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アマゾンの熱帯雨林の驚異。地球規模の雲を作り世界の天候に影響を与えている

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Photo by:iStock

 新たな研究によると、アマゾンの熱帯雨林が、世界中の天候に大きな影響を与えていることが明らかとなった。

 そのカギを握るのは、熱帯雨林の森の植物から放出される、人間にとって心地よい香りがする揮発性の有機化合物「テルペン」だ。

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  国際的な研究チームは、「テルペン」を構成する「イソプレン」の流れを分析し、大気中に放出されると雲の形成を助ける役割を果たしていることを明らかにした。

 この成分は、風に乗って地球規模で広がり、世界中の雲を作り出しているのだ。

アマゾンの熱帯雨林の森から漂う心地いい香りの正体

 夏の日に森を散策していて、どこからともなく漂ってくる爽やかな香りを楽しんだことがあるだろうか?

 この森の香りは、「テルペン」と呼ばれる炭化水素によるものだ。植物などが作り出す揮発性の有機化合物で、その心地いい香りのために、私たちのさまざまな身近な製品にも香料として利用されている。

 例えば、オレンジやレモンの甘酸っぱいフレッシュな香り(リモネン)や、すっと爽やかなペパーミントの香り(メントール)などは、いずれもテルペンが配合されている。。

 そんなテルペンを構成する主な分子が、二重結合を2つ持つ炭化水素「イソプレン」だ。世界の植物は、毎年5億~6億トンのイソプレンを大気に放出すると推定されており、これは植物が排出するガス状有機化合物のおよそ半分を占める。

 そしてなんと、その4分の1以上がアマゾンの熱帯雨林からのものなのだ。

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アマゾンの森の香りは雷雨によって高高度に吸い上げられ、雲を作り出す。これまでは知られていなかった自然のプロセスだ/Credit: Philip Holzbeck, MPI for Chemistry, Germany

雷雨に吸い上げられたイソプレンはアマゾン上空で雲になる

 これまで、アマゾンの熱帯雨林から放出されたイソプレンはたちまち分解され、大気の高いところまでは届かないだろうと考えられてきた。

 その主な原因は、活性酸素の1つ「ヒドロキシルラジカル」だ。

 昼の間、太陽の光に照らされることで、地表近くの大気の中にヒドロキシルラジカルが作られる。これは周囲のものとよく反応するため、イソプレンをほんの数時間で壊してしまう。

 ところが、ドイツ、フランクフルト大学やフィンランド、ヘルシンキ大学などの研究チームによって、それは自然界で起きていることの半分でしかないことが判明したのだ。なぜなら地球には夜があるからである。

 夜の主役は、夜間に熱帯雨林上空で発生する雷雨だ。雷雨はイソプレンをまるで清掃機のように吸い上げ、高度8~15kmにまで舞い上がらせる。

 やがて日が昇るとヒドロキシルラジカルが作られイソプレンを壊そうとするが、この高度では地上とは違う化学反応が起きる。

 ヒドロキシルラジカルは雷によって作られた窒素酸化物と結びつくのだ。このおかげで、イソプレンは破壊を免れる。

 その後、イソプレンが集まって、大きさ数nmのエアロゾル粒子が形成される。

 これはだんだんと大きく成長し、ついには水分を集める核(凝結核)として機能するようになる。つまりアマゾンの森の香りは、最終的に雲を作り出すのだ。

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研究者を乗せた航空機から見たネグロ川/Credit: Linda Ort, MPI for Chemistry, Germany

アマゾンの熱帯雨林を守らなければならない理由

 この自然のプロセスを解明するために、研究チームは日の出の2時間前から行動を開始し、飛行機に乗ってアマゾン熱帯雨林上空の大気データを集めたという。

 さらにジュネーブの欧州原子核研究機構(CERN)にある実験チャンバーで、アマゾンの高高度大気を再現して、太陽光が引き起こす化学反応をくわしく分析した。

 ここから判明した興味深い事実は、大気中でありふれた硫酸やヨウ素のオキソ酸が、ごく微量であってもイソプレン・エアロゾル粒子の形成を100倍に加速するということだ。

 またアマゾンの熱帯雨林の高高度で吹く風は、こうしたイソプレン粒子を数千kmも離れた場所まで運んでいる可能性がある。

 アマゾン上空で形成された粒子が、遠く離れた場所で雲の形成を助けていることが推測されるという。

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アマゾン盆地上空に形成された雲/Credit: Philip Holzbeck, MPI for Chemistry, Germany

