リハビリmemo

理学療法士・トレーナーによる筋トレやダイエットについての最新の研究報告を紹介するブログ

睡眠不足は筋トレの効果を低下させる~その科学的根拠を知っておこう


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 現代のスポーツ医学は、筋トレの効果を最大化するための方程式を示しています。

 

 トレーニングの効果 = 総負荷量 = 重量 × 回数 × セット数 × 頻度

 

 トレーニングの効果(特に筋肥大)は総負荷量によって決まります。総負荷量は重量や回数などをかけ合わせたものであり、これらを調節して総負荷量を高めることがトレーニング効果を最大化させるのです。

『筋トレの効果を最大にする新しいトレーニングプログラムの考え方』

 

 しかし、この方程式よりも大事なことがあります。それはトレーニングのベースとなる「身体的、精神的なコンディション」です。

 

 今年に入ってから、コンディションに関するシステマティックレビューがスポーツ医学雑誌に掲載されました。そこには夜更かしする人には耳が痛い、でもとても大切なことが記されています。

 

 「睡眠不足が筋トレの効果を低下させる」

 

 今回は、睡眠不足による筋トレへの影響とそのメカニズムについて考察していきましょう。

 

Table of contents

 

 

◆ 睡眠不足は多関節トレーニングの効果を低下させる

 

 睡眠不足は、僕たちの健康を大きく損なわせます。肥満、糖尿病、脳卒中、心臓病、そして癌の発病リスクが睡眠不足によって増加することが明らかになっています(Kecklund G, 2016)。

 

 そして睡眠不足による影響は、筋トレの効果にも及びます。

 

 2012年、イギリスのスポーツ機関であるUKスポーツに被験者となるアスリートが集められました。被験者は睡眠時間が8時間以上のグループと睡眠不足である6時間未満のグループに分けられ、ベンチプレスやスクワット、ベントローといった多関節トレーニングが行われました。

 

 トレーニング重量は最大筋力の85%に設定され、疲労困憊になるまで回数を行い、これを4セット実施しました。その後、日にちを変えてグループを入れ替え、同様の条件でトレーニングを行いました。

 

 その結果、睡眠不足の状態ではベンチプレス、スクワット、ベントローのすべての総負荷量が減少することがわかりました(Cook C, 2012)。

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Fig.1:Cook C, 2012より筆者作成

 

 トレーニングの効果は総負荷量によって決まります。睡眠不足は総負荷量を減少させ、トレーニングの効果を低下させることが示唆されたのです。

 

 この結果は、通常よりも3時間少ない睡眠不足がベンチプレスなどの多関節トレーニングのパフォーマンスを低下させるという過去の報告(Reilly T, 1994)を支持するものでした。

 

 また、単関節トレーニングについての研究結果も報告されています。

 

 2013年、チュニジアのスポーツ医科学国立センターでは睡眠不足による筋力への影響が検証されました。

 

 アスリートである被験者は、通常の睡眠時間と通常よりも4時間少ない睡眠不足のときの握力と肘の等尺性筋力といった単関節トレーニングの最大筋力を計測されました。

 

 その結果、通常の睡眠時間と睡眠不足に最大筋力の有意な差は認められませんでした(Souissi N, 2013)。

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Fig.2:Souissi N, 2013より筆者作成

 

 同様の検証は過去にも報告されており、睡眠不足は単関節トレーニングの筋力に影響しないことが示されているのです。

 

 2018年2月に睡眠不足と筋トレのレビューを報告したディーキン大学のノウルズらは、これらの研究結果をまとめ、睡眠不足は単関節トレーニングよりも多関節トレーニングの効果を低下させることを示唆しています(Knowles OE, 2018)。

 

 では、なぜ睡眠不足になると多関節トレーニングのパフォーマンスが低下しやすいのでしょうか?



