生物学者長沼毅と惑星物理学者井田茂による共著で、アストロバイオロジー入門的な本。知的生命体の可能性についても触れられている。おおむね、前半を長沼、後半を井田が担当していると思われるが、部分的には必ずしもそうなってないところもある。
地球外生命の存在について、天文学者や物理学者は、条件が揃えば生まれると考える「確信派」が多いのに対して、生物学者は懐疑派が多い、とまえがきで書かれている。井田と長沼は、言ってみればそれぞれの代表ということになる。
地球外生命がいるとしたら、どのような姿をしているのかというのは、これまでにSF作家が数え切れないほど考えてきたことだろうと思うが、それが科学的に検証することのできる話題になりつつある、というのが本書の面白いところだと思う。
後半はもはや完全にSF
第1章 地球生命の限界
- 1 辺境の生物たち
バイオマスの概算
植物:1兆〜2兆トン
動物:100億に近い数十億トン(そのうち、3.5億トンが人間、家畜は20億トン)
微生物:2000〜3000億トン
地下生物:400億トン
チューブワームのスーパーヘモグロビン(硫化水素も運べる)→体内に硫黄酸化細菌
- 2 高温・低温・乾燥に耐える
高温の限界:高井研が122℃で増殖するアーキアを報告(ただし、高圧で。高温だったり高圧だったりすると、タンパク質が不可逆変性する。高温かつ高圧だと、より高温でもいける)
低温の限界:−20℃(ただし高圧で)
油の中で生命は生きられるか(細胞膜は油で溶ける)
放射線をあてる→水が「ラジカル」になる→ラジカルが生命にとって有害
広塩菌バチルス→2億5000万年前のバチルスがよみがえったという報告あり(コンタミも疑われているが、長沼はコンタミの可能性は低いとみる)
第2章 地球生命はどのように生まれ進化したか
- 1 生命のふるさと
GADV仮説→遺伝暗号が、昔はもっと単純な、4種類のアミノ酸だけをコードするものだったのが、次第に複雑になっていったという仮説(池原が提唱、まだあまり知られていないらしい)
生命の誕生は偶然か必然か
天文学者は必然派が多い、生物学者は偶然派か折衷派が多い
生命のスープ仮説に対して
・パイライト仮説
・火星起源説
パイライト仮説→原始スープ説が有機物の存在やエネルギー源に対して説明がないのに対して、こちらはそれらも自前で用意できる
火星起源説→陸地がないとミネラルが海に供給できないので生物が誕生しない→40億年前は、火星の方が地球よりも海と陸のバランスがちょうどよかった。
長沼:彗星起源説
- 2 知的生命体への進化
酸素の増大に対する抵抗→遺伝情報を担う細胞は奥にやり、それ以外の細胞で守る→これが生殖細胞の起源ではないか(長沼)
「人間にとって不幸だったのは、卵子以外の死すべき運命の部分に意識が発生したこではないでしょうか」→なるほど、そういう考えがあったか! と思った
低酸素に適応したのが、恐竜・鳥の気囊
知性には酸素が必要なのではないか(脳は大量の酸素を消費するから)
第3章 地球の生成条件が少し変わっていたら
- 1 ハビタブル惑星のできかた
惑星の表面温度
→大気がある場合、反射率と温室効果もあわせて考える必要がある
→ハビタブル・ゾーンの見積もりに幅ができるのは、そのせい
水はどこからきたのか
H2Oが凝縮するのは、宇宙では−100℃くらいで、太陽系の場合3天文単位以遠。これを「スノー・ライン」と呼ぶ
スノーラインは必ずハビタブル・ゾーンの外側にできる。
彗星か小惑星が水を運んできたのではないか
→小惑星が有力(重水素/水素比が地球の水と同じだから)
最近ちょうどこんなニュースが
Nature ハイライト:小惑星ケレス表面の水蒸気 | Nature | Nature Research
この発見は、彗星のような氷天体が、初期太陽系を乾いた内領域と氷に富んだ外領域に分ける概念的な「スノーライン」の向こうから小惑星帯へ移動してきた可能性があるとする理論モデルを裏付けている。
マグマの海と当時の大気の水素が反応して、地球の水ができたという説もある。
水の起源は、その量も問題
生命誕生には陸地が必要説
→生命の構成元素は、太陽の構成元素とだいたい同じだが、リンだけが特別。リンは大気中を循環しないので、陸地から水に溶けるものしか供給されない。
→水が多すぎると生命が誕生しなかった?
