「安いニッポン」

81e2Q2AnbjS.jpg 中藤玲「安いニッポン 『価格』が示す停滞」について。

本書は、日経新聞の連載記事をもとに書かれたもので、「安いニッポン」という言葉は、この記事によって広められたもののようだ。
本書の出版は2021年3月で、それから2年余、最近は物価も給料も上がってきたともいわれるが、「安いニッポン」であることは未だ脱していないと思う。

個人的な感覚だが、私は出勤のときに大阪駅で降りるのだが、新型コロナがだいぶ落ち着いてから、大阪駅界隈でたくさんの観光客と思われる外国人を見る。欧米系、アジア系、とくに見た目では日本人と区別しにくい東アジア系の人。どこともわからぬ言葉が飛び交う。

「給料が安くても物価が安いからまあまあ暮らせる」という意見があるというが、著者はあきらかな間違いだと指摘する。
昔のことを思い出そう。昔は東南アジアとかは貧しい国で、国民の所得は低く、そのかわり物価も安い。日本人がそういう国で暮らすなら、公的年金だけでも良い暮らしができるだろう、というようなことが言われていたと思う。
今、日本がそういう国になっているということだ。

はじめに 日本の「安さ」を直視する
第1章
ディズニーもダイソーも世界最安値水準
物価の安い国
1 世界で最も安い「夢の国」
6年で2000円値上げも、世界水準には届かず
2 「100均」なのは日本だけ
タイで210円、それでも中間層に人気
3 回転ずしも日本が最安
「#無限くら寿司」背景に客単価/アメリカ人件費、5年で2割増
4 バブル世代のたそがれ
「爆買い」に見る購買力の移り変わり
5 なぜこれほど安いのか
外国のビッグマックが高く感じられる理由/為替では説明できない長期デフレ/日本の購買力はアメリカの7割以下
6 スーパーの店頭から見える価格下落
なぜニューヨーク・タイムズはガリガリ君CMを取り上げたか/筆者が見た「値上げの春」のバックヤード/収益改善と客離れはもろ刃の剣
7 読者が思う「安いニッポン」
スタバのラテ、「高い」6割/飲み放題付きコース2980円は63%が「妥当」/「安い」ことは歓迎すべきことか
インタビュー
許斐潤 野村證券金融経済研究所・所長
渡辺努 東京大学教授(経済学部長)
田中邦彦 くら寿司・社長
 
第2章
年収1400万円は低所得?
人材の安い国
1 サンフランシスコ港区
港区の年平均所得1200万円はサンフランシスコでは「低所得」/3700円の朝食/GAFAがけん引する家賃急騰/30年間、賃金が伸びない国
2 労働生産性が主要先進国で最下位の背景
ドイツ人の生産性が日本人より高いのはなぜか/テレワークで生産性も検証を
3 人手不足が崩す年功序列
中高年男性は冬の時代
4 初任給やIT報酬も低い
アメリカの30歳代IT人材の年収は日本の2倍以上/給与の壁が、人材獲得のネックとなる
5 インドで人材を採用できない
日本型賃金制度の限界/海外人材を取り込むメルカリ
6 横並びの賃上げ交渉
7 「ボイス」を上げない日本人
「賃上げを求めたことはない」人が約7割/「宅配クライシス」と日本人の国民性
8 ジョブ型で全て解決?
「ロール型雇用」も一考を/真の「豊かさ」とは―「やりがい」や「余暇」への満足度も低い
インタビュー
中村天江 リクルートワークス研究所主任研究員
村上臣 米リンクトイン・日本代表
神津里季生 連合・会長
 
第3章
「買われる」ニッポン
外資マネー流入の先に
1 ニセコが買われる
ニセコの地価上昇率、日本トップクラスの背景とは/ コロナ禍でも衰えない海外からの投資/素直に喜べない地元
2 技術が買われる
アジア国籍になる日本の町工場/サプライチェーンの作り替えを
3 崩れる日本のお家芸「アニメ」
長時間・低賃金労働が招く業界の窮地/日本が中国の下請けに
4 ネットフリックスの制作費はNHKの5倍
5 最新の「外国人街」事情に学ぶ
「日本への出稼ぎは減るのではないか」
 
第4章
安いニッポンの未来
コロナ後の世界はどうなるか
1 インバウンドバブルのその後
「爆買い」ブームの裏にあったリスク/イギリス人にとって「最も安い目的地」
2 ホテルに見る「二重価格」
インバウンド向けは高く、日本人向けは安い/供給過多で値崩れする京都
3 「高いニッポン?」携帯料金への値下げ圧力
4 水産会社の憂鬱
世界の消費量が急増、買い負ける日本
5 「安い」ことによる弊害
6 コロナ後に日本の「安さ」は変わるのか
7 企業、個人はどうすべきか
インタビュー
池見腎 マルハニチロ・社長
伊藤隆敏 米コロンビア大学・教授
永濱利廣 第一生命経済研究所・首席エコノミスト
八代尚宏 昭和女子大学・副学長
河野龍太郎 BNPパリパ証券・チーフエコノミスト
 
あとがき
そしてそういう国になるということは、国の資源がどんどん外国に買いたたかれるということを意味する。かつて日本がそうしたように。
日本には天然資源といって大したものはないかもしれないが、人間という資源はまだある。ところが、日本企業の給料は安すぎて、同じ仕事を日本国内でするにしても、外資系の会社なら2倍の報酬が得られるという。日本のお家芸のアニメーション作りでは、日本の人材が多く、中国の制作会社に雇われている。今や日本のアニメは中国の下請けになりつつあると。

買いたたかれるのは人材だけでなく企業もである。技術・ノウハウをもった魅力ある中小企業はまだまだあるというが、こうした企業は日本型下請け体制に組み込まれていると、いくら頑張っても安い価格で無理な注文にこたえるというパターンになりがちだが、そういう中小企業がそれではもたないとなったとき、助けになるのは中国をはじめとする外国資本だそうだ。下請けに組み込まれていては、販路拡大などはおぼつかないが、外資によって買われたら、優れた技術で海外に販路を広げることができる。外資はけっしてハゲタカばかりではないようだ。

国内資源が買いたたかれる一方、国内に不足しているモノを日本国は買えなくなりつつある。食糧もエネルギーも海外からの輸入に頼る日本国だが、諸外国と買い付けを争うと、買い負ける状態になっているという。顕著なのは海産物。日本食が海外で高く評価され、魚食が好まれるようになると、今まで日本ばかりが買っていた魚も、外国と争うことになり値段が上がる。そして高い魚は日本は買えない。

ここまで来ると物価が安いままというわけにはいかないだろう。そしてこの物価上昇は外国との戦いに負けたことによるのだから、給料が上がるというようなわけにはいかないに違いない。

このところいろんなものの値上げが続いているが、原材料や畜類の飼料の価格高騰によるものが多い。経済がうまく回転するようになったというより、今まで通りでは立ち行かないというほうがあたっているのではないだろうか。


海外の優秀な人材(とりわけIT系)を日本企業は雇いたくても、海外の企業が提示する条件にはたちうちできず、ここでも買い負ける。以前なら、ベトナムの学生にPCあげたら、いっぱい良い仕事をしてくれそうだなんて言ってたようだが、そういうことにはならない。

私はそう遠くなく賃労働をおさらばすることになる。給料の多寡はもうどうでも良いような話になる。そして収入はほぼ公的年金だけになり、貯蓄を取り崩しながら余生を過ごす。公的年金は物価にスライドする制度になっているはずだから、モノを買う負担はマクロ的には変わらないと思うけれど、この制度が維持できるかどうか、それが問題だ。
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