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恋愛本のおすすめ本・名著15冊

3 Comments
うえしん
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 とある雑誌から恋愛本のおすすめ本三冊をセレクトするようにたのまれた。
資料をあつめるためにむかし読んだ本の書評をあらためて読み返した。
どの本をセレクトしようかな。

 わたしとしては『この人と結婚していいの?』と『なぜ彼は本気で恋愛してくれないのか』、『恋愛セラピー』をおしたいのだが、わたしに期待されているのは「評論・新書・哲学」のジャンルらしい。どうしよう。





4101294313この人と結婚していいの? (新潮文庫)
石井 希尚
新潮社 2002-11

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 男と女のすれちがいに悩む人には最高の名著だと思う。男と女の感じ方、考え方のちがいをこれほどまでに明確に具体例をあげて教えてくれる格好の本はないと思う。

 たとえば女性が「話したくない」といったとき、傷付けられたことを訴えたいだけであって、男は言葉どおりにうけとって黙ってしまいがちになるが、そうではないという。女性は気持ちの共感や同情がほしいだけなのである。

 女性は大切にされているという実感をとても大切にするが、その安全基準がどこにあるのか男にはまったくわからない。だから男性には女性がなんで怒っているのか訳のわからないことが多い。タオルの置き場所を怒ることによって、大切にされていない不安を訴えたりする。男性は女性の感情生活により神経をそそぐことが重要なのである。

 男なら女性の脈絡のない会話に閉口したことがあるかもしれないが、男は要件や用事のない会話はムダだと思うからだが、女性は会話する安心感や共有する充実感をとても大切にするため、沈黙をひどく怖れる。関係が破綻しないよう男はなんでもない会話でも共有する努力を怠ってはならない。

 この本はほんとに男と女の言葉と感情のすれちがいを見事に解明してくれていて、感嘆と発見と驚きの連続の本である。経験したかもしれない男と女の言葉や感情のすれちがいの原因をあちこちで見出すことになるだろう。


4584391793なぜ彼は本気で恋愛してくれないのか (ワニ文庫)
ハーブ ゴールドバーグ 角 敦子
ベストセラーズ 2003-12

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 たぶん女性向けに書かれているのだろうが、男がぜひ読むべき女性にとっての男の性質がどのようなものかを教えてくれる驚嘆の書である。男らしさ、男としてよかれとやっている論理や感情の抑制が、女性を傷つけているとはじつに皮肉なものである。

 「少年のころは、身近な人に頼らない男らしさを見せると好感をもたれました。とくに喜ばれほめられた気質は、自立心旺盛、意欲的、野心的、目標志向、ワンパクさ、責任感の強さ、活発さ、といったところでした。
 ――ところが皮肉なことに、彼を「男らしく」見せていた気質が、将来「無神経」で女性に横暴にふるまう男に彼をしたてあげてしまうのです」

 男は男らしくなろうとしてクールで論理的で無口になろうとするものだが、感情と共感をとても大切にする女性にとってはその態度は拒絶や拒否としかとられかねられないものなのである。

 男として条件づけられたものが、女性との気持ちのすれちがいを数々ひきおこしていることがこの本の中で多くとりあげられていて、本書は感嘆することしきりの本である。もちろん女性として条件づられたものが男にどのような気持ちをひきおこさせるかものべられている。

 この本は男と女の違いをのべた私にとっては赤ラインとドッグ・イヤーだらけの貴重で重要な本になった。男女ともども読んでほしい本である。


4845407299恋愛セラピー (ムックセレクト)
松本 一起
ロングセラーズ 2003-08-01

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 かなりすばらしい本である。喧嘩や嫉妬より、愛したり許したりする気持ちのほうがどんなに大切なことか教えてくれる本である。愛する人を失うために怒りや嫉妬に駆られるわけではないのだから。この本は愛する愛おしさの気持ちをなんども思い出させてくれるかなりいい本である。

