「ウエストがくびれた女は、男心をお見通し」(その2)

61b60CAghcS.jpg 竹内久美子「ウエストがくびれた女は、男心をお見通し」の2回目。

昨日は、本書の大半を貫く「進化の原理≒生殖の原理」ということについて考えたが、今日は、そこから離れて、本書がとりあげているちょっと興味深い事例をいくつかピックアップすることにしよう。

人間の思想にも遺伝子や病原体への恐れが潜んでいる  オランダ・ティルブルグ大学のY.インバーらは、様々な事柄に対する嫌悪感の強さ(嫌悪感受性、Disgust Sensitivity 略してDS) と、政治的立場との関係について研究している。
 二〇一一年に発表された論文では、そうした関係だけでなく、実際に二〇〇八年のアメリカ大統領選で、共和党のマケインに投票したか、民主党のオバマに投票したかの傾向まで分析している。
 まず、政治的立場だが、「非常にリベラル」「リベラル」「ややリベラル」 「中道」 「やや保守」「保守」「非常に保守」までの七段階で自己判断してもらう。被検者となったのは二万五千五百八十八人のアメリカ人である。50.8%が女で、年齢は中央値が四十歳。中央値とは、全員を、この場合なら年齢順に並べたときの真ん中に位置する人の年齢だ。このとき最も多かったのは、「リベラル」で、そのパーセンテージたるや、41.6%!
「大変リベラル」も次に多く、19.5%。「ややリベラル」は16.5%。片や「保守」は5.4%、「非常に保守」は1.5%、「やや保守」は4.9%だった。
waist_ga_kubireta_onna-figPL-DS.jpg  その一方で、二十五の質問事項に0(まったく嫌悪を感じない)から4(ひどく嫌悪を感ずる)までの五段階で答えてもらう。 たとえば、「公衆トイレの便座には体のどこも触れさせたくない」という質問に、0 (そんなこと全然思わない)から4(激しく同意する)まで。「ソーダ水を一口飲んだところ、それが知人のグラスであることがわかった」という質問に対し、0(まったく嫌ではない)から4(激しく嫌悪する)までだ。 二十五項目のスコアは平均の値を出し、嫌悪感受性(DS)とする。
 そして政治的立場 (非常にリベラルが1、非常に保守が7までの七段階)との関係を調べると、左頁の図のようにきれいな対応が見られた。
 保守であるほど、病原体の脅威にさらされることや衛生状態に敏感なのである(例として示さなかったが、二十五の質問事項のうちには性行為などに関する嫌悪感についての項目もある)。

ことわっておくが、本書では、こうした相関関係を紹介するたびに、これは相関関係であって、みんながそうというわけではないと注意を入れている。並みの男より背の高い女性もいるけど、全体としては男の方が背が高いという傾向にすぎないわけである。


はじめに― PCポリティカルコレクトネスの前に
      BCバイオロジカルコレクトネスを!
 
第1章 コロナ恐怖で交尾排卵が活発化?
    ―ボスト・コロナを生きる知恵
イクメンは没落する/ ウイルスは人間の性行動を自在に操る/ 外出自粛のいまこそ自然を愛でよう/ コロナ禍の不安が出産ラッシュにつながる?/ キャッシュレスでセックスレスになるかも/ 昔、男は女を掠奪するために戦った!/ 多くの日本人はとっくに新型コロナに感染していた/ 厄除け祭りは集団感染のための日本人の知恵
 
第2章 誘い誘われオトコとオンナ
    ーエセフェミニズムをぶっ飛ばせ!
人間の女が化粧して自分を美しく見せようとする〝謎〟/ バーが閉まりかけると女の子が急に可愛く見えてくる/ 欧米ではマジメ男より浮気女のほうが多い/ 浮気を見破るには重い荷物を運ばせてみよう/ 精液は女に心の安らぎを与える/ タマはわかった、ではサオはどうなのだ/ 女が惹かれる大きなペニスの掻き出し能力/ ウエストがくびれた女は、男心をお見通し/ 大人の女が怖い男たち―小児性愛の生物学/ 狩猟採集時代の私は狩人だったかもしれない/ 恐怖からいち早く逃げる女、戦うために留まる男
 
第3章 カップルの不都合な真実
    ―なぜ浮気がとまらないのか
結婚するとヤル気が失せ、浮気のときには精子も張り切る/ 仲の良い夫婦が顔まで似ている理由/ 米山氏と室井氏は〝似たもの夫婦〟の代表/ 男の浮気と女の浮気、アンジャッシュ渡部の場合は…/ 妻が浮気しないと父親になれない男がいる/ 女房・子どもを泣かせても大物狙いをやめないアチェ族の男/ 無意識にいくらでもうそをつく女、恐るべし/ デスクに向かって動画ばかり観ていると精子の質が落ちる/ 夫のマスターベーションは子づくりに効果バツグン
 
