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理学療法士・トレーナーによる筋トレやダイエットについての最新の研究報告を紹介するブログ

筋トレは心臓も強くする〜最新のエビデンスが明らかに


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 トレーニングを終えた僕たちは鏡の前に立ち、ひとつひとつの筋肉を見てこう思います。

 

 「今日も大胸筋や三角筋、大腿四頭筋が良い感じにパンプアップされたな」 

 

 しかし、パンプアップされたのはこれらの筋肉だけではありません。鏡には決して映らない、命をつかさどる大事な筋肉もパンプアップされているのです。

 

 それが「心筋」です。

 

 心筋とは心臓の筋肉のことをいいます。心筋は収縮や拡張することによって、ポンプのように心臓から全身に血液を送る重要な役割を担っています。

 

 2017年12月、フリードリッヒ・アレキサンダー大学のScharfらは筋トレの新たな効果について明らかにしました。

 

 「筋トレは心筋を強くする」

 

 今回は、筋トレによる心臓への効果について考察していきましょう。

 

Table of contents

 

 

◆ 筋トレは心筋を強くする

 

 医学が個人の健康をあつかうのに対して、公衆衛生学は社会水準で健康をとりあつかいます。公衆衛生学では、ながらく健康の増進には有酸素運動が効果的であると謳ってきました。しかし、2017年4月、サウサンプトン大学のSteeleらは現代の公衆衛生学に大きなパラダイム・シフトが起きているというレビューを報告しています。

 

 そのトピックスになっているのが「筋トレ」です。

 

 筋トレは筋力を高めたり、筋肉量を増やす効果があります。これらの効果に加えて、新たに注目されているのが最大酸素摂取量を増やす効果です。

 

 最大酸素摂取量とは、ある運動を疲労困憊まで行ったときの酸素の摂取量のことをいい、体力や持久力の指標とされています。ハーバード大学の研究では、最大酸素摂取量が多い人は少ない人に比べて28%も死亡率が低いことが示されています(Paffenbarger RS Jr, 1986)。そのため、現在でも健康の増進のために最大酸素摂取量を高めることが推奨されています。

 

 これまで最大酸素摂取量を高める方法として有酸素運動が推奨されてきました。しかし近年、特にベンチプレスやスクワットなどの多関節トレーニングが最大酸素摂取量を高める効果が報告され、公衆衛生学でも有酸素運動に代わる健康増進の手段として注目されているのです(Steele J, 2017)。 

『時間がないときにやるべき筋トレメニューとは?その科学的根拠が明らかに』

 

 そして筋トレが最大酸素摂取量を高める要素のひとつとして考えられているのが、心臓から血液を送り出す量(心拍出量)であり、そのポンプ能力を担う「心筋の収縮力」です。

✻ 酸素摂取量 = 心拍出量 × 心拍数 × 動静脈酸素較差(Fickの理論式)

 

 フリードリッヒ・アレキサンダー大学のScharfらは、この心筋の収縮力が筋トレによって強まると予測し、検証しました。

 

 健康でトレーニング経験のない30〜50歳の被験者をトレーニング行うグループと行わないグループに分け、トレーニング・グループは週2〜3回のトレーニングを22週間つづけました。トレーニング内容は、ベンチプレスやレッグプレスなど10〜13種類のトレーニングをそれぞれ8〜10RM、1セットで行われました。

 

 トレーニング前後に心臓の画像計測(MRI)が行われ、心筋の筋肉量、心臓から送り出される血液量(心拍出量)が計測されました。

✻ 心筋の筋肉量:左心室の質量、心拍出量:一回拍出量

 

 その結果、トレーニング・グループでは心筋の筋肉量が2.8%増加し、心拍出量は4.9%の増加を示しました。また、トレーニングによる心筋への損傷、有害事象は認められませんでした。

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Fig.1:Scharf M, 2017より筆者作成

 

 この結果から、22週間の継続的なトレーニングが心筋の筋肉量を増やし、収縮力を高めることによって心臓から拍出される血液量を増加させることが示唆されたのです。

 

 トレーニング時、全身の末梢血管は収縮して血圧が上昇します。血圧の上昇は、心臓に圧力負荷を生じさせます。この圧力負荷が心筋を増強させる要因であると考えられています(Fagard RH, 1997)。

 

 Scharfらは自らの予測を証明し、筋トレが心臓をも強くすることを画像研究により世界で初めて明らかにしたのです(Scharf M, 2017)。



◆ 筋トレは心臓病後の心筋も強くする

 

 厚生労働省が公表している平成27年の死因別の死亡率順位では、心臓病ががんに次いで第2位となっています。昭和22年から約70年間の推移を見ると、心臓病による死亡率が高くなっていることがわかります(緑のライン)。

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Fig.2:平成29年わが国の人口動態(厚生労働省)より引用

 

 これまで心筋梗塞などの心臓病に対して、有酸素運動が推奨されてきました。しかし最近では、筋トレが心臓病によって弱化した心筋を強くすることがわかってきたのです。

 

 2018年1月、イスラエル・ヘブライ大学病院のDor-Haimらは、従来の有酸素運動に比べて、有酸素運動に筋トレを加えたサーキットトレーニングが心臓病後の心筋に与える効果を検証しました。

 

 Dor-Haimらは、心筋梗塞によって心臓病を患った被験者を従来の有酸素運動を行うグループと有酸素運動と筋トレを行うグループに分けました。

 