 「恋人が出来なかったあなたは、今まで自分のことを大切にしていなかったのです。今日からは、あなた自身を過大評価して、上へ上へ舞い上がりましょう」

 「いいですか、人に自慢しては駄目です。あなた自身に自慢してあげるのです。毎日、自慢してください。あなたはたくさんの人の前でも、堂々とあなたでいられるはずです」

 「恋愛の想像は、なぜかマイナス志向が多いのです。頭で思うって分かりますか。気持ちを鎮めることから始めるのです。好きな人のことを悪く悪くイメージして、押さえ付けてゆくのです」

 「嫉妬しない方法。とても簡単なのです。相手を信じればいいのです。悪い想像力を使って、些細なことを広げなければいいのです。たった、それだけのことです。だって、あなたはその人と別れたいのですか。相手の人のことをすべて信じればいいのです。疑うなんて最低です」

 「あなたが、彼のことを心から愛していたり好きだったりしたら、どんなことでも許してあげるのです。――それとも、自分の我を通して、相手を押さえ込んで、相手に謝らせたいのでしょうか。何日も何日もかかって、相手に謝らせたいのですか。その間、音信が途絶えても自分を優位に立たせたいのですか。好きな人と喧嘩して何が楽しいのですか。ただ苦しむだけなのです」


4480088644夜這いの民俗学・夜這いの性愛論
赤松 啓介
筑摩書房 2004-06-10

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 一冊の本を読み終えたら世界の見え方が変っていたということがあるが、この本はまさしくそのような本である。おおらかで積極的で目からうろが落ちるようなむかしの男女の性体験、性風俗が語られていて、こういう語りこそが大人から人生を教えてもらうというものだろうと思った。

 性をあからさまに語るということはまさしく人の生きざまを語るということなのだと思う。性を語れなくなった現代というのは人生をも伝えられないということなのだろう。性に拘泥せずにおおらかに性を楽しんだむかしの日本人の姿を知ることはかなりのカルチャーショックである。とにかく読むべき本である。


4167540118性的唯幻論序説―「やられる」セックスはもういらない (文春文庫)
岸田 秀
文藝春秋 2008-09-03

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 岸田秀が性についていっていることでいちばんインパクトがあるのは結婚は専属の売春婦になることだということである。そしてセックスは無料ではなく、有料であるため男はどこまでも働かなければならず、それが資本主義の原動力になっているということである。

 要は愛や結婚のオブラートにつつまれた幻想を捨てて、その関係を金銭関係や経済として捉えよということである。まったくそのとおりだ。結婚や性はロマンティックなものではなく、あくまでも金銭取引なのだ。

 ロマンティック・ラブや愛といった幻想は、市場経済を隠蔽する煙幕であり、売春婦が嫌われるのは結婚の金銭売買を隠したり、愛は崇高であるというイデオロギーを完遂させるに必要な目印なのだろう。

 セックスが有料であり、女は売り手であり、男が買い手の役割になったから男はどこまで稼ぎ、資本主義の奴隷労働をしなければならないとするのなら、この売り手と買い手の関係をぜひとも洗い直さなければならないのではないだろうか。


4480062718萌える男 (ちくま新書)
本田 透
筑摩書房 2005-11-07

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 かなり興奮する書物である。革命的であると思ったくらいだ。ぜひみなさんにお薦めしたい本である。

 この本でいっていることは恋愛結婚は終わってしまったということだ。70年代に政治に絶望した若者が見い出した閉塞的な恋愛の世界が、宗教や政治に変わる自我の安定や救済をもたらすものとしておおいに求めたられたのだが、80年代をへて商業化にとりこまれ、恋愛資本主義と化す。神や政治に変わる恋愛という救済のシステムが強迫的な商業システムとなったのである。

 しかし家族や恋愛は崩壊し、晩婚化や非婚化で逃げ出す男女は急増し、狩猟的な恋愛市場に救済をもとめられない男の一部はオタクとして脳内の満足で自己の救済をもとめる思考実験をおこなってきたというのである。つまり他者に救いを求められないのなら、自分で自分を救おうというわけである。萌える男とは自分自身の内側に「神」を見い出そうとする試みなのである。

 私としては恋愛結婚が終焉してまったということにいちばんインパクトがあった。オタクはその商業化に対する反逆であることはわかっていた。恋愛結婚というのは男に対する女の生産的・経済的な搾取であるという一面があるからだ。崇高な恋愛を経済活動にしてほしくないのだ。しかし女にとって恋愛結婚は経済取引であり、いかに高額な利益を得られるかの経済活動であり、オタクはその経済打算に自己の救済をあきらめてしまったのである。

