国立西洋美術館のモネ展
西洋美術館とポーラ美術館が所蔵している印象派やその周辺の作品を集めた展覧会で
、やや雑多なところもあるのだが、まあ色々見れてよかった。他の人と比較できてよい部分と、これ何で一緒に並んでるんだって部分とがあった。
また、例によって章ごとに気になった作品のメモ
1 現代風景のフレーミング
モネ「グランド・ジャット島」とセザンヌ「ポントワーズの橋と堰」が並んでいて、似たような河辺の風景を描いているのだけど、筆致の違いが分かるようになっていた。同じ筆触分割でも、モネは対象によって塗り方が違う。セザンヌはわりと一様。背景にあったの、木かと思ったけどどうも煙突っぽい。
あと、列車関係。
シスレー「セーヴルの跨線橋」、モネ「貨物列車」、モネ「サン=ラザール駅の線路」
シスレーは、橋が画面でもっとも目立つのだけど、右端に汽車の先だけ描かれていて、背景がそこに向けて描かれていてスピード感を描こうとしている。のだが、なんかあんまりぱっとしない。
「貨物列車」は、シスレーに比べると静的だけど、画面を横切るように列車と煙が描かれている。
「サン=ラザール駅の線路」は、画面全体に蒸気がもやもやと立ち込めていて、その中で線路とか赤い灯(?)が描かれている。
列車のスピード感を描いているのはシスレーのだけど、この3つを並べると「線路」が一番よい感じがして、汽車を描くのにはやっぱり煙が大事なのか、と思ったw
あと、メリヨンの『パリの銅版画』というのが二つあったけど、あれってオスマン改造前のパリ?
2 光のマティエール
クールベとか、同時代の画家だけど、並べられるとやっぱ違和感ある
ルノワールが点描的な手法で描いた「木かげ」がよかった。林の中の小道を描いているのだけど、道と木が溶けあっているようになっていて、抽象絵画一歩手前のような風情すらある。
モネでよかったのは「ラ・ロシュ=ギュイヨンの道」か
あと、スーラの点描とか、あとに続く章では、シニャックとか、一時的に点描技法になっていたピサロとか、点描技法、新印象派の絵がいくつかあったのだけど
なんかモネに比べると、いまいちピンとこなかった。
科学的に光を描くという教義自体は、個人的に好きなんだけど、実作見るとそこまで魅力的じゃないというか、同じ筆触分割だと、モネの方がテクスチャ感が出ているというかリアリスティックというか。モネの絵は、近くで見ると絵具がべたべた置かれているだけのように見えて、数歩下がると、光の反射が非常に再現的に描かれているのが分かる。
新印象派は、そこまで再現的にはなってない。デジタル的すぎるというか、タイル画っぽいというか。実験的で、試みとしては面白いんだけど、負けてる感ある。ピサロは、作るの大変すぎて諦めてしまったらしいし。
3 反映と反復
象徴主義からの影響
モネ「ヴァランジュヴィルの風景」とか
あと、ドニ「踊る女たち」、モネ「陽を浴びるポプラ並木」、ベルナール「吟遊詩人に扮した自画像」が並べられている。
ドニとベルナールは、ゴーガンに影響を受けたナビ派とか綜合主義とかの画風でモネとは全然違うのだけど、植物が垂直に伸びた構図が共通している。これは「ヴァランジュヴィルの風景」とも共通している。展示会の説明文では、この構図を装飾的と称していた。装飾的って言葉の指すところがいまだによく分かってないけど、確かにこういう構図はそれまでの作品では出て来なかったと思う。
「ヴァランジュヴィルの風景」だと、木ではなく海岸の草がクローズアップされて画面を大きくまたがるように描かれていることもあって、ロバート・ローゼンブラム『近代絵画と北方ロマン主義の伝統』 - logical cypher scape2思い出した。
それから、シャヴァンヌ「貧しき漁夫」とピカソ「海辺の母子像」という青の時代の作品が並べられていた。
「貧しき漁夫」は手前にうなだれて祈る漁夫と垂直に立っている柱(?)、そして奥の方に蛇行する川が幻想的に描かれていて、象徴主義だかロマン主義*1だかみたいな感じの絵で、それの隣に「海辺の母子像」があると、ピカソの青の時代ってそういう文脈の中でみるものなのかーと思った。青の時代っていまいちよく分からなかったんだけど。
それから、モネ「柳」
水面が、絵具がべたべたと筆のあとがはっきり分かる形で置いてあるんだけど、ちょっと離れてみると、水面の質感がやばい。CGとかで水面描いたときのような、水面がすごい光っている感じのテクスチャ。
4 空間の深みへ
モネ「舟遊び」、「バラ色のボート」、「睡蓮」など
画面全体が全部水面になっているってのは、やっぱ構図としてすごいのかもなーと思ったり。
「バラ色のボート」について、水面に映る枝と水草をどちらも描こうとしてモネ自身が「気が狂いそうになった」というコメントを残しているのだけど、見てる方も気が狂いそうになるというか。水面に、ぐるぐると枝が描かれていて、画面全体=水面全体が平面的になっているようにも感じるし、水草があるという立体感もあるし。あと、ボートとオールが画面を十字に区切るように描かれていて、その大きさとかバランスとかが明らかに非現実的なんだけど、かっこいい構図になっている。
モネって、実はすごく再現的に光を描いてるのがすごい、というように今まで思っていたのだけど、再現的=3次元空間のイリュージョンを描くのがうまい(しかも独特の方法で)だけでなくて、絵画の平面性というのも同時に追求していたというのが分かったような気がした。そういう意味で、モネも19世紀末から20世紀の画家だったんだなあ、と。
で、前半の方のモネの絵は、いいとは思うけどそこまですごいと思わなかったけど、晩年になってくると、やっぱりモネってすごい画家だったのかもね、と(小並感)
ここに展示されている、西美が所蔵している「睡蓮」は、オランジュリー美術館の睡蓮の壁画の習作らしい。この壁画の習作はほとんど残っていないのを、松方が入手してきたとかなんとか。
っていうか、この絵で全面に覆われている部屋は、やばそうだな、と
この部屋は、何故かガレのガラス工芸品が一緒に並べられていたのだけど、脈絡が全く不明だった。あー、ポーラ美術館にあるもんね、くらいなもので。
でも、主な客層であるご年配の方には受けていた模様。
ロダンの彫刻もいくつか
あと、ロダン展に寄せたモネの序文とか飾ってあった。
ロダンといえば、西美には外に「地獄の門」がありますね。実は、初西美だったので、「地獄の門」ちゃんと見るのも初でした。
*1:世俗的なモチーフで超越的なものをって意味で