鳥越さん、逃げないで!

週刊文春が書いた鳥越俊太郎氏の女子大生「淫行」事件。
記事に対する鳥越氏とその応援団の対応があまりにひどいので一言言わせてもらおう。

私は鳥越氏にいろいろとお世話になっている。
横田めぐみさんを北朝鮮で目撃した亡命者のスクープ証言を私が持ち込んで報じてもらったのは鳥越氏がMCをやっていた「ザ・スクープ」だった。仕事上の付き合いは長く、18年前、私の会社の設立パーティで乾杯の音頭をお願いしたのも鳥越氏だったし、その時いただいた時計は今でもオフィスの壁で時を刻んでいる。
しかし、お世話になったことと都知事としての適性、そして今回の記事の問題は別の話だ。

まず、記事への対応があまりにも情けない。
週刊文春の記事については7月21日午前、鳥越氏の弁護団が名誉棄損と公選法違反の疑いで東京地検に告訴状を提出した。すると鳥越氏は「私は弁護士の方に一任している。それ以上のことを言うつもりはない」とだんまりを決め込んだ。
産経新聞より―
《東京都知事選に立候補している鳥越俊太郎氏は21日夕、東京都中野区での街頭演説の後、週刊文春が「『女子大生淫行』疑惑」と題する記事を掲載したことについて記者団の質問に答えた。
 --鳥越さんはジャーナリストなんですけれども…
 はい
 --司法の手に委ねるという、言論で返すということはお考えではないのですか?
 ああ、できるだけ地方にですか?
 --ではなくて、あの、今回の週刊文春の件をジャーナリストという立場で告発するということはどうなんでしょうか?
 いや、それはもちろんありますけども、とりあえずは、事実無根なのできちっと法的措置を取ることがまず大事だと思いましたので、そこから始めたいと思います
 --実際に記事に書かれた女性と、当時は別荘にいったというのは事実なんですか?
 ま、そういうことも含めましてね、これはあの、裁判になったり法的な問題ですので、うかつに私の口から具体的な事実についてあれこれ言うのは控えさせてください。これはすべて、そういう問題については、私の法的代理人である弁護士の方に一任をしております。以上です。
 --政治的な、何か背景があるみたいなことをおっしゃってらしたが。それは何なんですか?
 はい?
 --政治的な力が働いたみたいなことを先ほどにおわせてましたけれども
 いやいやそれは、私のまあ、感想なので、あんまりそれは感想なので、事実を確認したわけはないので、それをあんまり強く言うことは控えたいと思います。
 --大きな力が働いたと思われた理由はどういったところなんでしょうか?
 いや、理由は何もありません。僕のカンです。私は51年間この仕事をしてきて、直感をいつでも働かせながら仕事をしてきましたんで、直感である程度そういうことはあるかもしれないな、というのはまあ、思った次第…それは何も事実があるわけではありませんので、こういう事実があるからこうだ、というつもりは全くないです。
 --相手の女性にまったく心当たりはないんですか?
 はい?
 --相手の女性に心当たりはありますか?
 それについても、一切ここで私は答えるつもりはありません。そういうことも含めて、そういう私の法的代理人弁護士の方に、まあ一切、そこが窓口になってますので、そこで、通してください。これ以上のことを言うつもりはありません
 --結果として今回の報道でイメージダウンというのは避けられないという見方もあるんですが、それについてはどう思われますか
 ま、それももう私は私なりにちゃんと受け止めてますので、具体的には、それがどうなるかということについてはですね、私が何も感想をいう立場にはありませんので、それについて、もし影響がどうかということをお聞きしたいんだったら、私の弁護士の方にちゃんと聞いていただければ、お答えできると思います
 --少なからず不安に思っている都民もいるかと思うんですが?
 はい?
 --少なからずこの件について不安に思っている都民もいるかと思いますが…
 まあ、それはだから私がきちっと法的措置をとったということで、不安はできるだけ解消していただきたいと思います。断固たるつもりで私はやっていますから。
 --政治家になろうとしているのであれば、まず説明する責任があると思うが、それはどうでしょう
 はい。もちろん…
 --この場で…
 だから、それは説明の責任はきちっと私の法的代理人のところからきちっと説明させていただきます。
 --本人が説明するのが筋では…
 いやこれはですね、告訴状を提出いたしましたので、今後は法的な裁判とかいうことになってまいりますので、それの具体的なことについて、私の一存で具体的に言及するのはここでは控えさせていただきます。以上です、ありがとうございました。》
相手の女性に心当たりがあるかどうかさえ、「弁護士に一任しているから言えない」。舛添氏や汚職が発覚した政治家を思い出させるが、このやりとりを聞いて、鳥越氏が「シロ」だと思う人がどれだけいるのか。一任しているという弁護団も説明する機会を設けないので、結局、何も語られないままだ。
きちんと記者会見を開いて釈明すべきだろう。政治的陰謀だなどと根拠のないことを言いながら逃げ回るのはやめてほしい。あまりにも見苦しい。

