2024年のノーベル賞は、AI(人工知能)にフォーカスが当たった。物理学賞をホップフィールドとヒントンが受賞したというのに驚くと同時に、甘利俊一先生が選に漏れたことを残念がる声が多かった。深層学習のもととなった確率的勾配降下学習法は甘利先生のアイディアによるもので、それをヒントンが実用化した。ホップフィールドの連想記憶モデルは、一時期 Amari-Hopfield モデルと称されたこともあり、現在の生成 AI の基本方式であるアテンションに発展した。
このあたりの詳しい事情は、伊東乾先生の記事「本来なら日本の甘利俊一・福島邦彦両氏が受賞すべき今年のノーベル物理学賞」が参考になる。
そして当の甘利先生は、1970年代の自分の研究・アイディアをもとに、実用化というイノベーションを果たした人たちに惜しみなく賛辞を送っている。そのスケールの大きさが素晴らしい。
日経ビジネス誌による甘利先生のインタビュー記事『ノーベル賞が見逃したAI研究者、甘利俊一氏「ヒントンはよく粘った」』にも、先生のスケールの大きさが表れている。
その甘利先生が自分の数理工学の研究の歴史を振り返った自伝が、『めくるめく数理の世界 ― 情報幾何学・人工知能・神経回路網理論』である。発売当初から Amazon では品切れ状態。紀伊国屋のような大きな本屋でも売り切れ。ようやく入手できたのが、川崎ラゾーナの丸善であった。
甘利先生が 1960-70年代に行った確率的勾配降下学習法、連想記憶モデルといったアイディアも紹介されている。
この本の面白いところは、数式の難しい部分を飛ばして読むことができるところだ。自身の研究者人生、ホップフィールドなど他の研究者との交流、旅先でのエピソード、歴代秘書列伝、そして最後はご家族のことも「こぼれ話」という形で語っている。僕が数理工学の学生だった時に受けた講義の時の語り口そのもので、とても面白く、楽しい。
甘利先生は難しい概念を面白く紹介されるので、講義を受けている時はわかった気になる。しかしいざ試験のために勉強し直すと、何もわかっていなかったことに愕然とする。そんなことを懐かしく思い出した。
数式のわかる脳科学者の友人は「最新の研究内容まで紹介されていて、さすが甘利先生!」と絶賛していた。
また同級生だった銅谷賢治君は、日本神経回路網学会長として「ノーベル賞につながる神経回路研究の発展を祝って」というメッセージを発信している(PDF版)。
彼らのように、今なお現役の研究者として第一線におられる甘利先生の活躍に、刺激を受けた研究者たちもたくさんいることだろう。
最後に、甘利先生らしい数理脳科学の提唱、深層学習についてのスパイシーな記事「もうちょっとだよなー,ディープラーニング」を紹介しておく。