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自尊心のエッセンスがない――『うまくいっている人の考え方 完全版』  ジェリー・ミンチントン

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うえしん
  うまくいっている人の考え方 完全版 ディスカヴァー携書 ジェリー・ミンチントン ebook

  うまくいっている人の考え方 完全版  ジェリー・ミンチントン



 「24年間読まれつづけて計150万部」という帯のコピーにひかれて手にとった。ミンチントンのこの本はそんなに読まれているのか。でもほかの本では「著者累計」と書かれていて、この本だけではないじゃないか。

 ミンチントンはずっと前にPHP文庫の『人生がうまくいく、とっておきの考え方』という本で出会っている。劣等感と自尊心の名著であると思ったのだが、その本は絶版になった。でもこのディスカヴァー版はロングセラーになったという。そのPHP文庫版の名著のエッセンスをどれだけ抽出できているのかとこの本をとった。

 ディスカヴァー・トゥエンティワンは「超訳」という哲学者の言葉をスカスカの項目にまとめる本で、大ヒットをつぎつぎに出している出版社である。私は少しでも情報量がいっぱいつまっている本でないと、損した、元をとれないと思う世代である。だからこんなスカスカの本には不満と侮蔑を感じているが、効率的に利用できる情報だけを必要とする世代には、重宝しているのかもしれない。

 私のバイブル的な本を出したリチャード・カールソンだって原理的な本は絶版になり、軽いコラム本がベストセラーとなった。ミンチントンもPHP文庫の原理的な本は絶版となり、このスカスカのコラム本がベストセラーとなった。ジュースが薄ければメーカーの信用を失ったのだが、いまは薄いお茶や水が好まれることと似たようなものかもしれない。

 ミンチントンは劣等感と自尊心の特徴を明晰にとらえたのだが、この本ではその特長をうまくまとめているのだろうか。一読してみるとふつうのポジティブ的な宣言が前面に出ており、劣等感と自尊心のこと細やかな明細を伝えられているわけではないと思えた。

 人と比較や競争をしない、自分の価値は人からの評価と関係なくはじめからそなわっているという自尊心の話はちゃんとしている。だけどPHP文庫版におよぶ内容まではとても言及されていないと思った。

 損であるというよりか、ミンチントンのエッセンスが伝えられていないのである。これではジュースが薄まっただけではなくて、大事な部分を学び損なってしまう。これでいいのかとは思うのだが、リチャード・カールソンの前例でも原理的な本が復刊したというわけでもない。

 人はこの自己啓発本のように、ちょっとした励ましや前向きな言葉でじゅうぶんに歩いていけるのだろう。もっと深く掘り下げて、原理的な内容を知るほどには、人は深く深刻な傷を負っていないのだろう。ちょっと背中を押してもらえれば、それでじゅうぶんなのだ。もっと繊細に、詳細に、それを知るほどまでには深手を負ってないのだ。詳細で深堀な内容なら、ぜんぶ忘れてしまうかもしれない。このくらいの文量で背中を押してもらうのがいちばんなのかもしれない。

 私が知識に求めているのは自分で魚釣りをして、懸命に釣れる場所を探して駆けずり回るのが好きである。でも音楽やパソコン、バイクなどではそれは単なる道具だと思っているので、自分でつくってみようとか、カスタマイズしてみようとは思わない。レストランで料理された魚が出されるのを待っているお客様でじゅうぶんだ。この自己啓発書も、皿に魚が盛りつけられるのを待っているお客様用なのだろう。

 ただ知識というのは、自分で掘り起こさないと自分独自な使えるものにならない量販できないものであると思う。お店にいって買えるものは、自分独自にカスタマイズされたものではない。自分の経験や悩みというのは、自分にしかない独自なものである。それを改善できるのは、量販できる知識ではないのである。知識というものは、自分で掘り起こして、つくりださないと、自分自身に使えるものにはならないのである。

 でもいまの人が待っているだけのお客様がいいというのなら、私もこういうスカスカ自己啓発を書いてみようとかと思う。こういう文量が少ない本のほうがより染み込むという需要があるなら、時代的にはそちらのほうが正解なのだろう。



▼ミンチントンの書評と記事
 『人生がうまくいく、とっておきの考え方』 ジェリー・ミンチントン
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 自分にナイフを向けるな、汚物を喰らうな

 人生がうまくいく、とっておきの考え方 自分を信じるだけで、いいことがどんどん起こる PHP文庫 し 33 1

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Posted byうえしん

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