 こういうことは一般的にも大衆的にもよくわかると思うのでこの面をもっと掘り下げてほしかったと思うのだが、この本は「萌え」についての本である。萌え系恋愛ゲームとかアダルト・ゲームの話になると、私は一度もやったことがないし、萌え系キャラというものにもなにも感じないので、いっていることはわかるのだが、いまいち感情移入しにくいところがあった。「恋愛結婚は終わった」という宣言をのべる段階で止めたほうがもっと一般性が獲得できたのになと思う。

 それにしてもものすごく好奇心を刺激される本だった。いろいろな疑問が噴出したし、もっとほかの考え方もできるのではないかと、おおくの思考が頭の中を駈け巡った。いろいろ考えてみたいと思わせる本であった。

 なんといっても恋愛結婚は終わってしまったということがいちばんの衝撃である。商業化にまみれたそれは総スカンや反逆、廃棄を迫られる時代になったのである。オタクはさっさと自我の安定や自己の救済をほかに求めるようになった。女やマスコミはその商業利益を、あるいは共同幻想をいまだに強迫的に追いかけ回している。

 現代は恋愛資本主義にアンチを唱える宣言が必要なのだろう。この本はそのくさびを打ち込む宣言書になった。あるいは萌える男についてより、恋愛資本主義の終焉をもっと声高に主張するべきであったか。

 恋愛という神は、あるいは恋愛という商業主義はもう捨て去らなければならない――経済化されすぎたそれは若者の総スカンを喰らいはじめているのである。このことをわれわれはしっかりと認識するべきだ。その反逆を早くから行っていたのがオタクであり、かれらは新しい思想運動を生み出そうとしていたのである。

 いろいろ啓発されることの多かったこの本を私の「GREAT BOOKS」に推したい。


4062759241電波男 (講談社文庫)
本田 透
講談社 2008-06-13

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 本田透は女性向けに本を書くべきだと思う。それも負け犬女性向けに。カネにまみれた恋愛を呪詛するのである。男に萌えのススメを書くより、女性に恋愛資本主義の終焉をアナウンスすべきなのである。それでこそ本田透のメッセージは真価をもつものだと思う。

 この本はあまりにも過剰な文章やおちゃらけが多すぎ、買うのを何度もためらった。恋愛資本主義については興味があったのだが、その過剰さで読めなかった。『萌える男』(ちくま新書)でようやくこの本の意味がわかったが、読んでみるとやっぱり大部分を削ぎ落としてほしいと思ったのは変わらない。鋭い読みには感心することも多いのだが、やっぱり感心しない。

 恋愛が商業化され、金にまみれた売春になってしまったという本田透の嘆き。男はうすうすそのことに勘づいているのだろうが、たぶんメッセージや思想として声を大にして批判するということがなかった。なんとなくいやだな、と晩婚や非モテに退去するしかなかった。

 オタクだからこそ――女にモテることをあきらめ、二次元の美少女に癒されることができるからこそ、オタクの中から恋愛商業主義の汚さや醜さ、からくりをあからさまにして罵ることができたのである。商業主義の連中がオタクを嫌悪するのは、その不安であったのかもしれない。みんなで恋愛という共同幻想をやらないからである。

 ほんとうにもうこの恋愛資本主義はどうにかならないものかと思う。純愛だとか精神的な愛だといっているうちに恋愛は商業化し、売春化してしまったではないか。金の排除を宣言しておきながら、見事に金目当ての恋愛に終わってしまったではないか。

 愛する気持ちも人を慕う気持ちも、女性の性や身体もすべて商品化され、金の取引や交換、ビジネスとなり、けっきょく金のためだけに恋愛や結婚する世の中になってしまったではないか。おそらく男女分業や労働の性差別、処女や貞操のイデオロギーなどがつくられたときにその帰結は決まってしまっていたのだろう。

