「ダーウィンが来た! 生命大進化 第1集 生き物の原型が作られた」

植田和貴, ナショナルジオグラフィック
「ダーウィンが来た! 生命大進化 第1集 生き物の原型が作られた(古生代~中生代 三畳紀)」
について。

71HsroWNnaS.jpg 図書館の新着棚にあったのを、グラビア程度に思って(ダーウィンが来た!というタイトルにも魅かれたが)、写真をパラパラ見て楽しもうというぐらいであまり内容には期待せずに借り出した。ところがこれが読み始めるとなかなか面白い。

著者の植田和貴氏は、古生物学を専門にしているわけではなく、そもそも学者・研究者の類でもない。NHKの科学番組担当ディレクターである。
この本は、そのディレクターが番組作りにのめり込み、そして古生物学にのめり込んだ、そして氏の驚き・感動を本にしたというもののようだ。

というとなんだか学問的にはうすっぺらいもののように思われるかもしれないが、本書にとりあげられている学説(仮説)は、私にとっても驚くものが多かった。

まず驚いたのは、私が無知だからだが、先カンブリア時代とカンブリア紀の地層が重なって見られる場所では、6億年分の地層が跳んでいるということ。この現象は古くから知られていて、19世紀には「大不整合(great unconformity)」という用語が使われるようになっているという。

巨大な底なし沼“生命進化の謎”へようこそ
カンブリアの王者の姿を探る! /とうとう真の姿が見えてきた! /この本の舞台となる年代
 
1 生命誕生の下地
~海の存在が生命を育んだ~
命の星・地球と水を失った星・火星 /40億年以上前、火星には大海原があった /火星の海水を引き込んだプレートテクトニクス /地球の海を「救った」ポストペロフスカイト
 
2 生命大爆発のピース
~地球の活動と生命の進化~
現生生物の起源 カンブリア大爆発 /生物多様化のイベント「殻の進化」 /原料は大陸が供給する「ミネラル」 /ミネラルは神経系も発展させた
 
3 生きる力を躍進させた「眼」の誕生
~眼を生んだ遺伝子~
カンブリア世界の“聖地”で目撃した「眼」 /カンブリアの覇者! アノマロカリスの大きな眼 /遺伝子から見えた「眼」誕生の秘密 /植物の遺伝子から眼が生まれた! 「移動する遺伝子」 /大発見! 光合成するウミウシ!? /カンブリア紀の私たちのご先祖様は?
 
コラム 古生物番組の裏側① 色の再現
 
4 節足動物軍団VS脊椎動物軍団
~逆転のカギはゲノム重複!~
節足動物VS脊椎動物 海サソリの世界 /節足動物VS脊椎動物 巨大魚ダンクルオステウス /節足動物VS脊椎動物 複眼とカメラ眼 /明暗から“鮮明”な世界へ大躍進をもたらしたゲノム重複 /ゲノム4倍化を知る手がかりはヤツメウナギ /カメラ眼はゲノム重複によって生まれた! /偶然が重なったゲノム4倍増の仕組み
 
コラム 古生物番組の裏側② 形の再現
 
5 ついに陸へ! 知られざる海からの上陸物語
祖先の上陸はあの巨大魚よりも前だった!? /上陸の場所は淡水ではなく海!? /上陸劇を演出したのは「月」
 
6 陸上制覇、母乳の獲得
陸地に生まれた単弓類の王国 ディメトロドンの世界 /母乳は単弓類の段階で誕生した /絶頂を極めた単弓類そして大絶滅
 
7 いよいよ恐竜の台頭! 恐竜VS哺乳類の幕明け
大量絶滅後の世界 低酸素地獄で単弓類陥落 /恐竜誕生 大量絶滅を乗り越えて /恐竜成功のカギ 直立二足歩行 /その陰で誕生した哺乳類
 
コラム 古生物番組の裏側③動きの再現
 
そして地上最大の支配者、恐竜が台頭する!
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本書では、この失われた6億年分の地層は、大陸になっていた時期で、風化により失われたとし、そしてこの大陸から海へ溶け出したミネラルがカンブリア爆発の生物(炭酸カルシウムの殻を持つ)を用意することになるという。

大陸の出現というのは地球史でも習うわけだが、歴史の1コマとして見るだけで生命史との関わりを深く考えたことはなかったのであらためて驚いたわけだ。陸がなければ陸上生命はいないのはあたりまえだが、大陸ができたからミネラルが地表に現れて海に溶け込んだ、そして生物の体を作る材料になったというわけだ。

ネットで検索すると大不整合の説明にはスノーボール仮説に基づいて氷河の浸食によるという新説もあるようだ。


次の驚きは眼の出現、というか眼が出来た進化史上のトリック、眼はなんと植物の遺伝子を取り込んだからできたという説の紹介である。植物は光合成のために光を感じてその方向にゆく。この光を感じる遺伝子が動物に取り込まれたという。

大腸菌も光を感じ、光に集まる性質があるそうだ。その性質を利用して大腸菌に絵を描かせるという話もある。
ひょっとして植物じゃなくて大腸菌由来?

ともかく、植物と別に動物が一から眼を作ったなら、もっと時間がかかっただろうという。

本書によればこの遺伝子の「水平移動」(親から子へは垂直移動)は現生生物でも確認できるという。それが、葉緑体を持ち光合成を行うウミウシの存在であるという。
これはさすがに半信半疑なので、ネットで調べたところ、ウミウシのDNAには光合成遺伝子は見つからないという研究結果があり、後天的に葉緑体を取り込んでいるという説のほうが有力なようだ。
ではあるけれど、サンゴなど藻類と共生する動物が知られているが、植物体との共生ではなく、葉緑体だけをとりこんでいるところはやはり驚きでもある。
一方、人類を含め多くの生物がウィルスの遺伝子を取り込んでいることはほぼ間違いないから、ウミウシでの結果だけで遺伝子の水平移動自体を否定することにはならないとも思う。


61wAFRkcDZS.jpg

まだまだ驚くべきことは多いのだが、それは目次で確認してもらおう。
ただ、上に光合成ウミウシのことを書いたように、本書でとりあげる説を無批判に受け入れるわけにはゆかないと思う。そこが著者が専門家でないことの憾みというか、科学的・批判的読みはなされておらず、解説文もドラマティックではあるが、一面的なものになっているように思う。

だからといって本書はトンデモ本などではない。
本書が投げかけた古生物史の驚きポイントは、私には新鮮な視点だし、また提示された説は興味深く、そしてだからこそ検証しなければという魅力がある。上に各説に対する批判があることを示したが、興味がかきたてられるからこそネットでの情報収集をしようということになる。

ところで、本書には化石の写真がたくさん掲載されているのだが、化石の写真だからコントラストやエッジが緩いのは仕方がないと思うけれど、印刷(紙?)があまり上等ではないので、ちょっとくすんだ発色になっている(ナショナルジオグラフィック誌もあまり綺麗だと思わない)。展覧会の図録とか美術書で目にするような、アート系の紙にきれいに印刷してもらったら、もっと魅力的になると思う。もっともそれではムック本という廉価な出版にはならないかもしれないが。

私はこの本の内容を収録したNHKの番組は見ていない。ひょっとしたらNHKのテレビで見る画像のほうがくっきりしているのかもしれない。
NHKオンデマンドでは視聴できる。単品220円。

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