「ウエストがくびれた女は、男心をお見通し」
まず著者が長くうつを患った話(第6章)の中から。
学界からの攻撃だ。
学界という世界は実に狭く、誰かが一般向けに、優しくかみ砕いた本を書いただけでもぼろくそに批判される。編集者が少しでも本を売ろうと、タイトルや帯の文句に工夫をこらしただけでも、「そんなに金がほしいか」「学問で金儲けするのか」などと批判される。ましてや学界と縁を切り、何の肩書きもない私が、売れる本を書いたなら…(ちなみに恩師、日高敏隆先生は一貫して応援してくださった)。
事実、数えきれないほどの嫌がらせにあい、竹内のものはニセ科学だなどといううわさを流された。一方ですべてを理解してくれる賢明な読者、老舗出版社と優秀な編集者に恵まれたが、超豆腐メンタルで若輩者の私はいちいち傷ついていたのだ。
はじめに― | |
第1章 コロナ恐怖で交尾排卵が活発化? ―ボスト・コロナを生きる知恵 | |
イクメンは没落する/ ウイルスは人間の性行動を自在に操る/ 外出自粛のいまこそ自然を愛でよう/ コロナ禍の不安が出産ラッシュにつながる?/ キャッシュレスでセックスレスになるかも/ 昔、男は女を掠奪するために戦った!/ 多くの日本人はとっくに新型コロナに感染していた/ 厄除け祭りは集団感染のための日本人の知恵 | |
第2章 誘い誘われオトコとオンナ ーエセフェミニズムをぶっ飛ばせ! | |
人間の女が化粧して自分を美しく見せようとする〝謎〟/ バーが閉まりかけると女の子が急に可愛く見えてくる/ 欧米ではマジメ男より浮気女のほうが多い/ 浮気を見破るには重い荷物を運ばせてみよう/ 精液は女に心の安らぎを与える/ タマはわかった、ではサオはどうなのだ/ 女が惹かれる大きなペニスの掻き出し能力/ ウエストがくびれた女は、男心をお見通し/ 大人の女が怖い男たち―小児性愛の生物学/ 狩猟採集時代の私は狩人だったかもしれない/ 恐怖からいち早く逃げる女、戦うために留まる男 | |
第3章 カップルの不都合な真実 ―なぜ浮気がとまらないのか | |
結婚するとヤル気が失せ、浮気のときには精子も張り切る/ 仲の良い夫婦が顔まで似ている理由/ 米山氏と室井氏は〝似たもの夫婦〟の代表/ 男の浮気と女の浮気、アンジャッシュ渡部の場合は…/ 妻が浮気しないと父親になれない男がいる/ 女房・子どもを泣かせても大物狙いをやめないアチェ族の男/ 無意識にいくらでもうそをつく女、恐るべし/ デスクに向かって動画ばかり観ていると精子の質が落ちる/ 夫のマスターベーションは子づくりに効果バツグン | |
第4章 わが国に迫るもう一つの危機 ―皇室問題の国民的議論を | |
妻を取られないよう連帯するトカゲは左翼男にさも似たり/ 生物戦略的な先進国の少子化を回避する知恵/ 人間社会に宗教が生まれ、父系制となった理由/ 生物学の偉大さと神仏の御加護/ 異常なほどの秋篠宮家バッシングは何のため?/ 女系天皇によって皇室が「小室王朝」「外国王朝」となる日/ 河野大臣、わが国を滅ぼすおつもりですか/ 人間の思想にも遺伝子や病原体への恐れが潜んでいる | |
第5章 誤解だらけの遺伝と人間社会 ―遺伝子こそすべてなのに | |
美男美女は健康で長生きするという酷い現実/ 世界一の母乳で育った日本の子どもたち/ 娘がお父さんを「くさくない」と言うのは優しいウソ/ A型が多数派なのは「長く生きればいいというものではない」から/ DVは遺伝子の繁殖戦略?―個人の不幸など遺伝子の知ったことではない/ 肌の色には人種それぞれの事情がある/ 遺伝子がすべてを決めるなんておかしいと思っている人へ/ サルの「子殺し」が打ち砕く「種の保存」という幻想 | |
第6章 メス(女)は閉経しても価値がある ―合理的な生物の世界 | |
なぜ男は女より背が高いのか―身長と繁殖の相関関係/ 女に対抗して男が去勢したら寿命はどれだけ延びるか/ 紅葉は「免疫力」のアピールであるという仮説/ 〝冬季うつ〟には哺乳類の冬眠と同じ効能がある/ 学界の嫌がらせから発症した私のうつ体験/ 社会の役に立っているおばあさんを〝ばばあ〟と呼ぶな! | |
