「マンガ ギリシア神話」

41Bqs_AqTwL.jpg 今日は「文化の日」、漫画家の里中満智子さんも文化功労者として表彰される。

漫画家では、横山隆一(1994)、水木しげる(2010)、ちばてつや(2014)、萩尾望都(2019)、大島弓子(2021)1の諸氏に続き6人目ということだ。

ここに手塚治虫氏の名が無いが、手塚氏は1989年に亡くなっていて、それまでマンガは「文化」どころか、「悪書」扱いする風潮もあったからかもしれない。
里中氏は、マンガ家になった理由として、「悪書」として追放運動までされたマンガを何としても守りたいという強い意志をお持ちのようである。


さて、里中満智子「マンガ ギリシア神話」である。
このマンガは、1999年から2004年に出版されたものである。
文庫化されたものもあるが、年寄りには文庫版のマンガは小さくて読みづらいから、ネットを探して当初のハードカバーで大きいサイズの古本で全8巻をまとめて購入した。

1 神々と世界の誕生
第 一 章 神々の誕生
第 二 章 ゼウス誕生
第 三 章 オリュンポス山
第 四 章 若き神々たち
第 五 章 プロメテウスの火
第 六 章 パンドラ
第 七 章 大洪水
解説 ギリシア神話の世界にようこそ! 西村賀子
 
2 至高神ゼウス
第 一 章 アプロディテの結婚
第 二 章 セレネの恋人
第 三 章 エオスの誤算
第 四 章 アポロンの哀しみ
第 五 章 さまよえるイオ
第 六 章 日輪の子パエトン
第 七 章 クレタ王朝とエウロペ
第 八 章 ディオニュソス誕生
第 九 章 ギガンテス襲来
第 十 章 アテナイ建設
第十一章 メドゥーサの悲劇
第十二章 ゼウスの危機
解説 ギリシア神話の豊かな世界 西村賀子
 
3 冥界の王ハデス
第 一 章 冥界
第 二 章 ペルセポネ
第 三 章 永遠の罰
第 四 章 エコーとナルキッソス
第 五 章 ディオニュソス覚醒
第 六 章 アスクレピオス
第 七 章 オルフェウスの竪琴
第 八 章 アラクネ
第 九 章 カリストの悲劇
第 十 章 アドニス
第十一章 狩人オリオン
解説 ギリシア神話における死と生 西村賀子
 
4 オイディプスの悲劇
第 一 章 エロスとプシュケ
第 二 章 プシュケの試練
第 三 章 カドモスとハルモニア
―呪われたテバイ王国 序曲
第 四 章 アンティオペ
第 五 章 ニオベ
第 六 章 ペロポスとヒッポダメイア
第 七 章 オイディプスの悲劇
第 八 章 アンティゴネ
ー呪われたテバイ王国 終曲
解説 ギリシア神話における罪と罰 西村賀子
 
5 英雄ヘラクレス伝説
第 一 章 黄金の雨―ダナエ
第 二 章 ペルセウスの冒険
第 三 章 メレアグロス
第 四 章 ヘラクレス誕生
第 五 章 ヘラクレスの試練 前編
第 六 章 ヘラクレスの試練 後編
第 七 章 英雄の最期
解説 英雄伝説の光と影 西村賀子
 
6 王女メディアの激情
第 一 章 イアソン
第 二 章 アルゴー号は行く
第 三 章 激情のメディア
第 四 章 ベレロポンテス
第 五 章 英雄テセウス
第 六 章 アリアドネの赤い糸
第 七 章 パイドラとヒッポリュトス
第 八 章 レダと白鳥
第 九 章 その後のテセウス
解説 神話に隠されたメッセージ 西村賀子
 
7 トロイの木馬
第 一 章 黄金の林檎
第 二 章 ヘレネ略奪
第 三 章 トロイアへ…!
第 四 章 不死身のアキレウス
第 五 章 トロイの木馬
第 六 章 エレクトラ
解説 戦争・女性・神話 西村賀子
 