何とか文春記事をおとしめようとする鳥越氏の応援団もひどい。
まず、ずいぶん前の話なのに選挙中のこのタイミングに出るのはおかしい、政治的なウラがあるのではないかと記事を批判する。
これはまったく逆で、鳥越氏が都知事に立候補したからこそ、その適性を問うという記事が出せたのである。鳥越氏が私人であれば記事にしがたいプライベートな問題でも、候補者になっているのだから公共性は十分にある。
また、証言した「被害者」の夫は、「この十数年、私たち夫婦は我慢してきました。けれど、もし彼が都知事になったら、いつもあの顔を目にすることになる。それは耐えられません」と記事で言っている。鳥越氏が立候補しなければ、そもそも取材に応じることはなかったのだ。
それに週刊文春は、これまで与党系の政治家を何人も血祭りにあげている。右も左もない。「右」がやられたら拍手喝采し、「左」がターゲットになると「政治的」「陰謀」などと騒ぐのはダブルスタンダードである。

あるジャーナリストはツイッターにこう書いている。
《仮に別荘に行ったのが事実であり、キスをし、それ以上の性行為には至らなかったのも事実だと仮定して、何が問題になるのか。ある弁護士は匿名で「その記事の通りだとしたら、犯罪性はない」と語った。》
たしかに「犯罪性」はない。強姦していたとしても時効である。しかし、ここでの問題は、刑事罰を科すことができるかどうかではない。都知事としての「品性」が問われているのだ。

さらには、たかがキスされただけじゃないか、などというハラスメントまがいのツイートまで見受けられる。
記事にはこうある。
《鳥越氏は強引にキスをすると、抵抗するA子さんにさらに迫り、こう言い放ったという。
「大人の恋愛というのはこういうものだよ」
結局、行為は未遂に終わったが、「バージンだと病気だと思われるよ」と言ったばかりか翌日、東京へ戻る車中で鳥越氏はA子さんに「ラブホテルに行こう」と誘ったという。》
被害者の夫によると、「A子さんは今もなお、事件のトラウマに苦しみ、ときに自殺を口にすることさえあるという」。
「キスされただけ」でないことは明らかではないか。別荘に誘ってからの一連の流れを考えると「淫行」という表現ではおさまらない可能性がある。

鳥越氏の弁護団は文春を刑事告訴したが、これは鳥越氏サイドにとっては最良の戦術だったと思う。これでテレビは腰が引けて、文春の記事の内容を紹介せずに「告訴した」というだけのニュースを流している。
法的代理人の名前を見ると、なんと弘中淳一郎氏ではないか!
「情熱大陸」で取材させてもらった「無罪請負人」といわれる、私の尊敬する弁護士である。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20110421

先日書いたように、私は事件の舞台になった大学の関係者とも親しいので、この記事に関しては、知り合いばかり。でも言うべきことは言っておかないと。