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重力波が人間に生命をもたらしただと?詳しく聞こうじゃないか

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 時空を波紋のように伝う「重力波」が、私たち人間の存在を可能にしたのかもしれない。

 重力波とは、宇宙にある巨大な物体が動くことで生じる時空のさざ波のことだ。アインシュタインの相対性理論によって予言され、2016年にようやく検出された興味深い物理現象である。

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 ロンドン大学キングス・カレッジの研究チームによると、今私たちがここに存在できるのは、この重力波のおかげなのだという。

 ちっぽけな地上の人間とはまったく縁がなさそうな重力波が、私たちを存在させているとは一体どういうことなのか?詳しく見ていこう。

人間の生命に不可欠な要素はどこからきたのか?

 人間の体は、ほとんどが水素・炭素・酸素でできているが、それにくわえて各種の微量元素も混ざっている。

 そうした人間の材料のうち原子番号34以下の元素は、超新星の爆発によって合成され、宇宙全体にまき散らされた。

 だがそうでないものもある。たとえば、甲状腺で作られる主要なホルモンに必要となる「ヨウ素」や、組織の発達に必要となるコラーゲンの足場に使われる「臭素」だ。

 人体の材料ではないが、人類が生きることを間接的に助けている「トリウム」と「ウラン」も超新星爆発によるものではない。

 トリウムとウランは、地球内部で放射性崩壊を起こすことで岩石圏を加熱している。じつはこれは地球をおおうプレートの原動力でもある。

 プレートの動きは地殻から炭素を取り除き沈み込ませる。その炭素自体は、水と二酸化炭素とケイ酸塩の反応によって大気から除去されたものだ。

 いずれにせよ、このプロセスが、地球を金星で起きたような温室効果の暴走から防いでくれている。

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photo by iStock

生命に必要な重元素を作り上げたものの正体は?

 こうした重元素(ここでは鉄より重い元素のこと)の約半分は、宇宙の爆発的な現象で起きる「r過程」というプロセスによって作られる。

 r過程の r は rapid(急速)のことで、その名が示す通り、このプロセスでは重い原子核が崩壊する前に次々と自由中性子をキャッチしていく。

 1cmあたり1024個と十分な密度の自由中性子と、10億度というとんでもない高温があれば、中性子が吸収され、より重い元素の同位体が合成されるのだ。

 つまりは、私たちの命を維持するうえで不可欠な元素の多くが、このr過程によって作られているというのだ。

 研究チームの計算によるなら、「ヨウ素127」の96%、地殻に含まれる「臭素」と「ガドリニウム」の大部分、地球上に存在する「トリウム」と「ウラン」のすべて、「モリブデン」と「カドミウム」の一部はr過程で作られたという。

 そしてこのr過程を引き起こす鍵が重力波なのだ。

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2 つの中性子星の衝突によって発生したキロノヴァ / image credit:NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva/Spaceengine / WIKI commons

中性子星のペアが重力波を放出してr過程を引き起こす

 そもそもr過程はどこで起きているのだろう?

 1つの可能性は、寿命を終えた星の爆発(超新星爆発)の反動で放出される物質だ。だが、そこで起きる現象のくわしい物理学的性質については、不確かなところが多い。

 もう1つr過程が起こると考えられるのが、2つの中性子星の凄まじい衝突だ。じつはこの衝突は、中性子星のペアが重力波を放出してエネルギーを失うことで起きている。

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中性子星が合体して重力波を発生させ、キロノヴァが発生する様子を描いた想像図 / image credit:WIKI commons

 実際、2017年に観測された重力波「GW170817」は、この中性子星の衝突によるものだ。

 そのエネルギー量は、最後の数ミリ秒間に数兆ワットの数兆倍という膨大なもの。観測された電磁スペクトルには、そこで作られて放出された物質の痕跡が刻まれていた。

 研究グループは、人間の生命維持に不可欠なヨウ素やその他重元素は、「おそらく重力波の放出によって中性子星の衝突が誘発され、そのときに起きたr過程を通じて生成された」と結論づけている。

 この研究の査読前論文は現在『arXiv』(2024年2月6日投稿)で閲覧できる。

追記:(2024/04/04)本文を一部訂正して再送します。

References:Gravitational waves may have made human life possible / written by hiroching / edited by / parumo

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この記事へのコメント、8件

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  1. 重力波が地球に生命をもたらした可能性があるとか
    宇宙の神秘はとどまるところを知らないですね

    今年は4月8日に起こる世紀の天文イベントである皆既日食に合わせて
    同じ日にスイスにある超大型ハドロン衝突型加速器による
    今世紀最大規模となる電子同士を衝突させる実験が行われ
    ブラックホールが生成されるほどのとてつもない量のエネルギーが発生するかもしれないとの事なので
    どんな未知の現象が観測されるのかとても興味深いですね

  2. 三段論法の一段目だな
    中性子星の連星が重力波を出す→キロノヴァを起こす→重元素が作られる

  3. 重たくて小さい星同士だから重力波が発生して
    その重力波がエネルギーを星から奪ってブレーキをかけるわけだ
    どれくらい時間がかかるんだろう
    地球みたいな軽い星だと、この効果は無いも同然なんだろうな

  4. こんな話を聞くと、地球は、人類は、精密に出来た宇宙のチリだなとか思うわ…

  5. ビッグバン後の宇宙の晴れ上がりで原子が出来た時点で密度分布は均一でないから、意外とその時に多種多様な原子が生成されてたりして。もちろん中性子星やブラックホールでさえも。ブラックホールはビッグバン前でもできそう。

  6. 昔趣味でいろいろプログラミングしてた時に重力のシミュレーター(2D)作って遊んでたんだけど、それで気づいたのはイメージと違って宇宙ではどれだけ強い重力源同士でも衝突させるのは凄く難しいって事。大体凄い勢いですれ違って明後日の方向へ飛んで行ってしまう。連星系を作るのは簡単だったんだけどね。でも一旦連星になると永遠に回り続けて衝突しない。
    なんでかというと、減速させる要素が無かったから。実際にはこんなふうに重力波によってエネルギーを発散して速度を落としてたんだよね。

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