 男女の関係は完全に金銭関係に支配されてしまったのである。私たちはこんな関係や世の中を望んでいたのだろうか。恋愛関係に絶望し、晩婚やオタクとしてひきこもってしまうのは故なきことではない。

 70年代に政治に絶望した日本人はいままた希望の光であった恋愛に絶望する時を迎えたのである。愚かな夢であった。恋愛や美少女アイドルに崇高な価値があるという国民的熱狂。政治に絶望したからといって、恋愛に国民的崇拝を見い出すのはあまりにも愚かであった。それは恋愛の金銭化と売春化という最悪の結果に落ち込み、ひとりのオタクにその死を宣告された。井上陽水に「傘がない」と政治の死を告発されたみたいに。

 私たちは恋愛が死んでしまったということに気づくべきなのである。そしてその共同幻想、あるいは宗教から目を醒ますべきなのである。まるで私たちは新興宗教のお守りとか水晶に大金を巻き上げられる信徒のような存在であったのである。その尖兵が負け犬女性であったのはいうまでもないことだ。

 私たちはこの絶望の丘で男と女の関係をどのように構築していったらいいのだろうか。私は残念ながら本田透が提唱するような二次元の萌えには希望は見い出せないが。


4821108429恋愛自由市場主義宣言!―確実に「ラブ」と「セックス」を手に入れる鉄則
岡田 斗司夫
ぶんか社 2003-07

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 この本でいっていることは、「運命の人」幻想を捨てよということである。ひとりの人に独占欲や束縛を課すのではなく、恋愛もセックスももっと気軽に広く浅くおこなえということである。一夫一婦制はムリをしすぎているということだ。それを恋愛自由主義というのだろう。

 女性はむかしから二つの戦略を発展させてきた。娼婦型は薄く広く男に負担を求める戦略で、対して淑女の戦略は一人にぶらさがって、徹底的に食い込んでゆく。淑女型は終身雇用時代の一夫一婦制であり、娼婦型は会社を移るフリーターのような生き方である。

 終身雇用が崩壊した現在、淑女型は非現実的になりつつあり、岡田は女性の生き方は風俗のようなものでいいんじゃないかといっている。実情に合っているし、ラクなんではないかと。

 一夫一婦制というのは子どもを安定的に育てるための制度であり、政治的には管理しやすかったから、戦後の経済統制社会では求められてきたのだろう。会社への滅私奉公とか終身雇用が崩れさるということは、必然的に女性との関係も終身婚の誓いが消えてなくなるということである。ひとりの男に終生、愛を誓うといった「オンリーユー・フォーエバー」幻想は音を立てて崩れさろうとしているのである。

 われわれは「一人の人を生涯、愛することがすばらしいことだ」とか「結婚したらほかの人を愛してはならない」という思い込みを拭いがたく心の底に刷り込まれている。だから恋愛自由市場的な生き方をする人には「人でなし」とか「ろくでもない人間」だとかの反感を感じることだろう。

 滅私奉公のサラリーマンがフリーターに感じる気持ちと同じである。会社への感じ方と恋愛への感じ方はパラレル(平行)だと考えていい。

 新しい世代は親の世代がやってきた「会社人間」とか「運命の人」幻想の欠陥やウソっぽさをいやというほど目の当たりにしてきた。そんなものは社畜とか専属の売春婦にすぎないと子どもたちは見抜く。だからそんなものは信じていないし、そういう仕組みから逃げ出したいと思っている。ただ制度の有利さが足かせになって、かれらを押しとどめているだけである。

 終身婚やがちがちの一夫一婦制、あなただけを愛すといった「運命の人」幻想は、遅かれ早かれ自由主義にとって替わられるのだろう。官僚主導の統制経済が終わるとき、恋愛や結婚の自由化もはじまるのである。

 われわれはひとりの人に全存在を賭すような関わり合いを終えてゆくのだろう。そしてそういう気持ちもやめなければならないのである。たったつひとつの保険にすがりつくことはあまりにもキケンな生き方なのである。ひとりの人だけに愛を誓うといった重みも恋愛や男女関係から消えてゆく。

 恐れることはないのだと思う。おそらく明治以前の日本人はこういう生き方をしていたはずである。恋愛や結婚、セックスはもっと軽くて、いまのような重い意味はなかったのだと思う。私たちは重い恋愛結婚のオリの中からようやく抜け出そうとしているのだろう。

