記事のポイント
- グローバルサプライチェーンの中では脱炭素化が競争力保持の必須条件となっている
- 化石燃料の延命施策は、日本企業が世界の潮流に取り残されかねないリスクをはらむ
- 企業は、海外の情報にもアンテナを張り、国際基準でサステナ経営を推し進めるべきだ
企業にとって、グローバルサプライチェーンの中で生き残りをかける上では、「脱炭素」が必須条件だ。ところが日本政府は、電力安定供給の大義名分の下、化石燃料の延命施策に力を入れる。日本企業が、世界の潮流に取り残されずに、競争力を保持し続けるにはどうすればよいのか。脱炭素社会の実現に向け、真剣な取り組みを進める企業、自治体、団体、NGOなど800超団体で構成する気候変動イニシアティブ(JCI)の加藤茂夫共同代表に話を聞いた。(聞き手:オルタナ副編集長・池田真隆、同・北村佳代子)
加藤 茂夫(かとう・しげお)氏:
気候変動イニシアティブ(JCI)共同代表。リコーで2015年からサステナビリティ担当役員として、脱炭素宣言、日本企業として初の「RE100」参画を実現。日本気候リーダーズ・パートナーシップの共同代表、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンの理事として、気候変動問題を中心に企業・産業界の社会課題解決への貢献を牽引。
■日本の脱炭素化の進捗評価は、国内外で異なる
日本政府は、日本の現状の脱炭素の取り組みを、パリ協定の「1.5℃目標」に「オントラック(計画通り)」だと発信する。しかし、世界のさまざまなデータベースや研究機関の分析では、「日本は後れている」との評価だ。このギャップは何か。
日本の排出量の減り方は、確かに「オントラック」に近い数値を示してはいる。しかしそれは、人口減少や経済の衰退に起因したものだ。その証左が、電力ミックスでの化石燃料の削減状況だ。
今や世界で合意している内容は、2035年までに電力ミックスをほぼ脱炭素化することだ。
国際的な気候・エネルギーシンクタンクのEMBERの、OECD各国の石炭火力発電に関する調査報告によると、米国はピーク時(03年)から石炭火力を67%、ドイツも同56%減らしている。
英国は2024年9月末に最後の石炭火力発電所を閉鎖し、石炭火力ゼロを達成した。石炭火力ゼロの国は、英国のほか、スイス、ベルギー、ノルウェー、アイスランド、オーストリアなど計11カ国に上る。
多くの国が政策として化石燃料からの脱却、再エネの拡大、エネルギー効率の向上を推進し、相当量の石炭火力を削減してきている中、日本は明確には政策に織り込まず、9%程度しか削減していない。日本がOECDで「最低レベル」と言われる所以はここにある。
日本の脱炭素化が欧米各国と決定的に異なるのは、化石燃料の延命に知恵を巡らせている点だ。石炭火力発電所を維持するために、CCS(二酸化炭素回収・貯留技術)や水素・アンモニア混焼といった、すぐには脱炭素化の実現が難しい技術を使おうと議論している。
延命策に力を入れ過ぎると、トランジション(移行)ができなくなる。日本の技術力の使いどころを間違えている。
2024年10月に気候変動イニシアティブが開催した「気候変動アクション日本サミット2024」では、国連や欧米各国から日本政府への叱咤激励が相次いだ。
その内容は、2025年に提出する次期NDC(国別の削減目標)で、石炭火力新設の即時中止や2035年までの電力のほぼ脱炭素化など、しっかりと1.5℃目標に整合させた変革を進めてほしいというものだ。
こうした要望は本サミットに限らない。さまざまなグローバルでの気候変動の議論で常に語られている。
■企業のサバイバルゲームは、脱炭素がカギを握る
日本が、グローバル基準の脱炭素化の軌道から外れることは、企業にとって実に大きなリスクだ。軌道から外れていることを理由に、メイド・イン・ジャパンの製品・サービスが世界で認められず、グローバルサプライチェーンからはじき出されてしまいかねないからだ。
例えば米アップルは、上流から下流まで、世界中のサプライチェーンパートナーにカーボンニュートラルの達成を要請している。この要請に応えられないサプライヤーは、アップルとの取引を続けられないということだ。
こうした動きはアップルだけではない。さまざまなグローバル先進企業が同様の方針を定め、ときにはサプライヤーの脱炭素化を支援しながら動きを進めている。
2035年に化石燃料から脱却していないと、パートナーシップは継続されないという世界が迫ってきているのだ。
私たちはここに強い危機意識を感じている。経済界と政府とが協働し、気候変動対策を相互に強化し合う、「アンビションループ」を促進できるよう、政府にも働きかけている。
企業にとっては今後10年が真の勝負どきだ。対話を通じてパートナーが求める内容をしっかり把握し、今からそのための行動を設計していく必要がある。
■グローバルサウスも再エネに舵を切る
■グローバルスタンダードでのサステナ経営を