あれ?同じ本が2冊?
右は、2005年に出版された辻惟雄先生の『日本美術の歴史』。左は、その15年ぶりの改訂版である。書き誤り・書き忘れを改め、新しい作品を加えたり図版を取り替えたりしたということで、『補訂版』とされている。
一人の著者による日本美術史。それが『奇想の系譜』の辻惟雄先生によるものであるならば、must buy ということになろう。取捨選択した作品は何か。取り上げた作品をどのようにとらえているか。著者自身は日本美術の特質として、「かざり」「あそび」「アニミズム」という三つの特徴を挙げており、本書の記述にも反映されている。
大学の講義ノートがもとになっており、教科書のようにも読めるし、物語のようにも読めるというコンセプトで作られたらしい。まさにその通りの内容で、『奇想の系譜』同様、すいすいと読み進められる。もちろん自分が興味を持っている作品・画家のところだけ読んでも楽しい。
図版がカラーなのもよい。図版索引を見ると、今回の『補訂版』で何が付け加えられたかがわかる。近代で言うと、村上隆や草間彌生の作品が図として加えられている。
またこの本の最後に、佐藤康宏先生が「もっと日本美術史について知るための文献案内」という節を書かれており、参考になる。『補訂版』では、この文献案内にも補遺が加えられ、2005年以降に刊行された日本美術史の概説として、佐藤康宏『日本美術史』、山下裕二・高岸輝監修『日本美術史』、古田亮編『教養の日本美術史』が取り上げられている。著者が異なると違う作品を選ぶだろうし、複数の著者が多視点から取捨選択した作品が何かを知るなど、これらの著書と本書を読み比べてみるのも、面白そうである。奥深い日本美術の一端に触れるきっかけになるだろう。
辻惟雄『奇想の系譜』は美術に関する名著の一つだと思う。改めて下記に紹介しておく。辻惟雄先生のお弟子さんの一人、山下裕二先生が監修した「奇想の系譜展」も見ごたえがあった。
その後、この本で取り上げられた絵師が、日本美術の中で再評価され、伊藤若冲などの人気は凄いものになっている。江戸絵画史を塗り替えた意味でも名著と言ってよい本だろう。辻惟雄先生はこの本を書いた時は、37歳。とにかく面白く、読者をぐいぐいとひっぱり読ませる文章である。
惜しむらくは、文庫本(2004年刊行)の図版がモノクロであること。若冲や蕭白の極彩色の魅力を伝えるには、カラー版であって欲しかった…。しかし朗報が一つ。2019年2月より、辻先生の弟子である山下裕二先生監修の「奇想の系譜展」が東京都美術館で開催される。この本で取り上げられた作品をその目で観る絶好の機会であるとともに、展覧会の開催にあわせて『奇想の系譜』フルカラーの新装版も刊行された。