里中満智子「古事記」
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その「読んでない」と書いた、里中満智子氏の「古事記」を購入した。「壱」と「弐」の全2巻。
文庫版もあるけれど、やっぱり年寄りにやさしい大判のものを買うことにした。
大判のものは「壱」「弐」とも1,760円、文庫本は「上」「下」の2巻で各660円。
ただし私はネットで古本を探して、2巻合わせて1,750円のにしたけど。
※古事記原文は上巻・中巻・下巻の構成だから、文庫本の「上」「下」表記は不要な混乱を起こすのでは。
まんがの古事記については、以前こうの史代「ぼおるぺん古事記」のことを記事にしている。
「ぼおるぺん古事記」は実にユニークでチャレンジングな作品である。延々と神名を並べることを厭わず、むしろまんがという体裁をうまく利用して、神名のリストを読者が楽しめるのではないかというものになっていたと思う。
それと比べたら里中「古事記」は、むしろオーソドックスなまんがになっている。
「ぼおるぺん古事記」は「古事記」そのものをまんがで再現しようとしたもの。里中「古事記」は「古事記の物語」というようなものになっている。
そのことについて、冒頭で作者が次のとおり書いている。
古事記に描かれている事柄や人物などについては古来よりさまざまな解釈がなされています。
「これは事実ではない」「この人物は実在ではない」など色々な見方や考え方があります。また数多くの解釈、解説書もあります。
私は、今回この作品を描くにあたって「物語としての古事記」のつもりで描きました。ですから「学問としての解釈」と必ずしも一致していない部分があることをご理解ください。
「これは事実ではない」「この人物は実在ではない」など色々な見方や考え方があります。また数多くの解釈、解説書もあります。
私は、今回この作品を描くにあたって「物語としての古事記」のつもりで描きました。ですから「学問としての解釈」と必ずしも一致していない部分があることをご理解ください。
古事記 壱 | |
序 | |
上巻(かみつまき) | |
その壹 この世の始まり | |
その貳 天の石屋戸 | |
その参 八俣大蛇 | |
その肆 大穴牟遅 | |
その伍 根之堅州国 | |
その陸 大国主神 | |
その漆 少名毘古那 | |
その捌 国譲り | |
その玖 天孫降臨 | |
その拾 木花之佐久夜毘売と石長比売 | |
その拾壹 山幸彦と海幸彦 | |
その拾貳 豊玉毘売と玉依毘売 | |
中巻(なかつまき) | |
その壹 神武東征 | |
その貳 天皇誕生 | |
その参 欠史八代 | |
神々の系図 | |
古事記ゆかりの地 | |
巻末に寄せて 竹田恒泰 | |
古事記 弐 | |
中巻(なかつまき) | |
その肆 三輪山の大物主神 | |
その伍 沙本毘売 | |
その陸 本牟智和気御子 | |
その漆 小碓命 | |
その捌 出雲建 | |
その玖 倭建命 | |
その拾 草薙剣 | |
その拾壹 弟橘比売 | |
その拾貳 倭建命の帰還 | |
その拾参 息長帯比売 | |
その拾肆 大雀命 | |
下巻(しもつまき) | |
その壹 皇后石之日売 | |
その貳 皇位継承 | |
その参 歴史への道 | |
歴代天皇系図 | |
地図 | |
古事記あれこれ 阿刀田高 |
ただし、まんがだから、吹き出しに込められた登場人物(神々?)の言葉でストーリーが進むから臨場感をもって読めると思う。
見どころは、絵として表現される衣装、装身具、風俗、あるいは景色かもしれない。作者はかなりのこだわりと考証を持って描き込んでいるのではないだろうか。
たとえば、高天原を追い出された素戔嗚が上流から箸が流れてきたのを見て、そちらに人が住んでいると推量する話があるが、流れてくる箸の絵では、後ろがつながったトング(ピンセット)状のものが描かれている。迂闊な作家なら普通に2本の棒を書いてしまうのではないだろうか。
弥生時代末期の遺跡から竹を折り曲げたトング状の「折箸」が出ているという。ただしこれは神へお供え物をするときに使われた祭器らしい。食事に箸を使うようになるのは飛鳥時代からというが、その頃は二本の棒状かな。
古事記には箸でほとを付いたという話がいくつかあるが、トング状だと無理があるような気もする。そもそもその種の話は誤読だという説もあるようだが。
まんがはストーリーを追うだけなら、あっという間に読んでしまうけれど、描く方は大変な時間と労力を注ぎ込んでいると思う。
そのことに敬意を払って、じっくりと絵も鑑賞していきたいものだ。
里中満智子「マンガ ギリシア神話」では、ギリシア神話と日本神話(古事記)との関連について考察されているが、本書でもギリシア神話との関連について書かれている。
「古事記」の天の石屋戸と、「ギリシア神話」のデメテルの洞窟隠れ。里中先生による、それぞれの解説ページを掲載しておく。
「古事記」は随分前に、三浦佑之「口語訳『古事記』」で読んだけれど、ほとんど憶えていない。今回、まんがで面白く読ませてもらった。
だけれど、「まんが ギリシア神話」の記事でも書いたけれど、「古事記」の全部の話が収録されているわけではないだろう。
やっぱりもう一度「口語訳『古事記』」を読み直そうか。
(この本、実家にあるはずだがどこへ行ったかな)
【報告】
本記事とは関係ないけれど、昨日、本ブログのリンク集を久しぶりに更新して、「モーツァルト作品目録」に替えて、新たに用意した「Mozart works」のページにリンクした。
体裁を変更した以外は、Wikipediaのモーツァルト作品一覧と、立項されているジャンル別作品リストへのリンクを収録しただけしか違いはないけれど、関心があれば見ていただければと思う。