 雲は、その種類や高度に応じて、太陽の光を遮るとともに、熱が宇宙に逃げていくのも防いでいる。したがって今回の発見は、地球の気候を予測するうえでも重要なものだ。

 現在アマゾンは森林破壊によってどんどん小さくなっているが、この研究からは、それによる気候への影響は2つあるだろうと考えられるという。

 1つは、森林が二酸化炭素を貯めてくれないために、温室効果ガスが放出されること。

 もう1つは、イソプレンの放出と水の循環に影響するだろうこと。どちらも地球温暖化をさらに加速させると考えられるそうだ。

 この研究は『Nature』(2024年12月4日付2024年12月4日付)に掲載された。

References: Unlocking the Amazon’s Hidden Power to Shape Global Weather

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この記事へのコメント、12件

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  1. 数年前の大規模森林火災って、結局ほとんど影響なかったのかしら

    1. ニュースなどを検索すればすぐわかることですが、アマゾンでは異常乾燥から数年前から散発的に森林火災が発生し、今年も過去最悪レベルの森林面積が消失しています
      日本での報道が少ないのは単純に視聴率が取れないからか、深刻度を理解せず、地球の裏側だから影響はないとでも思っているからではないでしょうか?

  2. アマゾンの森林は守ってほしいけど
    他国の領土の資源を地球の気候のために守ってくれともいえないのがなぁ
    今世紀中に南米の森林は無くなると思う

    1. そうなったら人類含めたほとんどの生命体が死滅する。
      だからそこまで愚かではないと信じたい所。

  3. 日本が山だらけ(森林だらけ)なのって悪く言われがちだけど
    すごく恵まれてる事なんだよ。「砂漠化とは無縁ですよ」って事だから。
    水源が豊富にあるということはどれだけ幸せな事か。
    一部地域で不足しても他所から持ってこれるし。水は地球の命です。

  4.  テルペンの類はほとんど疎水性とあったので雨の粒子につながるってのはとても意外でした。 イソプレンは CO2 みたいな効果はないのかな? 調べても見つけられませんでした。
     森林が関係する温室効果ガスは多分 CO2 の事でしょうね。 もし CO2 が多くなると→気温も上がって植物の生える面積が増える→植物が CO2 を吸収して濃度が下がる→気温も下がるというような、人類の生活スパン(百年単位くらい?)よりも長いスパンで恒常性みたいなのが出るかもしれません。 その過程で人類は環境変化についていけなくなって滅んでしまうのか、それとも人類にとっての心地よい環境を守るために努力して上記ほど大きく振れ幅ができずに滅ぶことなく存続できるのか、東南アジアの熱帯雨林はどうなるのか、アフリカは?などなど興味深いです。

  5. 知り合いの学者がね、中国の巨大ダムが建造されたから加速度的に異常気象が進行して世界規模の災害が頻発するようになり、日本も亜熱帯化した。って論文公表した気象学者が三人くらい立て続けに失踪したから、誰も巨大ダムに触れなくなった。
    って十年くらい前にぼやいてた

    1. その水の重さで地軸が微妙に歪むって話ですからね
      それに突然出現した広大なダム湖が、地域環境に全く影響ないとも思えません

      1. 中国の三峡ダムは地軸を歪めると言うより水の重さによって
        地球の自転を遅くする影響があると言われてる。

        ただ現在は温暖化によって各地で氷河や氷床の融解が進んでいるので
        それによる自転の加速効果の方が遥かに大きい。
        とは言えそれ自体は環境に顕著な影響を与えるレベルではないけどね。

  6. 地球規模の雲なら
    暑い太陽光を遮ってほしいなぁ。

    1. 太陽光が遮られると植物の活動も落ちるから
      長続きしないと思う。

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