第7章 生き物社会オドロキの新常識 ―「そんなバカな」と言わないで | |
生物の社会では不平等な身分制度が不可欠だ/ 鳥界の革命児ニワシドリが用いる〝逆遠近法〟/ 老ゲラダヒヒが思い出したリーダーの条件/ 鳥なのに〝ニセのペニス〟を持つオスへのメスの対抗策は/ 人間につられてあくびするイヌの哀しい歴史/ 合法的薬物で夢の九秒台が実現する?/ オール・ブラックスが踊るハカの生物学的意義/ あなたやお子さんが独創性を発揮するための魔法/ ある分野が好きでたまらないのは、あなたに才能があるから |
著者は「種の繁栄」あるいは「種の保存」というかつての支配的な考え方、つまり種の生き残りにとって有利な形質が選び取られるという考え方は間違っているとし、それは現代の生物学では概ね賛同されているという。
たとえば、サルやライオンなどで観察されている子殺しが、種の保存に反するものの代表。そういう血生臭くないものとしては、鳥類におけるヘルパーの存在など。
それがドーキンスの「利己的な遺伝子」あたりから随分様子がかわり、メカニズムはいまだわからないが、遺伝子にとっての「利益」(遺伝子の増殖・継承)を原理としたら、種の保存原理に反することも説明できるということが明らかになり、次第にこちらの考え方が主流になっているのだと思う。
そして著者がいう進化の原理は、ほぼ生殖の問題になる。
本書はやたらセクシャルな話題が多いが、これは生殖こそが進化の原理であることから、それに焦点があたるのはしかたがない。
学生のとき、音楽や文学の話をしていると、横から「所詮、代償行為だろ」と冷やかす友人がいた。音楽ができるとか美しい誌をうたえることがセックス・アピールになるのなら、代償行為だけではないとも思えるが。
さてそうした議論は措いて、本書のタイトルについて、本文の説明を見てみよう。
精液に抗うつ作用があること、同じく鎮静作用があること、そしてサクション・ピストン仮説の検証など、性に関する大胆な研究をしている米ニューヨーク大学オールバニー校のG.G.ギャラップ・ジュニアらは、引き締まった女のウエストと、人の心を読む能力との関係についても調べている。
そもそもウエストがヒップに対して、いかに引き締まっているかの比の値は、WHR(Waist to Hip Ratio) と言い表される。女の場合、0.7くらいであることが望ましいが、もう少し低い値はもっと理想的となる。
たとえばウエスト63センチに対し、ヒップ90センチだとWHRは0.7だ。ウエストが60センチなら、WHRが0.7となるのはヒップが86センチくらい。女性なら、「ああなるほど、そうか」と納得する値だろう。
女のWHRの値が低いと、妊娠しやすい、本人と子の知能が高い、健康である、質のいい乳が出る、 声が良い。セックスパートナーの数が多く、浮気に関わりがちであることもわかっている。また男がWHRの低い女を見ると、脳の報酬系がよく活性化し、年齢に関係なく、よくエレクト(勃起)する。
男が遺伝的にそのような女を好むことは、生まれつき盲目の男性にマネキンのウエスト、ヒップを触ってもらい、好みを聞くと、やはりウエストが引き締まったマネキンを選ぶという事実からわかる。視覚的な刺激とは関係ないのだ。
女のWHRを低くするのは、実は女性ホルモンのエストロゲンである。エストロゲンは脂肪をヒップや太ももにつけさせ、WHRの値を低くするからだ。そうしてWHRは妊娠しやすいなど、特に女性に顕著な様々な性質と関わるのだが、この研究では人の心を読む能力との関係に注目した。
そもそもエストロゲンは脳を女性化するので、男よりも女のほうが他人に感情移入し、共感するとか、人の心を読む能力に優れている。だから、女性の中でもよりエストロゲンのレヴェルが高く、WHRの値の低い女ほど、人の心をよく読めるのではないかというのだ。