 両グループともに自転車やジョギングなどの有酸素運動を12週間つづけ、有酸素運動に筋トレを加えたグループでは、有酸素運動の合間にベンチプレスやレッグプレスなどのトレーニングを最大筋力の30〜50%の重量で15回、1セットが追加して行われました。

 

 その結果、有酸素運動と筋トレを行ったグループでは、心筋による収縮・拡張能力が増加し、さらに仕事や家事などの身体機能に関する生活の質(QOL)の向上が示されました。また、被験者に有害事象は認められませんでした。

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Fig.3:Dor-Haim H, 2018より筆者作成

 

 有酸素運動に筋トレを追加することで、心臓病による心筋の能力を高め、体力の向上とともに日常生活や仕事の満足度を高めることが示唆されたのです。

 

 Dor-Haimらは、有酸素運動により末梢血管が広がり、その後に筋トレを行うことで血管が収縮することによる適度な圧力負荷が心筋の拡張、収縮能力を高めたと推測しています(Dor-Haim H, 2018)。

 

 

 現代の運動生理学では、筋トレが心臓の機能を高めることを明らかにし、その結果が医学に応用されつつあります。そして社会全体の健康を増進させることを目的とする公衆衛生学においても、筋トレの重要性が認識されつつあるのです。

 

 トレーニングが終わったら胸に手を当ててみましょう。

 

 心臓の大きな鼓動を感じるはずです。

 

 筋トレによって心臓も強くなっているのです。

 

 

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◆ 読んでおきたい記事

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

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シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう

シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論 

シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

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シリーズ⑨:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう 

シリーズ⑩:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間について知っておこう

シリーズ⑪:筋トレの効果を最大にするトレーニングの頻度について知っておこう

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シリーズ⑰:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう(2017年7月版) 

シリーズ⑱:筋トレとアルコール摂取の残酷な真実

シリーズ⑲:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう(2017年7月版)

シリーズ⑳:長生きの秘訣は筋トレにある

シリーズ㉑:筋トレの最適な負荷量を知っておこう(2017年8月版)

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シリーズ㉕:筋トレの前にストレッチングをしてはいけない理由

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シリーズ㊳:筋トレとアルコールの残酷な真実(続編)

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シリーズ75:筋トレによる筋肥大の効果は強度、回数、セット数を合わせた総負荷量によって決まる

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シリーズ77:筋トレとHMBの最新エビデンス(2018年8月版) 

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シリーズ79:筋肥大のメカニズムから筋トレをデザインしよう

シリーズ80:筋トレの効果を最大にする週の頻度(週に何回?)の最新エビデンス

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シリーズ82:筋トレの総負荷量と疲労の関係からトレーニングをデザインしよう

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シリーズ84:筋トレのあとは風邪をひきやすくなる?〜最新エビデンスと対処法

シリーズ85:筋トレのパフォーマンスを最大にするカフェインの最新エビデンス

シリーズ86:筋トレとグルタミンの最新エビデンス

シリーズ87:筋トレとアルギニンの最新エビデンス

シリーズ88:筋トレとシトルリンの最新エビデンス

シリーズ89:筋トレするなら知っておきたいサプリメントの最新エビデンスまとめ

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シリーズ91:高タンパク質は腎臓にダメージを与えない〜最新エビデンスが明らかに

シリーズ92:筋トレするなら知っておきたい食事のキホン〜ハーバード流の食事プレート

シリーズ93:筋トレを続ける技術〜マシュマロ・テストを攻略しよう

シリーズ94:スクワットのフォームの基本を知っておこう【スクワットの科学】 

シリーズ95:スクワットのフォームによって筋肉の活動が異なる理由

シリーズ96:スクワットの効果を最大にするスタンス幅と足部の向きを知っておこう

シリーズ97:ベンチプレスのフォームの基本を知っておこう【ベンチプレスの科学】

シリーズ98:ヒトはベンチプレスをするために進化してきた【ベンチプレスの科学】

シリーズ99:デッドリフトのフォームの基本を知っておこう【デッドリフトの科学】

シリーズ100:デッドリフトのリフティングの基本を知っておこう【デッドリフトの科学】

シリーズ101:筋トレを続ける技術~脳をハックしよう!

シリーズ102:腕立て伏せの回数と握力から心臓病のリスクを知ろう!

シリーズ103:筋トレは朝やるべきか、夕方やるべきか?〜最新エビデンスを知っておこう

シリーズ104:筋トレによる筋肥大の効果は「週のトレーニング量」で決まる!【最新エビデンス】

 

 

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◆ 参考論文

Scharf M, et al. Myocardial adaption to HI(R)T in previously untrained men with a randomized, longitudinal cardiac MR imaging study (Physical adaptions in Untrained on Strength and Heart trial, PUSH-trial). PLoS One. 2017 Dec 7;12(12):e0189204.

Steele J, et al. A higher effort-based paradigm in physical activity and exercise for public health: making the case for a greater emphasis on resistance training. BMC Public Health. 2017 Apr 5;17(1):300.

Paffenbarger RS Jr, et al. Physical activity, all-cause mortality, and longevity of college alumni. N Engl J Med. 1986 Mar 6;314(10):605-13.

Fagard RH, et al. Impact of different sports and training on cardiac structure and function. Cardiol Clin. 1997 Aug;15(3):397-412.

Dor-Haim H, et al. Improvement in cardiac dysfunction with a novel circuit training method combining simultaneous aerobic-resistance exercises. A randomized trial. PLoS One. 2018 Jan 29;13(1):e0188551.

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