 政治で謳われているような規制緩和とか小さな政府といったものは、われわれの恋愛や結婚も自由市場化してゆくということなのである。それが改革の真の意味であり、完成であるということだ。われわれは政府や国家に決められた生き方からようやく解放されるのである。


4087471160恋愛は少女マンガで教わった (集英社文庫)
横森 理香
集英社 1999-10-20

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 たぶん男のわたしも少女マンガの影響をいくらか受けていると思う。アニメの『キャンディキャンディ』に熱中したり、アネキのマンガを読んだりして、少女マンガ風の一途な恋愛感情といったものを知らず知らずのうちに刷り込まれていたと思う。

 ゲンジツを知ったオトナの目から見ると少女マンガは恋愛のカンチガイと誇大妄想の宝庫である。著者はそのブッとび具合を見事に解説してくれて、この本はとてもおもしろい。

 カンチガイと誇大妄想はときには恐ろしくなる。自分にはすばらしい才能が眠っていて、それをコーチが発掘するという物語は『エースをねらえ!』などにあって少女はダイスキなわけだが、自分はこれだけの人間ではないという想いはこんなところで植えつけられたのかもしれない。

 少女マンガというのは女のエゴイズムと全能感をどこまでも満たす空想である。エゴがどこまでも満たされるひじょ~に自分の都合だけが通る空恐ろしくなるくらいの物語りである。オトコはたえず二人が愛してくれて片一方がダメだったらもう一方に落ち着いたり、努力しなくても足長おじさんのような存在が助けてくれるといったタナからボタもち的物語りが満載されているというわけだ。でもそのなかにはひじょうに深い人生観とか恋愛洞察とかがつめこまれていると著者はいっている。

 エゴと自己都合だけが通るマンガはたしかにとても楽しくて満足するものである。でもゲンジツというのは、たいがいその逆であり、またどちらでもなく、こういうカンチガイの刷り込みはよいことなのか、よくないことなのかちょっと考えさせられた。

 どこまでも満足できない人間をつくりだしたとするのなら、やはり不幸なことだろう。エゴと自己都合が通る認識をつくってしまうと、たいがいのゲンジツはガマンならなくなってしまう。刷り込まれたエゴに振り回されているのに気づかない結果になってしまうかもしれない。でも人はずっと昔から自分の思い通りになるマンガや空想が大好きなのである。


4022615389私の居場所はどこにあるの? 少女マンガが映す心のかたち (朝日文庫)
藤本 由香里
朝日新聞出版 2008-06-06

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 少女マンガを分析するこのような優れた本はもっとたくさん出てほしいものだ。マンガを分析するということは、知らず知らずのうちに刷り込まれた原イメージをもういちど捉え直すということである。私たちは思いのほか子供マンガのくびきにかけられている。

 少女マンガの根本的なテーマは自己否定されている自分を、ほかのだれか(好きな男)に肯定されて居場所が与えられることだそうである。女性は自己否定を両親から与えられ、男によって補完しなければならないわけだ。

 ドジでマヌケな私だけど、「そんな君が好き」と乙女チックマンガはいってきた。男に愛されてしか存在の肯定を得られない女性はたしかに苦しい生き方だ。「人ひとりが完全であるために、他の人間をこれほど欲さなければならないというのはどういうことだ。わたしという人間はそれほどまで欠落した部分を持って生まれたのか」

 少女マンガはこの闘いや克服をこれからもくりひろげてゆくことだろう


4061493388<非婚>のすすめ (講談社現代新書)
森永 卓郎
講談社 1997-01-20

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 この本で驚いたことは、戦後の核家族化は企業の生産性向上のためにおこなわれたということだ。子育てに時間をとられたり、扶養費がかさむようでは企業は利益をあげられないので、その年に生まれた子どもの半数、あるいは出生数以上の中絶が企業の洗脳によっておこなわれたのである。

 ぎゃくに戦時中は兵力と労働力のために「生めよ、増やせよ」で大家族が形成された。われわれの家族のあり方はそのときの国家や企業によってコントロールされてきたのである。国家や企業がここまで浸透しているとは不気味なことだ。