→小惑星起源説は、地球の水の量について説明できない(偶然にたよる)
→マグマ・水素反応説だと、ある程度必然的
- 2 月と宇宙環境
月が今と大きさが違ったり、もしなかったりすると、地球の自転周期や自転軸の傾きがおおきく変わっていた
磁場の必要性
太陽サイズの恒星:G型星
太陽より軽い星:K型星、M型星
太陽より重い星:F型星、A型星、B型星、O型星
太陽より重いと寿命が短いので、生命進化にとって不利
M型星について考える(数が多いから)
ハビタブル・ゾーンが中心星により近くなる
→紫外線やX線が多くなる→生命にとって不利
→いつも同じ面を中心星に向けている→昼側と夜側の境目なら生命誕生できるかも
→スノーラインも中心星に近い→H2O供給の面では生命に有利。でもリンは?
第4章 太陽系の非地球型生命
- 1 火星の太古の渚
- 2 氷衛星の内部海 ―エウロパ、ガニメデ、エンケラドス
ハビタブル・ゾーンの外側だが、潮汐加熱によって、内部に熱源がある
エウロパ:内部海はほぼ確実にある。海が岩石に直接接している(リンの供給が可能)。対流しているっぽい。大気に薄いながらも酸素とオゾンがあり、対流によって海の深くまで運ばれているかも
ガニメデ:われわれが普段眼にする氷は「氷1*1」。これは水に浮く。それに対して高圧でできる「氷4*2」は、水に沈む。ガニメデには氷4があって海に沈んでいて、海と岩石が直接接していない。対流もしていない
エンケラドス:カッシーニが氷火山の噴火を観測。他の衛星との関係で潮汐加熱。有機物もある(彗星に組成が似ている)。太陽系の生命探査最有力
- 3 マイナス180℃のメタンの湖 ―タイタン
分厚い窒素大気とメタンの海をもつ
メタンの海でも生命は可能か
塩などは水に溶かすと形がなくなるが、水に溶かすと形ができるものもある→タンパク質
→水に極性があるから
油には極性がない
細胞膜はどうするか。水のような水滴を落とせば、細胞になるかも
→タイタンのような低温環境で液体でいられる極性分子はあるか
→極性は低いが、PH3(ホスファン)という物質なら液体でいられる
→タイタンに存在するかどうか不明。また、ホスファンは地球生命にとっては猛毒
タイタンはオレンジ色がかっている
→有機物の色?
エウロパもガニメデもエンケラドスもタイタンも、酸素が少ないので、仮に生命がいたとしても、微生物以上の奴はいなさそう
第5章 系外惑星に知的生命は存在するか
- 1 生命を観測できるか
大気組成が、化学平衡からずれていないかどうか(酸素やメタンがあるかどうか)観測する
→すばるでは観測できない。2020年代に期待される超大型望遠鏡が必要
反射度の違いを観測
→海と陸の区別。またどの周波数の光を反射しているかで、植物の有無もわかるかも
生命が高等化するのには酸素が必要だろう(酸素は危険だが、エネルギーを多く生み出せるし、数も多い)
→何故地球に酸素が増えたのかを解明する必要
- 2 M型星惑星の生命を描く
オーシャン・プラネットの生命について考える
いつも同じ面を中心星に向けている→寒暖差が大きく、強い風が吹いているかも
中心星のエネルギーを使うためには、海の表面に浮かぶしかない
もし、水蒸気の濃密な大気があれば、空中に浮かべるかも
電波を使ったコミュニケーションをとるかも?
水中で進化したなら天体観測ができないし、空中に進出したとしても、太陽も月もずっと同じ位置にいるので、天文学が発展しない可能性
『老ヴォールの惑星』とか『白熱光』とかを想起させる内容だなあ
- 3 地球外知的生命と交信する
アクティブSETI
有力候補は、グリーゼ667c。22光年先なので、すぐに返事がかえってくれば、44年で答えが分かる!
東工大/プリンストン高等研究所のピート・ハット:アルファ星まで4光年、光速の3分の1のロケットなら12年で着いて、写真は4年で送れる。時間の長さ的には現実的
太陽系の重力圏の半径は約2光年。オールトの雲もそのあたり
アルファ星の重力圏も同程度。
アルファ星は、西暦3万年頃に3光年まで太陽に接近し、それぞれのオールトの雲が重なって彗星のシャワーを降らせる
恒星の運動を調べて、過去と未来においていつニアミスした(する)か調べる研究もある
地球の隕石落下との関係を調べるとか=宇宙考古学
西暦9800年頃、太陽から2番目に近い恒星バーナード星が、3.75光年まで接近
→仮に22世紀中に秒速40?で飛ばせるほど科学技術が発展したなら、「1光年をわずか7500年で飛べ」る。(なんだこのすげーニュースペオペっぽい文章!w)
→99世紀にはバーナード星に2.75光年まで近づける。
→バーナード星の惑星にいるかもしれない知的生命が同じことを考えたら、互いの探査機が訪問しあうかもしれない
- 作者: 長沼毅,井田茂
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2014/01/22
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (8件) を見る