「エネルギーの地政学」

81eAYzXbPNL.jpg 小山堅「エネルギーの地政学」について。

新型コロナ禍、ウクライナ紛争は、私たちの生活にも深刻な影響を与えている。
新型コロナ禍では、旅行やアミューズメントが控えられ、どこへ行くにもマスクをする。人々が集まることが忌避されて、工場の操業は縮小され、あちこちでサプライチェーンが切断された。その結果、原材料や部品が滞り、さまざまな工業製品が品薄となった。

そうした社会活動を支えているのがエネルギーだが、このエネルギーサプライそのものが深刻な影響を被った。
本書は、そうした状況をまとめたものである。
そのあたりは「はじめに」で言い尽くされている。長くなるがそのまま転載しよう。

はじめに―本書の視座
 エネルギー価格の高騰と国際エネルギー市場の不安定化が世界を大きく揺さぶっている。2021年の後半以降、原油、天然ガス、液化天然ガス(LNG)、石炭、電力などの価格が全て同時に高騰し、同時多発的なエネルギー価格の高騰が発生した。その状況をさらに深刻化させたのがウクライナ危機である。ウクライナの「非軍事化・中立化」を求めるロシアが、ウクライナ国境にロシア軍を配備し、ウクライナに圧力を掛け始めたことから地域情勢の緊張が高まり、2022年2月24日から始まるロシアのウクライナ侵攻によって、事態は一気に本格的な侵略戦争とそれに対するウクライナの徹底抗戦という展開を辿った。ロシアの侵略を止めるため、欧米を中心とした極めて厳しい対露経済制裁が始まり、その下で、ロシアのエネルギー供給に対する不安感が大きく高まり、それがエネルギー価格の高騰を加速化させた。国連安保理常任理事国であるロシアによる他の主権国家への本格的軍事侵攻とそれに対する欧米を中心とした国際社会の対露経済制裁強化という劇的な地政学情勢の緊張が、国際エネルギー市場の安定を揺るがす重要な問題になっている。

はじめに―本書の視座
 
序 章 国際工ネルギー情勢と地政学
1 エネルギー問題は国際問題の側面を持つ
2 エネルギー問題と国際問題の相互関係
3 地政学とエネルギー問題
4 エネルギー安全保障とは何か
5 国際エネルギー秩序を巡る諸問題
 
第1章 2021年以降のエネルギー価格高騰
―不安定化する国際エネルギー市場
1 コロナ禍のインパクト需要蒸発と供給過剰
2 コロナ禍の供給過剰から国際エネルギー市場はリバランスへ
3 2021年以降に顕在化した同時多発的エネルギー価格高騰
4 同時多発的エネルギー価格高騰の原因
5 エネルギー価格高騰への対応策の展開とその影響
 
第2章 ウクライナ危機のインパクトと地政学
1 ウクライナ危機―経緯・現状・今後
2 ウクライナ危機で不安定化する国際エネルギー市場
3 対露エネルギー制裁を巡る主要国の一体化維持を巡る課題
4 ウクライナ危機と第1次石油危機の類似・共通点とその意味
5 ウクライナ危機で一気に浮上したエネルギー地政学の課題
6 エネルギー安全保障強化に向けて動き出す世界の取り組み
 
第3章 重要さ増すエネルギー安全保障
1 エネルギー安全保障を考える
2 エネルギー安全保障政策の歴史
3 エネルギー安全保障政策の主要ステークホルダー (政府・エネルギー産業・消費者)
4 ウクライナ危機とエネルギー安全保障問題
5 欧州に見る強力なエネルギー安全保障政策の展望と課題
6 エネルギー安全保障強化の潮流と国際エネルギー市場への影響
 
第4章 ウクライナ危機と脱炭素化
―その影響と課題
1 2020年以降、世界で一気に加速した脱炭素化の潮流
2 脱炭素化の処方箋とその課題
3 脱炭素化からウクライナ危機へ、大きく変化した問題関心
4 「有事」対応によるCO2排出への影響
5 中長期戦略としての気候変動対策への影響
 
第5章 国際エネルギー秩序の現状と課題
1 国際エネルギー秩序の重要性
2 余剰生産能力管理の歴史と国際石油市場の秩序・安定維持
3 国際エネルギー秩序とパワー
4 ウクライナ危機に見る国際エネルギー秩序の課題
 
第6章 国際エネルギー情勢を左右する地政学
―主要国の相互関係
1 世界のエネルギー地政学環境の全体像
2 米国・中国関係―米中対立激化はウクライナ危機で一層複雑化へ
3 米国・ロシア関係―ウクライナ危機で激化する対立関係
4 欧州・ロシア関係―相互依存から厳しい対立関係へ
5 中国・ロシア関係―戦略的連携関係下でロシアの立場は弱体化へ
6 米国・中東関係―中東の安定に大きな影響を与える米国の存在
7 中国・中東関係高まる中東での中国の存在感
8 ロシア・中東関係―中東で存在感を維持するロシア
 
第7章 エネルギー地政学を左右する主要国
―各国の地域情勢と重要性
1 米国の重要性―揺らぐ世界でのリーダーシップ
2 中国の重要性―その台頭が世界のパワーバランスを変える
3 ロシアの重要性―エネルギー輸出の巨人
4 欧州の重要性―気候変動対策、ウクライナ危機で世界激変の中心に
5 中東の重要性―その安定が国際エネルギー情勢を左右する
6 インドの重要性―その成長が世界のエネルギー消費を牽引する
 
