富士通、スコープ3「実データ」算定で40年ネットゼロへ

富士通 山西高志・執行役員 EVP CSSO(最高サステナビリティ&サプライチェーン責任者)

記事のポイント


  1. 富士通はGHG排出量のスコープ3について、実データによる算定を始めた。
  2. 方法論はグローバルスタンダードと目されるWBCSDの「PACT」に基づく。
  3. 技術基盤は整い、次はサプライヤーの「幅と深さ」の拡大を見据える。

富士通は、2040年度にサプライチェーン全体の温室効果ガス(GHG)排出量をネットゼロにする目標を掲げている。全排出量の9割以上を占めるスコープ3については、実データを用いた排出量の算定を始めた。その方法論は、スコープ3算定のグローバルスタンダードになると目されるWBCSDの「PACT」に基づく。山西高志CSSOは「技術基盤は整った。あとは連携するサプライヤーの『幅と深さ』をどれだけ広げられるか」と、次を見据える。(聞き手=オルタナ副編集長・長濱慎、写真=廣瀬真也)

やまにし・たかし
1989年、富士通に入社。グローバルベンダーからの調達担当を経て、グローバルサプライチェーン本部長(2018年)、EVP戦略アライアンス・サプライチェーン担当(23年)などを歴任。富士通の事業ポートフォリオのシフトと並行して、サプライチェーンの変革に取り組む。24年4月から現職。

WBCSD(World Business Council for Sustainable Development:持続可能な開発のための世界経済人会議)とは、世界の230社以上の経営者が参加する企業連合。気候変動をはじめとする社会課題を解決し、持続可能な社会の実現を目的とする。富士通は2013年に参画。

PACT(Partnership for Carbon Transparency:カーボン透明性のためのパートナーシップ)とは、WBCSDが立ち上げたイニシアティブの一つ。スコープ3排出量算定の世界的な基準の策定に向けてデータの標準化、企業間データの連携などに取り組む。

◾️サステナビリティとサプライチェーンは不可分に

――最初に、CSSO(最高サステナビリティ&サプライチェーン責任者)という役職について教えてください。

山西: 2024年4月にCSuO(最高サステナビリティ責任者)の任務を拡張してCSSOという役職が誕生しました。「サプライチェーン」という要素が、サステナビリティに重要なウェイトを占めるようになったことを受けての判断です。

私自身、富士通でのキャリアの大半をサプライチェーン畑で過ごしてきましたが、明らかな時代の変化を感じています。かつて優先すべきはQCD(品質・コスト・納期)でしたが、現在はそれにプラスして環境や人権、さらにはダイバーシティやレジリエンシー(災害や紛争に対する強靭さ)といった多様な要素が求められるようになりました。

富士通はグローバルレスポンシブルビジネス(責任ある事業活動)の柱の一つとして、「人権・多様性」や「環境」とともに「サプライチェーン」を掲げています。今や、サステナビリティとサプライチェーンは切り離せない関係です。これは当社に限らず、デジタルサービス業や製造業の全般に共通して言えることだと思います。

◾️主要サプライヤーの6割がSBT準拠の目標設定

――サプライチェーン全体のGHG排出量について、2040年度ネットゼロという目標を掲げています。

山西:デジタルサービスのリーディングカンパニーとして脱炭素の先陣を切るため、当初2050年度としていた目標を10年前倒ししました。このうち、スコープ1・2については30年度までに100%削減を目指しており、23年度の実績で41.6%削減(20年度比)しました。

スコープ1・2でもっとも排出量が多いのがデータセンターで使用する電力で、30年度までに100%再生可能エネルギー化を目指しています。25年度には国内の主要データセンターを全て再エネに切り替える予定で、目標達成への道筋が見えてきました。

残る課題は、排出量全体の90%以上を占めるスコープ3の削減です。ここは自社で取り組めるスコープ1・2と異なり、特に「カテゴリー1」についてはサプライチェーン上流のサプライヤーの協力が欠かせません。

そこで、推計ベース排出量の約8割をカバーする主要サプライヤーを対象に、25年までに削減目標の設定を働きかけています。そしてすでに、うち約6割がSBTなどの国際的な基準に則った目標を設定しています。

◾️スコープ3の次期グローバルスタンダード「PACT」に参画

――スコープ3削減に向けて、サプライヤーとどのような取り組みを進めるのでしょうか。

山西:まず大切なステップが、製品やサービスのカーボンフットプリント全体のGHG排出量を可視化することです。そのために必要不可欠なのが、実データです。これは仕入れ金額や調達量をもとにした推計値ではなく、サプライヤー自身が正確な排出量を把握・算定したデータを意味します。

富士通は24年10月からグローバルサプライヤー12社とともに、実データを用いたデータ連携を本格的にスタートさせました。ここでは、製品ベースのカーボンフットプリント算出およびデータ連携に加えて、よりサプライヤーに浸透している組織ベースの算出およびデータ連携に取り組んでいます。

実データを用いたデータ連携の社会実装は世界初の試みで、WBCSDのPACTに準拠した当社事業モデル「Fujitsu Uvance(ユーバンス)」のオファリングの一つである「ESG Management Platform(マネジメントプラットフォーム)」を用いています。

ESG Management Platformは設計情報の漏洩といったサプライヤーの懸念に対し、アクセス権の限定や秘匿性の高い非中央集権型のデータ管理モデルを採用することで、連携するデータの透明性や信頼性を担保します。

サプライチェーン上流からのGHG排出量がつながることで、サプライヤーが実施した再エネ導入などの削減施策の効果が可視化されます。これにより、サプライチェーン全体の排出量の削減努力も価値として可視化され、削減シナリオの立案や施策の効果を測るシミュレーションなどに反映できます。

PACTに準拠した、カーボンフットプリント実データ連携のイメージ

――PACTに参画する意義を、どう考えますか。

PACTを立ち上げたWBCSDは、GHG排出量算定のグローバルスタンダードである「GHGプロトコル」の設立者です。同様にPACTもスコープ3における排出量算定のグローバルスタンダードになる可能性が高く、そのルールメイキングからコアメンバーとして参画できる意義は大きいと考えています。

サプライヤーの多くは、富士通以外の企業とも取引を行っています。グローバルスタンダードに準拠した方法であれば他社とデータをやり取りする際にも活用でき、サプライヤー自身の効率化や負荷軽減にメリットをもたらすでしょう。

GHGプロトコルとは、GHG排出量の算定・報告に関する国際的な基準で、WBCSDと米シンクタンクのWRI(世界資源研究所)が中心となって作成。GHG排出量のスコープ1・2・3区分もGHGプロトコルによる

◾️直接対話でサプライヤーのエンゲージメントを高める

◾️財務・非財務の「トレードオン」への道筋を示す

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S.Nagahama

長濱 慎(オルタナ副編集長)

都市ガス業界のPR誌で約10年、メイン記者として活動。2022年オルタナ編集部に。環境、エネルギー、人権、SDGsなど、取材ジャンルを広げてサステナブルな社会の実現に向けた情報発信を行う。プライベートでは日本の刑事司法に関心を持ち、冤罪事件の支援活動に取り組む。

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キーワード: #脱炭素

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