 それにくらべて明治初期の離婚率は四割近くもあり、転職率も世界一だったそうである。明治の時代のほうがよほど「先進的」である。ただそれだけ市場の洗礼が激しかったとはいえるけど。


4062733897掟やぶりの結婚道―既婚者にも恋愛を! (講談社文庫)
石坂 晴海
講談社 2002-03

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 恋愛や結婚についての鋭くて深い洞察だらけで、痛く感服した。引用します。

 「幻想は崩れるよ。でも実際はもっとひどい。エゴ、タカビー、がめつさ、嫉妬深さ、陰湿、冷淡、ヒステリック、まだまだあるけど、そういう生身の女の子のすさまじさに男はことごとく傷つけられながら、ようやく安全な身の置き所を見つける。それがおじさんという立場なんです」

 「会話がない。たったこれっぽっちのことで不倫に走る。なぜなら女にとって「しゃべる」は快楽でありエクスタシーだからだ。その快楽を無視という屈辱的なやり方で取り上げられる」

 「オンナは言葉を覚え、オトコは顔を覚える、と聞いたことがある。自分を小バカにしたようなあの時の顔、ヒスを起こした時の夜叉のようなあの顔、は克明に記憶するらしい。しかし言葉はほとんど覚えない。実際、オンナから見るとオトコの言語記憶能力は赤ん坊並みである」

 まだまだ男と女の鋭い洞察はこの本の中にはたくさんあるが、ふつうの人の声をあつめたこの本はどうしてこんなに鋭い洞察力に満ちているのかと思った。


4022643862結婚の条件 (朝日文庫 お 26-3)
小倉 千加子
朝日新聞社出版局 2007-01

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 鋭い本であると思った。感嘆の贈り物をたくさんしてくれる本である。

 といってもライト・エッセイであるが、フツーのあたりまえのことをいっているのだと思うのだけど、読みは鋭いと思われた。結婚と女の人生についていろいろ学べる。

 著者は短大で女子学生にアンケートをとった経験から、晩婚化は進むと予測した。なぜ専業主婦に固執するのかと尋ねると、女子学生は「自分の時間が持ちたいから!」と答えたそうである。女性はすでに結婚のほかになにか人生の目的があるように思っているのである。結婚はその生活の保証をしてくれる手段でしかない。

 女性は男に扶養されるをあたりまえだと思っている。「女は真面目に働きたいなんて思っていませんよ。しんどい仕事を男にさせて、自分は上澄みを吸って生きていこうとするんですよ。結婚と仕事と、要するにいいとこどりですよ」

 「専業主婦とキャリア志向の「いいところどり」である。経済は夫に負担させ、自分は有意義な仕事で働き、なおかつ家庭も持っている」

 「生活のための労働は、奴隷(男)にさせ、自分は貴族のように意義ある仕事を優雅にしていたい……。今や単なる生活費稼ぎの労働は、男と親と老人だけがするものになりつつある。~あらゆるつまらない労働、人間がしなければならない「当たり前」の労働から、若い女性たちが総撤退を始めている」

 「ラクしたい」「働きたくない」「苦労したくない」――これは若い女性だけが望んでいるのではなくて、若い男も同じことである。女性は男にそのように要望しておきながら、どうして男も同じように考えると思わないのだろうか。

 女は男に養われる特権を当たり前だと思い、さらに安定した完璧な生活保証を男に望み、そのうちに若い男たちは働く気をなくし、経済は転げ落ち、若い男たちは不安定雇用に従事し、収入も安いという状況になりつつある。だれもがソンな役回りに回りたくないと思い、おそらく男が養い、子どもを育てるという当たり前の役割すら、みんな放棄してしまうのだろう。

 戦後の当たり前の役割にみんな無自覚におんぶして、腐りはじめてるのだと思う。女は男に養われるのが当たり前だと思い、男は会社に養ってもらうのを当たり前と思い、子どもは親に養われるのが当然だと思っている。そういう約束の上にあぐらをかいて増長した人たちがたくさんあふれ返っている。戦後の社会はなにを生み出したのだろうと思う。