第8章 日本の課題と対応戦略
1 日本のエネルギー問題とエネルギー政策の課題
2 日本の内外工ネルギー戦略に関する10提言
こうした世界情勢の長期的傾向と衝撃の両方から、エネルギー問題が重要な問題だとして、次のように続けている。

 地政学情勢の緊張と流動化がエネルギー市場の不安定化に直結する状況下、エネルギー価格の高騰や供給不足の可能性を懸念するエネルギー消費国は、改めてエネルギー安定供給の重要性を再認識することになった。そして、エネルギー安全保障の強化がエネルギー政策において極めて重要な問題であることも改めて世界が確認することとなった。 エネルギー価格高騰が問題視されるようになる2021年後半までは、世界のエネルギー問題に関する関心は、気候変動への対応や脱炭素化や、CO2などの排出を実質的にゼロにするカーボンニュートラルへの取り組みに関連するもの一色に染まっていた。しかし、エネルギー安定供給に対する深刻なリスクが現実のものとなり、その最大の原因がロシアを巡る地政学情勢となったことから、世界のエネルギーに関する関心には大きな変化が生じた。もちろん、気候変動対策や脱炭素化の取り組み自体の重要性は変わらない。しかし、市民生活や経済活動に欠かせないエネルギーの安定供給確保は、それが危機に晒されることで一気に喫緊の重要課題として浮上したのである。
 今後、ウクライナ危機による国際政治・安全保障・地政学情勢への大きな影響を踏まえつつ、世界のエネルギー安全保障政策がどのように進められていくのかに関心が高まっている。その中では、国際工ネルギー秩序をどのように強化していくべきなのか、という問題も重視されていくことになる。また、喫緊の最重要課題として浮上したエネルギー安全保障強化への世界的な流れが、長期的な重要地球規模課題である脱炭素化への取り組みにどのような影響を及ぼすのか、エネルギー安全保障政策と脱炭素への取り組みの相互関係がどうなっていくのかにも世界の関心が集まりつつある。同時に、国際エネルギー市場を巡る地政学情勢、すなわちエネルギー地政学は今後どう展開していくのか、その際、エネルギー地政学を左右する主要プレイヤー (米国、中国、ロシア、中東、欧州、インド) などの相互関係はどう動くのか、それぞれの国・地域の情勢はどうなるのかにも注目していく必要がある。また、こうした複雑で不透明な国際情勢の下、日本はエネルギー安全保障強化と脱炭素化への取り組みを進めるため、どうする必要があるかも問われるべき重要な問題となる。
 本書は、上述の問題意識・関心を踏まえ、以下の章からなる構成で全体の論を進めることとする。

今はエネルギー価格が高騰している状態だが、新型コロナ禍が世界を襲った2020年はむしろ価格低下が進行していた。本書でも説明されているように、新型コロナ禍で人々の行動も経済活動も抑制され、それに従ってエネルギー需要も小さくなった。長く続いている再生エネルギーへの転換という傾向もあって、化石燃料の価格は低下を続け、一時、原油価格がマイナスになるというショッキングな事態も起こった。

それがこの傾向への過剰適応といって良いのか、供給量のコントロールが厳しくなって、価格低下に歯止めがかかったと思ったとたん、ウクライナ紛争が発生、一気にエネルギー需給がひっ迫し、価格も高騰した。

本書によると、2020年前の供給水準に戻せばよさそうなものだが、余剰設備を遊ばせておくようなことは企業はしないということで、下がった供給水準を前に復帰させることができないと説明されている。

実際、我が家においても、電気・ガスとも、前年の使用量を下回るにもかかわらず、料金は前年より高いという状態になっている。

我が家は電気・ガスは同一事業者から供給を受けている。先日、ガス器具の点検があったとき、電気のベースの使用量がそれなりにあるようなので契約しているプランを一つ上のにしたほうが安くなる(といっても月100~200円だが)というので、プラン変更した。


まことに時宜を得たテーマの本なのだけれど、どうも頭に入ってこない。
その第一の理由は、本や著者の問題ではなくて、読者側の問題、つまりこうした国際的なエネルギー生産・流通の実態についての知識がないことが一番ではあるけれど、その部分をもっと多くの具体例で示してもらえればと思う。
「国際工ネルギー情勢と地政学」という序章が置かれているのだが、地政学と構えるのではなく、そうした内容に充ててもらったほうが入りやすいと思う。

地政学という言葉がそもそもよくわからない。
地政学と言う言葉はときどき目にする。たとえば「戦略上絶好のロケーションにあるというメリット」というように使われる。しかしこの地政学という言葉がどうもピンとこない。貿易や戦争を含めた国際交流における地理的条件というような意味で理解しているのだけれど、それなら単純に地理的条件と言えば良さそうなものだと思う。なぜ地理じゃなくて地政なんだろう。この言葉を使う人はどういう理論的枠組みを持っているんだろう。


そういう消化不良の状態で読み進めると、同様の陳述が繰り返し現れるので、かえって先へ進みにくく感じる。
その同様の陳述には、「課題である」「問題である」「注意する必要がある」という表現が並び、その事象の帰趨については曖昧なままでおかれることが多い。何度も「複雑な問題」という表現が出てくるが、複雑な問題であることは読者はイヤというほど分からされているから、、それを整理する、構造化する、大胆な仮定を導入するなどしてもらえたらと思う。

関連記事

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

六二郎。六二郎。

ついに完全退職
貧乏年金生活です
検索フォーム

 記事一覧

Gallery
記事リスト
最新の記事
最新コメント
カテゴリ
タグ

飲食 書評 ITガジェット マイナンバー アルキビアデス Audio/Visual 

リンク
アーカイブ
現在の閲覧者数
聞いたもん