「植物のいのち」

田中修「植物のいのち からだを守り、子孫につなぐ驚きのしくみ」について。

61dhb4TXVUS.jpg この本に書かれていることぐらいは知っていてあたりまえなのかもしれない。(私は、半分ぐらいは知らないか、いい加減な知識だったけど)
目次を見ればわかるように、素朴な質問が立てられて、それに答える形になっている。

読んでいて思ったのは、私はこういう素朴な問いをあまりしてこなかったなぁという反省である。多くのことをアタリマエですましている、あるいは、本を読んでもそのままの知識としてしかとらえていないことに気づく。

たとえば、根はどのように水を吸い込むのかという問い。根には口はないし、葉にある気孔のようなものもない。それがわかっていれば浸透圧だろうという推測はできるのだけれど、そもそもその疑問を持たなければ、知識がつながることもないわけだ。

学校で習うことに疑問を持たないというのは、たとえば、小学校で花の構造を習うとき、その代表としてアブラナなどの両性花がとりあげられる。
子供の私はその模式図をなんの疑問も持たずに覚えたわけだ。そして雄蕊から出る花粉が雌蕊に着いて実ができると思ってしまうわけだ。
はじめに
 
第一章 植物の長寿
(一) 草花の芽と花のいのち
芽は、無限の寿命をもっている!/無限の寿命を捨てて、ツボミをつくる!/花の寿命を縮めるのは?/花の寿命は延びるのか?
 
(二) 樹木のいのち
世界中に、木は何本あるのか?/樹齢の長い樹木/葉っぱの寿命/葉っぱのいのちが尽きるときの出来事とは?
 
第二章 植物のいのちを支える性質とは?
(一) 植物は、〝自給自足〟で生きる
根は水を求めて伸びるか?/根は、どのように、水を吸い込むのか?/水は、どのように、上に引き上げられるか?/葉っぱは、どのように、二酸化炭素を吸い込むのか?/葉っぱは、どのように、光を吸収するのか?/自給自足で、発展、繁栄はできるのか?
 
(二) 自給自足を貫くために!
〝密〟を避ける!/必要は発明の母!/窒素を得るために共生!
 
第三章 いのちを守るために駆使される性質としくみ
(一) 動きまわらず、環境の変化に〝自己防衛〟
何百年もいのちを守り続けるタネ/季節の訪れは、夜の長さで予知する!/季節の通過は、温度を感じて確認する!/いのちを輝かせるために、きびしい寒さの中で準備する!/夏の強い日差しと暑さに負けずに生きる術とは?/きびしい寒さの中で、緑に輝き続けるために、努カする!/紫外線からの自己防衛/花や果実の色素は、いのちを守っている!
 
(二) 虫やカビ、病害虫に耐えるために駆使されるしくみ
植物のいのちを守る防御物質とは?/思いがけない術!/虫やカビ、病害虫に耐えるには?
 
(三) 宿命に対して、からだをつくりなおす術
食べられる宿命に対して/もし、花を摘みとられたら?/もし、地上部をむしり取られたら?/もし、地上部を引き抜かれたら?
 
第四章 いのちをつなぎ、いのちを広げる工夫としくみ
(一 ) いのちをつなぎ広げるのは、〝自力本願〟
植物は一つの花の中で、いのちを生まないのか?/いろいろな性質のいのちを生み出すために?/多様ないのちを生み出すしくみとは?/雄花と雌花を別々に咲かせる植物たち/この世に生き残ることができるのは?
 
(二) いのちをつなぐための保険
子どもをつくるための保険/自分の子どもは自分だけでつくる/私たち人間が利用する〝自家受精〟/単為生殖とは?/花には頼らない〝無性生殖〟/球根で増えるものもある!/「ランナー」で増えるものもある!
 
第五章 植物のからだと寿命を支える力
(一) 植物のからだ
植物のからだは、何でできているのか?/一つの細胞は、一つの完全な個体をつくることができる!
 
(二) 樹木の寿命
なぜ、樹木の寿命は長いのか?/なぜ、「ひこばえ」が生えてくるのか?/地上の樹木は、根で支えられている!/根ごと引き抜かれても、生えてくる植物は?
 
第六章 いのちのつながりと広がりへの疑問
(一) 被子植物の誕生
きれいな花を咲かせる植物は、どのように生まれたのか?/植物とタネ、どちらが先に生まれたのか?
 
(二) 植物に〝他力本願〟はないのか?
個体としてのいのちのつながり/種としてのいのちのつながり/果物の品種としてのいのちのつながりと広がり/一本の原木と枝から!/植物たちとの共栄

毎年のように書いているが、梅も自家受粉では実ができないから、実をとる木の傍らに花粉用の木を植えておく。
ところが本書によると、2020年2月に和歌山県みなべ町の県果樹試験場うめ研究所が、自家受粉で果実が実るウメの新品種「星秀」を開発したことを発表したそうだ。「南高」を母親とし、「剣先」を父親として交配して育成されたという。

もちろん、その後の長い人生の間に、両性花の多くは自家受粉を避ける仕組みとして雌蕊と雄蕊の成熟時期をずらせていることや、稲はあえて自家受粉が普通で自家不稔性のあるものは珍しいということも、本やテレビなどで学ぶ。

自家不稔性の稲は新品種を作る強力な基盤となる。日本で発見されたのだが、それを利用して新品種を創り出したのは米国の穀物メジャーであるというテレビ番組があった。

このほか雄花・雌花のあるもの、雄木・雌木のあるものなど、生殖にかかる記述も多い。「植物のいのち」というタイトルにふさわしい。

いろんなトピックスがあるなかで、一番驚いたのは、8万年生きている木の話。
これは、ユタ州中南部にあるフィッシュレイク国立公園のパンドと呼ばれているカロリナポプラのクローン。1つの根系から繋がっていて0.5㎢に広がり、総重量は6,000t超、地上で最も重い生命体だという。
本書でこれを知るまで、世界最大の生命は、アメリカにあるナラタケのコロニーで、菌糸は2㎢以上に延び、重さ数千t、年齢は数千歳というものだと思っていた。パンドがクローン生命体だということが分かったのは1968年と新しく、少し古い本やそれを引いている本には載っていないのかもしれない。

最後に、著者は言い過ぎじゃないかと思うことも書いておこう。
新型コロナ禍にあって、この時期に出される本の多くがそれを意識しているようだが、本書は植物は〝密〟を避けるという言い方をしているけれど、なるほどと思う一方、群生している植物を見ると、ちょっと牽強付会の観もある。(もちろん事実云々ではなく、言葉遣いの問題だが)

また、植物は自給自足だとか、自力本願だとかいうわけだが、ヤドリギというものもあるが、これに全く触れていないのは、本を企画したときのプロットを追いすぎたからではないだろうか。特に、食虫植物まで自給自足と言ってしまうのはいかがなものか。

食虫植物はエネルギーのために肉食しているわけではなく、窒素などが不足の土地でタンパク室から窒素などを得ているから動物とは違うという理屈だけれど、やっぱり食べてると思える。知識の深さにはおそれいるけれど、言葉遣いとしてはねぇ。


見出しの付け方にはちょっと無理筋もあるとは思うけれど、内容に無理があるわけではない。
植物について、ふと疑問に思ったことが出てきたら、この本で調べてみると良いかもしれない。

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