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今の日本では「反日」「親日」という表現が当たり前になってしまっているが、この種の表現はすべて保守派によるレッテルとして機能している。

同じ文脈は、朝日新聞(時に毎日新聞を含む)のような、どちらかというと左派のメディアに対する過度の批判も同様で、右派メディアが信頼できるかというとそういうわけでは決してなく、バイアスを前提にして読まなければならないのはどのメディアでもどの新聞社でも同じことだけれども、しかしそれでも保守派は左派メディアを「偏向」していると言って叩く。

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以前、 中北浩爾「自民党―「一強」の実像 」をとりあげたけれども、これを参考にすると、大体次のようなことは言える。

いわゆる「右傾化」や、現在の自民党がきわめて保守派色の強い政権を擁立した理由には、2000年代の民主党が強かったという背景がある。

どちらかというと左派の民主党は、自民党を選挙で苦しめたし(郵政選挙のような例はともかく)、結果的に政権交代ができるところまで成長したわけだけれども、自民党サイドとしてはこれに対抗するために保守派色を明確にしたほうが対立軸がはっきりする。

それをもっとも意識した政治家の一人が安倍さんで、安倍さんの敵は民主党、つまり「サヨク」だった。だから、ありとあらゆる左派、左派っぽいものはすべて否定する。

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こういう文脈で見ると、21世紀に入ってからのネットの様子がだいたいわかるような気がしている。

「安倍首相のネトウヨ化」という表現を先日、おかしいと書いた。理由は単純で、安倍さん自身はネット上の現象でもなんでもなく、リアルの存在だからだが、見方を変えると別の言い方もできるのではないか。

ネット右翼が現象として目立ってきたことと、上記のような政治状況とちょうどリンクしていることは、注意しておいていい。

いわゆる「右傾化」については、いろんな語り方ができる。

たとえば私は以前より、80年代からのテレビの影響を疑っている。具体的には、「TVタックル」「ニュースステーション」「そこまで言って委員会」といったニュースショー・TVショーの影響で、ごく単純に言うと、80年代から久米宏が言った適当なことをそのまま右派がパクった、かつTVの政治に対するきわめていい加減な接し方が、日本人の政治に対する考えを大変に甘いものにしたということで、これはそうなんだろうと今でも思う。

さらに、そもそも日本人・日本社会がきわめて保守的であったところ、ネットでそれが可視化されたという側面も大いにあるのだろう。

ただ、こういった要素に加えて、小泉政権以降の政治状況とネットの関係も念頭においておくべきで、ネット右翼のような現象が拡大していったことと、民主党に対する対抗という上記のような文脈と、ちょうど流れが合っている。

これを念頭に置くと、人権擁護法案反対運動の前後から、「ネット右翼」に私が注意をし始めたことも、そういうことかと私には腑に落ちるものがある。

人権擁護法案反対運動は、人権擁護法案をネタにして、保守派がネット上でプロパガンダをして、リアルに動員しようとした。集会では、安倍さんがビデオ画像で、プリンスとして登場したことも、重要な要素だった。

当時は小泉政権下で、後の民主党政権の誕生とその瓦解、安倍第二次政権の発足といったことまでは到底想像できなかったけれども、しかし保守派のプロパガンダとして、現在につながる小さな源の一つが、あの人権擁護法案反対運動にあったのだと、今にしてようやく思う。

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そう考えると、最初から「ネトウヨ」の発信源は保守派によるプロパガンダだと言ってしまってもいい一面はある。その保守派の最重要人物の一人が安倍さんだ。

あえていえば、「安倍首相のネトウヨ化」ではなくて、「安倍首相」(に象徴される保守派)がそもそも「ネトウヨ」だったというほうが正しい、と言えないこともない。

私はずっとネット右翼という現象が気になっていて、これはどういうことなのかと関心を持っている。いろんな側面から語ることができるだろうと思うが、最初から保守派のプロパガンダを中核にしていると考えると、非常に分かりやすくなることは間違いない。

保守派のプロパガンダに強く影響されると「ネット右翼」になるだろうし、そうならなくても、ネット全体が保守派の言説に強く影響を受けている、プロパガンダの扇動に乗っていると思われるような場面がいろいろある。

そこをどうすればよいか、まず考える必要があるのではないか。