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ギャラップ・ジュニアらは、まず子育てを考える。 物言えぬ乳児や幼児が、何を訴えているかを目の表情から見極める。このことは誰もが思いつくだろう。ギャラップ・ジュニアらがすごいのは、もう一つの可能性を考えたことだ。
それは、WHRの低い女は魅力的なので、男がしょっちゅう言い寄ってくる。その際、男が一夜限りで女をポイ捨てするような不誠実なタイプなのか、長いつき合いを望む、誠実なタイプかを見破る能力が、WHRが高い女よりも、ずっと必要となるからだという。
子育て中に我が子の心を読み取る件については、WHRの高さはあまり関係ないだろう。どんな女も同じように必要となる能力だからだ。
男性は女性の胸の膨らみを見ると、性的興奮が起こる。これはそれこそ遺伝子に組み込まれた本能というやつである。もちろんその性的興奮で励起される行動を理性で抑えられるかどうかは人によって違うが、興奮してしまうという事実を否定できる男性はまずいないだろう。
若いころは興奮することに罪悪感のようなものを感じたことがあるが、それは遺伝子に組み込まれた反応であって、興奮すること自体を否定する必要はない。ただ、その興奮のままに性行動をとることを抑えられるかどうかも遺伝子と関係があるらしいが。
ところで、デズモンド・モリスによれば、女性の胸の膨らみはお尻のコピーだと言うのだが、本当だろうか。サルはお尻に興奮するが、直立したヒトではお尻は見えなくなるから、それのコピーが前面に付いたなどと説明されるが。
思うに、視覚的に性的興奮を起こさせるのは勃起した乳首のほうが強いように思う。ふくよかな乳房はその展示台なのではないだろうか。サルはお尻を見てのべつまくなく興奮するわけではなく、そこにメスの発情状態を示すサインがあることが大事なのではないだろうか。そうならばヒトにおいてメスの発情状態が現れる勃起乳首が前面にきて、それを効果的に展示する台としての乳房があると考えられないか。
ただ本書では、さらに先へ行って、ウエストがくびれた女は、男に言い寄られる機会が多いから、その男がどういうやつか見極める能力もまた備える必要があるというわけだ。
それなら、美しい胸を持つ女にだって、その能力があってしかるべきだ。また、美しい脚をもつ女もそうだ。そうしたセックス・シンボルだけでなく、美しい女性は、男の心を見通せるという話になるのではないか。
ことをウエストのくびれだけに限るというのはどうなんだろう。
千夜一夜物語では、ウエストがくびれ、ヒップが堂々たる女性を、最上の美女とする記述がいたるところに出てくるが。
あるいは和服美人というのはどうだろう、WHRなんて感じられない思うけれど。
こんなことも考えた。
若い時は、くびれたウエストを持っていた女性も、加齢によってくずれたウエストに変わっていく。そうすると男に言い寄られる機会は減るから、男心を見通す必要性は下がってくるだろう。逆に言えば、男心を見通す必要が下がった老女はウエストがくびれてなくて良くなると。
しかし、かつて持っていた男心を見通す能力が、加齢によって下がるものだろうか。加齢とともにむしろ賢くなってくるのではないだろうか。
いや、かつてもてていた頃の快楽が忘れられず、ただやりたいだけの男にくっつくという心理もあるかもしれない。この場合は、男心がわからなくなったのか、わかった上なのか、難しいところだ。
本書にあるたくさんの事例は、進化の原理≒生殖の原理で、スジが通っているようにも見えるけれど、それに対する反論方法についても考えながら読むほうが良いのではなかろうか。
それは本書をトンデモ本ということではなく、そういう見方もあるが、それを検証あるいは反証する事実はないのだろうかと考えながら読むということで、これは科学的態度だから、著者を誹謗するものではない。それは著者も良くわかっているだろうと思う。