記事のポイント
- チェックイン時の性別確認などLGBTQ当事者が旅行中に抱える課題がある
- ブッキング・ドットコムの調査によると、当事者の半数が差別を経験している
- 同社が宿泊施設に提供するLGBTQ教育は、ビジネス強化のツールにも
チェックイン時の性別確認など、LGBTQ事者が旅行中に抱える課題はさまざまだ。世界最大級の旅行予約サイトを運営するブッキング・ドットコムは、宿泊施設に対し、LGBTQに関する教育プログラムを提供する。ローラ・ホールズワース副社長に、その狙いを聞いた。(オルタナ副編集長・吉田 広子、オルタナ総研・坂本 雛梨)
ローラ・ホールズワース
ブッキング・ドットコム・アジア太平洋地域担当マネージングディレクター兼副社長。SAPコンカーで10 年間勤務した後、ブッキング・ドットコムに入社。アジア太平洋、日本、中華圏のSVP兼GMを務めた。アジア太平洋地域で、15年以上にわたり多文化チームを率いる経験を持つ。
■ 当事者の半数が旅行で差別経験
――日本では、宿泊施設でのLGBTQ配慮について、その必要性があまり認識されていません。ブッキング・ドットコムが取り組んでいる「トラベル・プラウド」について教えてください。
私たちは旅行に関する調査を続けていますが、調査の結果、LGBTQ旅行者の支援が必要だと判断し、2021年に「トラベル・プラウド」を立ち上げました。希望する宿泊施設に無料で研修を行います。
世界27カ国で実施した調査(23年)では、LGBTQ旅行者の80%が、旅行中の安全について非常に不安を抱いていることが分かりました。これは、LGBTQ当事者ではない旅行者に比べて、はるかに高い数字です。
さらに、58 %が「旅行中に差別を経験したことがある」と回答しています。62%が「旅行中に服装やメイクを変える必要がある」とも答えています。
特に、トランスジェンダーは、性自認や名前、容姿がパスポートの情報と一致しない場合があり、旅行でさらなる困難にぶつかることがあります。
日本のLGBTQ当事者も25%が「旅行中に差別を受けたことがある」と答えています。
ブッキング・ドットコムは、世界最大の旅行予約プラットフォームとして、すべての人が安心して快適に旅を楽しめるように、サポートする責任があると考えています。
日本でも、東京や大阪などで「プライドパレード」が開催され、変化を求める声が大きくなっています。そうした変化を後押しするために、私たちは24年4月に日本語版のプログラムを開始しました。日本のジェンダーギャップ指数(23年版)は146カ国中125位ですから、まだまだ努力が必要だと感じています。
【宿泊施設などが配慮できる一例】
・レインボーフラッグなどを飾り、歓迎の気持ちを示す
・性別を問わず利用できるトイレを設置する
・予約やチェックイン時の性別確認を行わない。または男女以外の選択肢を増やす
・性別が関係する敬称を使わず、名前で呼ぶ
・同性カップルに対して、ダブルルームの利用を拒否しない。ベッドの種類を確認する際は、ほかの宿泊者と同様に行う
――23年の訪日外国人の旅行消費額は5兆円を超え、過去最高になりました。日本の宿泊施設の反応はいかがですか。
開始してすぐに、予想を上回る600以上の施設からプログラムへの申し込みがあり、5月末時点で約200施設が認証を取得しました。特に京都の施設からの参加が多いです。
私たちは、「真にインクルーシブ(包摂的)な旅のプラットフォームと体験の創造」を目指しています。ですから、最終的には、すべての宿泊施設に認証を取得してもらうことが目標です。
日本は、世界中から人々が集まる魅力的な旅行地です。今後、ますます多くの外国人観光客が訪日するでしょう。宿泊施設ができるだけ多くの旅行者を呼び込むには、あらゆる旅行者に対してオープンである必要があります。
「トラベル・プラウド」認証マークであるレインボーのスーツケースは、LGBTQ当事者が抱える課題に配慮する施設の目印です。これは、LGBTQ支援でもあり、ビジネスを強化するためのツールでもあります。すでに139カ国・地域で6万5千を超える施設が認証を取得しました。
(この続きは)
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