現場の使いやすさを最優先に、フロン管理の手間も半減

フロン管理の現場からーRaMS導入事例紹介ー(7)

「20世紀最大の発明の一つ」とも言われたフロン(CFC:クロロフルオロカーボン)は、それまで有毒な冷媒を使っていた冷凍空調機に大きな進歩をもたらした。ところが、そのフロン類がオゾン層を破壊するメカニズムが発見され、世界で規制が進む。温暖化係数でみても、二酸化炭素の数百倍から1万倍以上とされる。日本でも2020年4月施行の改正フロン排出抑制法で、罰則が大幅に強化された。企業はどのようにフロン類を管理していけば良いのか。積極的に課題解決に取り組む企業を紹介する。(聞き手・香川希理=弁護士、記事・萩原 哲郎=オルタナ編集部)

第7回 積水化学工業 滋賀栗東工場
安全環境課 環境エネルギー係 藤本 浩司 係長
聞き手:香川 希理 弁護士(香川総合法律事務所代表、企業法務とフロン排出抑制法が専門)
積水化学工業は1947年にプラスチック加工メーカーとして創業し、現在は高機能プラスチック、環境・ライフライン、住宅の3つのカンパニーとコーポレートで企業を構成する。従業員数は2万6929人。

滋賀栗東工場は、環境・ライフラインカンパニーのメイン工場として1960年に立ち上げ。上下水道・農水などの水関係に使用する塩化ビニル管などの製品群をメインに生産するほか、ガラス繊維強化プラスチック管や鉄道のまくらぎなどで用いられるFFU(合成木材)といった特殊な製品の生産も担う。工場内には環境・ライフラインカンパニーの開発部門も有しており、マザー工場としての役割も担う。工場の従業員は約700人となる。(連載・PR)

藤本 浩司・積水化学工業 滋賀栗東工場 安全環境課 環境エネルギー係 係長
藤本 浩司・積水化学工業 滋賀栗東工場 安全環境課 環境エネルギー係 係長

紙ベースでの管理には「限界」

―貴社や滋賀栗東工場では脱炭素やフロンにどのように対応しているか。

積水化学グループでは2050年に環境課題を解決した理想の姿を「SEKISUI 環境サステナブルビジョン2050」の中で”生物多様性が保全された地球“と描いています。その実現のためには気候変動をはじめとする様々な環境課題を解決する必要があります。当社グループは重要な環境課題である気候変動の長期ゴールとして温室効果ガス排出ゼロ、すなわちカーボンニュートラル(脱炭素)を掲げています。脱炭素の目標は、2030年までに購入電力の100%を再生可能エネルギーに転換、50年までにGHG排出量ゼロです。その目標に合わせて、各カンパニーや工場でも取り組みを進めています。

フロン対策については、モントリオール議定書によってR22が2020年に生産中止となり、代替フロンへの転換を行っています。滋賀栗東工場では、計画的に設備の更新を行い、排出係数の低いものやノンフロンのものへの転換を進めています。

―RaMS(冷媒管理システム)導入の経緯や導入の決め手は何でしょうか。

2015年4月にフロン回収・破壊法からフロン排出抑制法に改正され、当初は紙ベースの点検表をつくり、それをエクセルでリスト化するというところからスタートしました。しかし20年4月に改正フロン排出抑制法が施行し、直接罰の導入や機器の点検記録簿の機器廃棄後3年間保管など規制が強化されました。

このときに紙ベースでの管理では漏れが出てくるだろうと感じ、システムでの管理の必要性を痛感しました。同時期に、積水化学グループの環境担当者間の会議では「フロン点検に工数がかかる」ということが課題として挙がりました。

より効率的にできるものはないかと思っていた時に、コーポレート部門からデータ管理システムとして、フロン対策を推進する日本冷媒・環境保全機構(JRECO)のRaMSなどを紹介されました。

数社のフロン機器管理システムを比較検討したところ、RaMSはどの機器にも対応できる汎用性があり、フロンを廃棄する際の行程管理票もすべてひとつのシステム(電子)上で完結できる。そして導入コストも割安でした。そういった点を考慮して、まずは滋賀栗東工場をモデルとして、2022年に導入しました。

