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2022年、ことしのベスト本、4冊

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うえしん

 2022年もしょうこりもなく、神秘思想の本ばかり読んでいました。図書館という資料が膨大にある書庫を利用するようになったので、ひとつのテーマがどこまでも探究できる壺にはまってしまいました。ことしは壺の年ですね。

 ほんらいはインド思想由来しか役に立たないと思うのですが、西洋思想やキリスト教に神秘思想を探すというあまり実りのない探究をつづけてしまいました。なんせこんにち、インド思想なんて相手にされず、西洋思想しか顧みられない時代ですから、西洋権威のハクをつけたいというよこしまさも手伝いました。

 そんな中、7月ころから私が感銘をうけた神秘思想家の紹介をまとめるkindle本を書きはじめました。クリシュナムルティとかラジニーシとかマハラジなどのまとめです。読書も、ブログも、Twitterもおろそかにして、執筆に集中していました。あとに残るものは本だけです。本には真剣さの賭ける度合いが違います。

 タイトルは、『セラピーとしての神秘思想家入門』にしようかなと思っています。げんざい9割くらいは書き上げ、21万字の文字数になっています。300ページは越えるのでしょうか。神秘思想を現代的なセラピーや心理学として読みこもうとした本なので、興味ある方はぜひ応援のほどをお願いします。神秘思想家の要点をつかめます。


■2022年、ことしのベスト本

 ことしは4冊だけ選出しました。

    将来の哲学の根本命題―他二篇 岩波文庫 青 633 3 フォイエルバッハ

   将来の哲学の根本命題―他二篇 岩波文庫 青 633 3 フォイエルバッハ


キリスト教の本質 上 岩波文庫 フォイエルバッハ

 キリスト教の本質 上 岩波文庫 フォイエルバッハ



 私の書評:フォイエルバッハ『将来の哲学の根本命題』
 フォイエルバッハ『キリスト教の本質』

 フォエイルバッハはマルクス主義とからめられるから、てっきり経済思想でも語っていると思っていましたが、てんで関係ない宗教だけを語っていました。それも神の正体をばらし、人間の知性の浅はかさを嘲笑っているかのようでした。

 すなわち神は人間の理性や思考が投影されたものにほかならなく、人間から切り離して、神の崇高さに知性を祭り上げているのだと暴露しました。神の批判というより、私には知性の批判に思えました。知性を無限や不死や不滅の神棚に祭り上げている人間のたくらみが白日の下にさらされていました。

 ケン・ウィルバーは観念だけに同一化する人間は、死を恐れたために肉体を切り離し、その不死と思われる観念の自我にみずからを限定したのだと喝破していましたが、これはほぼフォイエルバッハの見解と重なります。神は人間の観念の投影であり、不死をそこで手に入れられると人間は思い違いをしたいのです。

 最高の本に思えました。思わず喝采を叫びたくなる本でした。毎ページは赤線ばかりに埋まりました。

 気になるのは、このフォエイルバッハの見解が人々にどのような影響を与えたかということでしたが、なぜかこの宗教論がマルクス主義に呑みこまれたのかナゾでしかありません。宗教論といえば、こんにちの人は興味が向かないかもしれませんが、これは知性を批判した本であり、宗教には知性の崇拝化が刻印されているのだという批判的な読み方ができるだろうと思います。

 ニーチェの「神は死んだ」の言葉が有名ですが、ニーチェも読んだと思われるフォエイルバッハの宗教批判のほうがよほど内容が苛烈で、豊穣でした。

 


    ドイツ古典哲学の本質 岩波文庫 赤 418 5 ハイネ

   ドイツ古典哲学の本質 岩波文庫 赤 418 5 ハイネ



 私の書評:ハイネ『ドイツ古典哲学の本質』

 ハイネといえば、詩人のイメージが強いのですが、ドイツの宗教思想史、哲学思想史をまとめて、明晰・簡明にまとめているとは思いもいませんでした。

 こんにちでいえば、思想史を池上彰や浅田彰がまとめているような軽妙な語り口に、ついついひきこまれます。

 この本は精神と物質の対立を軸に、ドイツ思想史がまとめられているのですが、フィヒテやヘーゲルの観念論と、ルターの宗教改革が同じ思想史のうえで語られており、いっそうの理解を助けられるものだと思います。

 汎神論のようなこの世界が神のすべてだという見解と、世界の外にあって世界を時計のように運営する超越神の対立も語らていて、ハイネはさいしょ汎神論の立場のようだったのですが、のちに超越神に鞍替えしたようです。私は汎神論こそに興味があるのですが。

 フランスでは王政が倒されましたが、ドイツでは超越神が倒されたのだとドイツの革命を誇る本です。

 ドイツ観念論あたりがわからないなと思う人は、ぜひとも手にとられることをおすすめします。



    地中海の無限者―東西キリスト教の神‐人間論 落合 仁司

   地中海の無限者―東西キリスト教の神‐人間論 落合 仁司



 私の書評:落合仁司『地中海の無限者』

 この本がおもしろいと思ったのは、ギリシャ哲学の継承者は西欧とされていますが、ほんとうの継承者は東欧のほうではないかと語った点です。キリスト教はギリシャ哲学で咀嚼されて、その正当な継承者は東方キリスト教にあるのではないかと語りました。

 ギリシャ哲学の継承者はこんにちの世界の支配者・西欧――フランス・ドイツ・イギリスのように思われていますが、われわれは西欧の異なった思想を主流だと思いこまされているだけなのではないか、と懐疑がきたします。

 ギリシャ哲学は中世にいちど忘れられて、近世にイスラームから再流入したことになっていますが、東欧ではいちども忘れられたこともなく、キリスト教の正当な継承者だったのではないかということです。だから「正教」とよばれています。

 なにより正教には神と合一する・神になるという神秘思想的な教えが残っています。西欧のキリスト教は「私は神である」といえば、異端か、処刑です。西欧のキリスト教理解は、ほんらいの合一思想的なものをより遠ざけた傍系的なものではないでしょうか。

 この著者はほんらいは経済学者のようです。経済学者が宗教論を出せば信頼が薄いのかもしれませんが、ぎゃくに人がひとつのジャンルにしか興味がない、研究できないとことがおかしいとはいえますがね。


 以上の4冊がことしのベスト本になります。

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うえしん
Posted byうえしん

Comments 1

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「思考を捨てる安らかさ」は発売してすぐ買いました。
感銘を受け、今回の本も面白そうで、楽しみにしています。

  • 2023/01/12 (Thu) 23:20
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