◆ 睡眠不足が筋トレの効果を低下させるメカニズム

 

 筋グリコーゲンは筋肉に蓄えられる糖のひとつで、筋肉が収縮するためのエネルギー源になります。筋トレはジョギングなどの有酸素運動よりも無酸素運動に近いトレーニング様式です。有酸素運動は酸素と筋グリコーゲンをエネルギー源として使用できますが、無酸素運動は酸素が利用できないため、筋グリコーゲンのみがエネルギー源になります。

 

 睡眠不足はこの筋グリコーゲンを減少させるのです。

 

 2011年、チャールズ・ストラート大学で睡眠不足のアスリートを対象に筋グリコーゲン量の検証が行われ、通常の睡眠時と比べて睡眠不足では筋グリコーゲン量が有意に減少していることが示されています(Skein M, 2011)。

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Fig.3:Skein M, 2011より筆者作成

 

 では、なぜ睡眠不足は筋グリコーゲンを減少させるのでしょうか?

 

 睡眠不足が脳卒中や心臓病の原因となる理由のひとつに、血液中の糖を身体の臓器に取り込む機能が低下してしまうことが挙げられています。糖を取り込む役割を担っているのがインスリンです。睡眠不足はこのインスリンの機能を低下させてしまうのです(これをインスリン抵抗性といいます)。

 

 2017年、スターリング大学で睡眠不足がインスリン抵抗性に与える影響について検証されました。その結果、睡眠時間が通常の半分の睡眠不足時に、インスリン抵抗性が有意に増加することがわかりました(Sweeney EL, 2017)。

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Fig.4:Sweeney EL, 2017より筆者作成

 

 これらの結果から、睡眠不足はインスリンによる筋肉への糖の取り込み機能を低下させることによって、筋グリコーゲンの量が減少することが示唆されているのです。

 

 さて、ここで質問に戻りましょう。

 

 なぜ、睡眠不足になると多関節トレーニングのパフォーマンスが低下しやすいのでしょうか?

 

 多関節トレーニングは、単関節トレーニングよりも多くの筋肉が動員されます。そのためエネルギー消費量も多く、多くの筋グリコーゲンが必要となります。

『時間がないときにやるべき筋トレメニューとは?』

 

 睡眠不足はインスリン抵抗性を増加させ、筋グリコーゲン量の減少を招くため、多くの筋グリコーゲンを消費する多関節トレーニングのパフォーマンスが低下しやすいのです。これが睡眠不足が筋トレの効果を低下させるメカニズムとされています。

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 睡眠不足による影響は身体面だけではありません。精神面にも影響を与えます。2018年1月に報告されたアスリートを対象にしたレビューでは、睡眠不足がモチベーションや集中力を低下させるとともに、気分の悪い状態(イライラ)を作りだし、過剰な重量や回数によるオーバートレーニングを生じさせる危険性が示唆されています(Bonnar D, 2018)。筋トレの前日は早めに就寝し、しっかりと身体的、精神的なコンディションを整えるべき理由がここにあります。

 

 筋トレはジムに行ってから始まるのではありません。

 

 前日の夜から始まっているのです。

 

 

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シリーズ103:筋トレは朝やるべきか、夕方やるべきか?〜最新エビデンスを知っておこう

シリーズ104:筋トレによる筋肥大の効果は「週のトレーニング量」で決まる!【最新エビデンス】

 

 

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◆ 参考論文

Kecklund G, et al.  Health consequences of shift work and insufficient sleep. BMJ. 2016 Nov 1;355:i5210.

Cook C, et al. Acute caffeine ingestion's increase of voluntarily chosen resistance-training load after limited sleep. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2012 Jun;22(3):157-64.

Reilly T, Piercy M. The effect of partial sleep deprivation on weight-lifting performance. Ergonomics 1994; 37(1):107–115.

Souissi N, et al. Effects of time-of-day and partial sleep deprivation on short-term maximal performances of judo competitors. J Strength Cond Res. 2013 Sep;27(9):2473-80.

Knowles OE, et al. Inadequate sleep and muscle strength: Implications for resistance training. J Sci Med Sport. 2018 Feb 2. pii: S1440-2440(18)30030-6.

Skein M, et al. Intermittent-sprint performance and muscle glycogen after 30 h of sleep deprivation. Med Sci Sports Exerc. 2011 Jul;43(7):1301-11.

Sweeney EL, et al. Skeletal muscle insulin signaling and whole-body glucose metabolism following acute sleep restriction in healthy males. Physiol Rep. 2017 Dec;5(23).

Bonnar D, et al. Sleep Interventions Designed to Improve Athletic Performance and Recovery: A Systematic Review of Current Approaches. Sports Med. 2018 Mar;48(3):683-703.

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