現在、社内でのRaMS導入は約1000台ほどです。滋賀栗東工場では550台、同じく環境・ライフカンパニーに属する西日本積水工業 岡山製造所で150台ほど、ほかに少数の台数を導入している事業所がいくつかあります。定期点検が必要な機器は、滋賀栗東工場でチラー(冷水循環装置)が24台、空調機器7台、岡山製造所がチラー2台、空調機器14台です。

モデルとして成果、他の工場でも導入へ

―RaMSを導入されて2年が経過しました。実際に使ってみてのメリットは。

これまでは各部門で一覧表を作成していましたが、それを安全環境課で細部までは確認しきれていませんでした。RaMS導入後は、すべての機器が簡易点検されているか、定期点検の対象になるかの管理のしやすさが格段に向上しました。体感ですが、導入前よりもフロン管理の業務量は半減したと感じています。

従業員の意識向上にもつながっています。法律内容の共有は都度発信していますが、RaMSを使って自身で入力するようになったことで「機器を自分で点検する」という意識がさらに強まり、浸透度も高まったと思います。

―システムの導入に際しては現場の人が使いやすい形にすることも重要です。

導入にあたっては、現場の人が使いやすいような工夫も行いました。RaMSは法に則って入力項目が決まっています。

そこで導入する際に、工場の全ての人が関われるように、簡単に入力ができること・自分の機器がどれかが分かるようにできないかと考えました。自分の点検すべき機器を一覧表の中から探して点検するというのは、現場の人にとっては手間になってしまいます。

そこで自分の点検すべき機器がどれかがすぐに分かるように、最初の登録の際に機器の名称に担当者の名前を入れて、検索ですぐに見つかるようにしました。

通常RaMSは機器管理番号と系統名、施設名で機器を検索することができます。そこで施設名称のところに、点検を行う担当者の名前を入れることで、担当者は自分の名前を検索すれば担当する機器がすぐに出てくるようにしました。

こういった現場の人にとって使いやすい工夫を、JRECOの担当者と話をしながら行っています。こういった工夫をすることで、工場内では各担当者が自分の点検すべき機器がすぐにわかりますし、もし点検が行われていなかったら誰がまだ点検をしていないのかがすぐにわかります。

滋賀栗東工場での、RaMSを1年間運用した結果を受けて、2023年夏頃に他の複数の事業所でもテストで導入しました。そして1年の運用を評価した上で、各工場が導入するかを決定する予定ですが、既に数事業所では本格導入に向け、準備をすすめていると聞いています。

―整備記録についてはどのように管理されているか。

簡易点検は部門の担当者に任せています。記録は3カ月ごとにRaMSに直接入力してもらっています。私のほうから担当者に3カ月ごとに簡易点検実施のアナウンスをおこなって、RaMSに登録された簡易点検実施状況を管理しています。定期点検は、私が窓口になり業者を手配して実施しています。

定期点検は点検結果をRaMSに直接入力してもらっていて、詳細なデータや点検記録は紙ベースで別途管理しています。

聞き手:香川希理弁護士(香川総合法律事務所代表)
聞き手:香川希理弁護士(香川総合法律事務所代表)

                 ■ ■ ■

JRECO(一般財団法人日本冷媒・環境保全機構)とは
一般財団法人日本冷媒・環境保全機構は、冷凍空調機器からの冷媒フロン類(CFC、HCFC、HFC)の大気放出抑制、使用の合理化及び管理の適正化に係わる事業の推進を、関係事業者との連携及び行政当局との協調のもとで実施している。

事業の一環として2015年に施行されたフロン排出抑制法の遵守ツール「RaMS」をクラウドで提供する。「RaMS」には主務大臣から認可された「情報処理センター」機能を含み、書面によらない一元管理とデータ解析によるDX推進が可能だ。

RaMS(冷媒管理システム)とは
RaMSは第一種特定製品(業務用冷凍空調機器)とその冷媒の管理ができるクラウドシステム。経済産業省と環境省から認可された情報処理センター機能を包含し、法により管理が義務付けられている全書面を電子的に改正法に準拠した形で管理でき、フロン排出抑制法を遵守することが可能になる。

機器の所有者にとって、法遵守のための機器の総棚卸しは煩雑で負担が大きな作業だが、RaMSを活用することで少ないリソースで管理できる。経営に活かせるデータの解析や温対法算出も可能だ。

代替フロンやRaMSについて詳しく知りたい方はこちら→ yamamoto(a)jreco.or.jp
(a)を@に変更してお送りください。

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

執筆記事一覧
キーワード: #脱炭素

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..