから、膝下までバーベルを持ち上げたポジションになります。このA〜Bのファースト・フェーズで重要になるのが「膝関節と体幹の角度」です。

 

 ファースト・フェーズで関節の角度が変わるのは「膝関節のみ」です。これは、膝関節を大きく伸ばすことによって、バーベルを膝下まで持ち上げることを示しています。リフティング動作の最初に膝関節を伸ばすことによって、バーベルの垂直移動が可能になるのです。

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 このときに注意すべきことは「体幹の前傾角度は変わらない」ということです。AとBのポジションを見てわかるように、体幹の前傾角度は変わりません。仮に、膝関節を伸ばさずに、体幹でバーベルを引き上げようとすると、バーベルの移動距離が延び、リフティングの仕事量が増えるとともに、腰部への負担が強くなり、腰を痛める非効率的なリフティング動作になってしまいます。

 

 筋活動では、大腿四頭筋(外側広筋)の筋活動が他のフェーズに比べて高まっていることが示されています。これに対して、背筋(脊柱起立筋)や大殿筋などの筋活動には変化がありません。これは、ファースト・フェーズのリフティングが主に大腿四頭筋による膝関節の伸展動作によって行われていることを意味しています。

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Fig.1:Andersen V, 2019より筆者作成

 ファースト・フェーズでは、よく「床を押し出すように膝を伸ばそう」と言われますが、これは、リフティング動作が体幹や股関節ではなく、膝関節を伸ばす動きによって行われるからなのです。

 

 つぎに、B〜Cのセカンド・フェーズを見てみましょう。

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 このフェーズで重要になるのが、股関節と体幹の動きです。関節の角度では、股関節が大きくひらき、体幹が起き上がっていくのがわかります。股関節を前方に突き出すように伸展していきながら、体幹を起こすことによってバーベルを膝上まで持ち上げます。

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 セカンド・フェーズでは、大腿四頭筋が役目を終えますが、股関節に生じるモーメントがもっとも大きくなるため、これに抗するために大殿筋とハムストリングス(大腿二頭筋・半腱様筋)の筋活動がもっとも高くなります。また、背筋の筋活動に変化はありません。これは、背筋を使用してバーベルを持ち上げるのではなく、体幹の剛性を保つことのみに作用しているからです。

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Fig.2:Andersen V, 2019より筆者作成

 

 よくセカンド・フェーズでは「肩を後ろに、股関節を前に(shoulders back, hips forward)」と言われます。これは、股関節を伸ばす大殿筋やハムストリングスを最大限に活動させて、肩を後ろに、股関節を前に移動させることにより、バーベルを膝上まで持ち上げることを意味しています。

 

 さいごにC〜Dのサード・フェーズです。

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 このフェーズは、膝上までバーベルを挙げたところから、ロックアウトまでの動作になります。ここでは、さらに股関節を前方へ移動させるように伸ばしていき、体幹を完全に直立させながら、バーベルをフィニッシュ位置まで持ち上げます。ロックアウトしたあとは肩関節、股関節、膝関節が同一線上に並ぶように位置させます。体幹を過度に後方へ反らしたり、股関節を過度に伸ばすことは、背筋の過剰な収縮を招き、腰痛の原因になるので注意が必要です。

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 サード・フェーズでは、股関節からバーベルまでのモーメントアームが徐々に短くなるため、股関節に生じるモーメントも小さくなります。そのため、股関節を伸ばす大殿筋やハムストリングスの筋活動も低下します。また、このフェーズにおいても背筋の筋活動は変化していません。背筋はロックアウトに向けて、体幹を反らすように過剰に活動するのではなく、ここでも体幹の剛性を保つことのみに作用しています。

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Fig.3:Andersen V, 2019より筆者作成
 

 デッドリフトでバーベルを垂直に持ち上げるためには、ファースト・フェーズで膝関節を伸ばす動作から始めることが重要になります。この動作によって膝関節が伸び、膝を迂回せずに垂直にバーベルを持ち上げることができます。そして、セカンド・フェーズで大殿筋やハムストリングスによる股関節を伸ばす動作に切り替え、股関節を前に出しながら、体幹を引き上げて、バーベルをさらに持ち上げます。サード・フェーズのロックアウトでは背中を反らすことはせず、肩関節、股関節、膝関節が同一線上に並ぶようにしてリフティング動作を終えます。

 

 ここで重要なのは、すべてのフェーズを通じて、広背筋や脊柱起立筋などの背筋の筋活動は一定であるということです。背筋の筋活動の目的は、リフティングではなく、体幹の剛性を高め、力を伝達することです。そのため、すべてのフェーズを通じて、過度に筋活動を高めることはありません。逆に背筋の筋活動の高まりは腰痛などの怪我の原因になるので、注意が必要になります。

 

 スタートのポジションでは、股関節のモーメントを小さくし、体幹の剛性を高めるよいうにボトムのフォームをデザインします。リフティング動作では、バーベルを垂直に持ち上げるように、身体の使い方をデザインすることがデッドリフトのパフォーマンスの向上につながるのです。

 

 

◇ 参考書籍

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◆ 参考論文

Andersen V, et al. Electromyographic comparison of the barbell deadlift using constant versus variable resistance in healthy, trained men. PLoS One. 2019 Jan 22;14(1):e0211021.

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