第4章 わが国に迫るもう一つの危機
    ―皇室問題の国民的議論を
妻を取られないよう連帯するトカゲは左翼男にさも似たり/ 生物戦略的な先進国の少子化を回避する知恵/ 人間社会に宗教が生まれ、父系制となった理由/ 生物学の偉大さと神仏の御加護/ 異常なほどの秋篠宮家バッシングは何のため?/ 女系天皇によって皇室が「小室王朝」「外国王朝」となる日/ 河野大臣、わが国を滅ぼすおつもりですか/ 人間の思想にも遺伝子や病原体への恐れが潜んでいる
 
第5章 誤解だらけの遺伝と人間社会
    ―遺伝子こそすべてなのに
美男美女は健康で長生きするという酷い現実/ 世界一の母乳で育った日本の子どもたち/ 娘がお父さんを「くさくない」と言うのは優しいウソ/ A型が多数派なのは「長く生きればいいというものではない」から/ DVは遺伝子の繁殖戦略?―個人の不幸など遺伝子の知ったことではない/ 肌の色には人種それぞれの事情がある/ 遺伝子がすべてを決めるなんておかしいと思っている人へ/ サルの「子殺し」が打ち砕く「種の保存」という幻想
 
第6章 メス(女)は閉経しても価値がある
    ―合理的な生物の世界
なぜ男は女より背が高いのか―身長と繁殖の相関関係/ 女に対抗して男が去勢したら寿命はどれだけ延びるか/ 紅葉は「免疫力」のアピールであるという仮説/ 〝冬季うつ〟には哺乳類の冬眠と同じ効能がある/ 学界の嫌がらせから発症した私のうつ体験/ 社会の役に立っているおばあさんを〝ばばあ〟と呼ぶな!
 
第7章 生き物社会オドロキの新常識
    ―「そんなバカな」と言わないで
生物の社会では不平等な身分制度が不可欠だ/ 鳥界の革命児ニワシドリが用いる〝逆遠近法〟/ 老ゲラダヒヒが思い出したリーダーの条件/ 鳥なのに〝ニセのペニス〟を持つオスへのメスの対抗策は/ 人間につられてあくびするイヌの哀しい歴史/ 合法的薬物で夢の九秒台が実現する?/ オール・ブラックスが踊るハカの生物学的意義/ あなたやお子さんが独創性を発揮するための魔法/ ある分野が好きでたまらないのは、あなたに才能があるから
上に引用したのは、不潔なものへの嫌悪と、政治的に保守であることに相関があるということだが、言い換えれば潔癖な保守主義者、猥雑なリベラルとなりそうだ。掲載されているグラフを見ると驚くべき傾向になっている。
たしかに一時期、ヒッピーと呼ばれる人はリベラルと思われていたように思うし、キリスト教原理主義者はガチガチの保守支持という感じがしなくもないのだけれど、そのこと自体が固定観念のようにも思う。
私は潔癖主義ではないが、汚いものは忌避するから、この研究ではDSは2ぐらいではないかと思うが、自分ではややリベラルだろうと思っている。グラフの見方の細かい説明はなかったが、どうもこの線からは外れてるかもしれない。
それにトランプ元大統領が潔癖主義だとは思えない。そもそもリベラルと保守というのは同じ尺度にのるものなんだろうか。
この研究を実施した人が考える政治的立場の設定あるいは定義が何なのか、どのように調査が実施されたのか、そのあたりが明確でないと何とも評価しようがない。
また、2008年の米大統領選(オバマvsマケイン)をとりあげているが、2016年のトランプvsクリントンでも同じようなデータが得られるだろうか、同様の調査をして結果を比べてもらいたいものだ。

次の事例。
A型が多数派なのは「長く生きればいいというものではない」から
 血液型というと、「血液の型でしょ。それが性格と関係あるなんておかしい。そんなこと言うのは日本人だけで、世界からバカにされている」などと言う人がいる。
 しかし、私は言いたい。血液型(ここではABO式血液型のことを指す) は免疫の型である。つまり病気に対する戦い方の違いであり、得意、不得意な病気があるのだ。そうと知ったうえでも、関係ないと言えますか?  血液型は、赤血球の表面に存在する糖鎖の違いによる。 糖鎖とは文字通り、糖がいくつも鎖のようにつながったものであり、赤血球の表面に毛のように生えている。その糖鎖の最末端部の糖が何かによって血液型が決まる。
私は血液型性格判断の泰斗ともいうべき能見正比古氏の本を読んだことがあるが、氏が血液型と性格に関係があるとする根拠は、まさに本書に書かれているのと同様なのである。能見氏の本では、体を作る材料が違うのだから、それが性格にも影響することは、むしろ自明と言うべきだという。
たしかに本書で指摘されるように、病気に対する戦い方が血液型の影響を受けるかもしれないというのはありそうに思う。それによって血液型と罹りやすい病気や重篤化しやすい病気に違いがあるかもしれない。できればそういう例をあげていただきたいと思う。
しかし、そのことと性格が血液型で決まる(控えめに言って相関する)というのはどうだろう。
戦前の研究だが、陸軍では、兵隊を血液型のいろんな組み合わせで、兵舎の部屋に配置して、任務遂行や協力性に違いがあるかを調べたそうだ。その結果、血液型の組み合わせが、それらと相関があるという結果は出なかったという。
血液型が心身と何らかの関係があることは否定できないと思うけれど、それでもって性格を「決定する」というのはさすがに言い過ぎのような気がする。
ちなみに私の血液型は、私を良く知る友人からはB型と言われるし、それほどでもない人からはA型とかO型と言われることがある。親密度によって態度が変わり、性格が違って見えるのかもしれない。(親密度によって態度が変わる性格はB型らしくないかも)