 みんなラクしてソンな役回りはだれかに押しつけて、奪いとろうとしか思っていない。ソンな役回りは男や親の、あるいは女にとってもとうぜんの義務なのである。こういう押し付け合いの社会はたぶんみんなでイタイ目に合ってはじめて、謙虚に多くを望まず、条件を素直に受け入れる人たちを生み出すのだろう。

 欲望の消費社会は商品やサービスのみならず、男や社会にかなり高レベルな要求水準を当たり前のように望む女性たちをたくさんうみだした。女たちがソンな役回りから逃れたいと思っているのなら、男だって同じように考える。いったいだれが好き好んで奴隷のように下支えしてくれるというのか。性別役割の上にあぐらをかく無自覚な女性にはなってほしくないものである。もとい謙虚にいうなら、男も女に育児や家庭を押しつける役割もそうである。


4022640952美人論 (朝日文芸文庫)
井上 章一
朝日新聞社 1995-12

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 これは美人についての本ではない。美人がどう語られてきたかということの本だ。

 明治のころには美人は罪悪であり、バカであるといわれており、現代では美人はほめたたえられ、だれでもなれるものになった。その理由を解いたがこの本だ。

 美人はかつて立身出世男の優越の目印として学業のなかばでも嫁にもらわれてゆき、したがって卒業する学識ゆたかな不美人の嫉妬となぐさめのために美人罪悪論がとなえられたというわけだ。ぎゃくに現代ではマーケットの要請から、だれもが美人になることを目指してくれないと業界は拡大しないということで、美人の民主化がおこっているというわけだ。

 美人観の変遷を、結婚市場と産業市場、教育のつながりからのべたこの本はなるほどなと納得させる本だ。

 おかげで大衆市場と国民国家や福祉国家の関係もこういう見方でつなげられることに気づいた。つまり国民国家や福祉国家は、国民が産業や総力戦に奉仕するためのご褒美であったというわけだ。


4062567954わかりあえる理由(わけ) わかりあえない理由(わけ)―男と女が傷つけあわないための口のきき方8章 (講談社プラスアルファ文庫)
デボラ タネン Deborah Tannen
講談社 2003-11

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 男と女の言葉と感情のちがいをもっと理解したいと思って読んだ。『この人と結婚していいの?』の後に読むと同じようなことが書いてあるように思うが、この本もけっこう重要なことが書かれているのだろう。

 女性は男性が悩みを聞いてくれないと訴えたりするが、それは女同士では悩みの共感や同情によって慰めるが、男同士では悩みを否定することによって慰めるからである。男同士は地位のレンズで見るから同情することは相手を見下すことになり、思いやりから同情を控えるのである。

 女性は自分の思っていることや感じていることを話す相手がいないと孤独感にさいなまされるそうだが、しかし男性はよほど重要なことか、要件のないことでないと口に出してはならないと思っている。女性が第三者にプライバシーを話すのは男性にはひじょうに不快なのだが、女性は秘密を話すことは親和を強めるための一種の義務なのである。

 私は男と女はあまり変わらないと思っていたが、一種の違う文化圏に生きているんだなとあらためて思ったしだいである。でも脳が原因ではないと思う。文化と慣習だ。


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うえしん
Posted byうえしん

Comments 3

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たいく~ん
お久しぶりです。

雑誌から依頼が来るとは凄い!
うえしんさん、職業ブロガーになれますよ。

恋愛本で僕が衝撃を受けたのは、山田鷹夫さんの『超愛』(三五館)です。
もし読まれてなかったら、是非読んでみてください。

  • 2011/10/24 (Mon) 20:07
  • REPLY
うえしん

たいく~んさん、おひさしぶり。

雑誌といってもふつうの人が毎月千人も登場する雑誌ということなので、街頭インタビュー程度のもの。文章も超短いので、物書き系の道が開けることはないでしょう。

『超愛』はチェックしてみます。

K
No title

恋愛資本主義は終わっても「恋愛」は終わらないのではないでしょうか。
そもそもオタク産業自体も、オタクの2次元キャラへの恋愛感情を原動力として発展している業界な訳ですから、それは恋愛資本主義の変種だと思われます。

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