8 オデュッセウスの冒険
第 一 章 トロイア王妃ヘカベ
―その後のトロイアの人々
第 二 章 オデュッセウスの航海
第 三 章 魔女キルケ
第 四 章 ペネロペとテレマコス
第 五 章 カリュプソとナウシカ
第 六 章 オデュッセウスの弓
第 七 章 ピグマリオン
第 八 章 ヘルマプロディトス
第 九 章 ピュラモスとディスベ
第 十 章 ミダス王
第十一章 ローマへの道
第十二章 バウキスとピレモン
解説 ギリシア神話を読みなおす 西村賀子
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第1巻から順に読み始めたのだけれど、第1巻は凄惨な話が続く。
基本的にギリシア神話の良く知られたストーリーに基づいているわけだが、その元のストーリーが凄惨な内容だからである。

文字を追うだけだとあっさり過ぎてしまうところかもしれないが、クロノスがウラノスの男性器を切り落とすシーンが、マンガの一コマとしてきっちり書き込まれている。二度目からはそれほどでもないが、初めて見たときは、男としては、これは正視に耐えない。

なおこのときウラノスの陽物の泡から生まれたのがアフロディテという話もあり、本書にもそれが紹介されている。


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ギリシア神話は、ブルフィンチ「ギリシア・ローマ神話」(岩波文庫)を読んでいるし、断片的にはいろんな形で親しんできた。

アポロドーロス「ギリシア神話」はあまりに煩雑(神々の名前・系譜が延々と語られる)なので途中で断念した。
なお、本書では、ギリシア神話はさまざまな話が寄せ集められていて、一貫性・統一性というのはないということも説明されている。

であるけれど、文字で読んでいるときは、その書が凄惨さを訴える目的で書かれているのなら別だが、ブルフィンチの本などでは、少なくとも神々と世界の誕生にあたる部分での叙述はむしろ淡々としていたと思う。(ブルフィンチはロマンティックな話が多い)

なお、ギリシア神話を素材にした絵画にはゴヤ「我が子を食らうサトゥルヌス」など、おどろおどろしいものもある。


だが、安心してほしい。
凄惨な場面は、第1巻だけである。もちろん続く各巻にも血生臭い場面は数多くある。オイディプスが実父ライオスを殺すシーンや、自らの眼を抉るシーン。あるいは、メディアが我が子を弑する場面。

人殺しということなら、トロイ戦争はもちろん、その後のオデュッセウスがペネロペの求婚者たちを皆殺しにする場面もあるけれど、正々堂々であったり、悪人への処罰という意味では残虐という印象にはならない。

やはり、性器を切り落とすというあまりに非情な行為は、特別な感情を惹き起こすもののようだ。

本書は数多いギリシア神話の各話を駆け足で巡っている。その各話はそれぞれに注目すればいくらでも独立した作品にできるようなドラマ性を持っている。だから古代ギリシア時代にも多くのギリシア悲劇の題材になり、絵画に描かれ、音楽では多くのオペラが作られている。

ところで第7巻を除いて各巻の最後には、巻末特別付録として、日本神話との比較(『古事記」との関連について)で著者の感想などが置かれている。
ギリシア神話と日本神話には類話があることも良く知られている。有名なところでは、オルフェウスの冥界行きとイザナギのそれや、生贄の姫を助けるペルセウスと素戔嗚尊の比較などである。作者は、並行して「天上の虹」などの歴史物も書いていて、日本神話にも注意を払っているのだろう。後(2013年)には『古事記』もまんがにしているらしい(私は読んでない)。

また、各巻に「ギリシア神話」(中公新書)などの著書もある西村賀子氏の解説が掲載されている。ただし「解説」といってもマンガの解説をしているわけではなくて、ギリシア神話というものについての解説である。

前述のとおり、残酷なところもあれば、不倫も強姦も、基本的に元の話に忠実に書いてあるが、如何せん、マンガにするには省略も多くなるし、有名な話でも割愛されたものも多そうだ。
ブルフィンチの読み直しや、解説の西村賀子氏の著書も読んでみたくなった。

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