次の事例は、娘がお父さんを「くさくない」と言うのは優しいウソというもの。つまり娘にとってお父さんはくさいものだということを紹介するもの。
 女はにおいによって相手の男とのHLAの型の重なりを見抜いていたのである。そうやって相手選びをすることで、子が同じ切り札を重複して持つことを避けようとしているのだ。
 二〇〇三年になると、別の研究者たちによって、付き合いを始めた後でも、女は依然として相手との型の重なりについて検討していることがわかった。重なりが多いと、排卵期のセックスを無意識のうちに避けてしまう。また、オルガスムスの頻度が少ないなど、性的な満足が得られないのだ。女はいずれ別れを切り出すだろう。
 ちなみに、これらの研究と臓器移植の際に問題にされるのはA、B、DRの型のみである。
 では、父と娘はHLAの型について、どういう関係にあるのだろうか。
 娘は父の第6染色体の半分を受け継いだ存在だ。父とはHLAの型について半分もが重なっている。それほど重なりのある異性をくさいと感じないはずがないではないか!
 もし、娘さんが父親をくさくないと言ったら、それは優しいウソをついているときだろう。
 あるいは、実の子ではない場合である!
HLA型を(それとは意識していないにしても)検知するのはメスに備わった能力である。それはオスとメスでは生殖のコストの違いからくる。オスはチャンスさえあればどんなメスとでも交わって子孫を残そうとするが(だから相手のHLA型に無頓着)、メスは慎重に相手を選ばなければ損をするからであるという。
これが事実ならば疑り深い私も簡単には反論できないが、本当に娘はお父さんをくさいと思っているのかはやっぱり検証してもらいたい。すべてはそこから始まっているのだから。

さて、紹介する事例の最後は、ヒトの話ではない。人間につられてあくびするイヌの哀しい歴史である。
あくびがうつるという事にはいろんな説明があるけれど、よく言われるのは、相手に共感している人ほど、あくびがうつりやすいということ。そこでイヌの出番である。
 ところが、驚くべき結果が現れたのはイヌである。
 と言っても、イヌがあくびしているビデオを見たイヌがあくびをするわけではない。飼い主ではない人間が、イヌと目が合ったときに声を出してあくびをしてみせると、二十九頭のうち二十一頭がつられてあくびしたというのである。あくびがうつる率、七二%であり、人間同士のそれをも凌いでしまう。ビデオではなく、目の前であくびするという強力な刺激のゆえかもしれないが、それにしても驚きの値だ。
 結局、イヌと人間とは数万年にわたる共存の歴史があり、そのために互いの心、特にイヌが人間の心を読む能力が、他のどんな動物よりも高まってきたのだろう。
ネコのあくびは、緊張したときにそれを和らげる「転嫁行動」であると言われていて、ネコは勝手にあくびをしているように思えるのだが、イヌにもそういうあくびもあるのだろうが、なんとヒトのあくびがうつるのだというわけだ。

イヌのあくびで検索して出てくるのは、イヌたちの世界でのあくびの話で、ヒトとの関わりは、せいぜいヒトがストレッサーになると言う程度の話で、ヒトのあくびに共感するというのは見つけられなかった。

著者は「哀しい歴史」と書いているけれど、別に哀しいわけではないだろう。人為選択が働いて今のイヌがいるわけだから、自然選択による進化ではないかもしれないが、これも特殊な環境(ヒトに飼われる)での進化と、大きな目で見てもよいかもしれない。
それにイヌが、大型種から小型種まで、さまざまな体型、模様・色を持つのは、もともとイヌは「遺伝子が緩い」という性質があったからだそうだ(「チコちゃんの叱られる」)。
イヌのあくびがヒトにうつることはないのだろうか。

関連記事

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

六二郎。六二郎。

ついに完全退職
貧乏年金生活です
検索フォーム

 記事一覧

Gallery
記事リスト
最新の記事
最新コメント
カテゴリ
タグ

飲食 書評 ITガジェット マイナンバー アルキビアデス Audio/Visual 

リンク
アーカイブ
現在の閲覧者数
聞いたもん