当ブログでは以前、世界各国での原発賛否を問うたギャラップインターナショナルの世論調査(4月19日発表)を紹介した。311後、多くの国で原発反対が多数派となり、世界は「原発ルネサンス」の呪縛から目を覚まして脱原発へと踏み出した。
これまで原発容認世論が圧倒的に強かった原発大国、米国とフランスでも世論に変化が見られた。米国では4月14-17日に実施されたABCの世論調査で、原子力発電所の新規建設に、賛成が33%(前回2008年7月:44%)であったのに対し、強く反対の47%(前回23%)を含む反対は64%(前回53%)に昇った。フランスでは6月1-3日に実施されたジェルナル・デュ・ディマンシュの世論調査では、原発継続賛成22%に対して、段階的に廃止が62%、即時停止は15%で、脱原発派は合計で77%に達した。
脱原発先進国のドイツ・イタリアでは原発全停止が政治決定された。ドイツでは7月8日、脱原発法が成立し、停止中の旧式8基の即時閉鎖と10年以内の全原発廃止が決まった。すでに原発のないイタリアでは原発計画の再開が国民投票(投票率57%)で94.5%の投票者に否決され、原発のない未来が確定した。
■ 日本の原発世論調査:圧倒的な脱原発世論の形成
原発災害当事国の日本の世論はどうか。一言でいえば、日本の世論は原発容認から脱原発へときわめて劇的に変化した。歴史上例を見ないようような急激かつ大幅な世論の変質である。とりわけ変化が加速したのは4月末から5月にかけての時期で、その変化をリードしたのは女性だった。現状では原発再稼働は認めない、原発全廃まで5年または10年以内、次世代動力は再生可能自然エネルギー、という声が多数を占めるようになった。
以下、現在までに実施された国内主要メディアの世論調査の結果である。定義:原発容認=原発増やす+現状維持、脱原発=原発減らす(段階的)+全廃(即時)。
朝日新聞で継続したデータが得られるのは賛成か反対かの二者択一式。この方式だと漸進的脱原発派の一部が賛成にまわることが考えられるため、原発容認派がインフレする点に注意。この方式でも6月には賛否が逆転した。
読売新聞とNHKは4つの回答から選ぶより正確な方式。4月半ばまでは少数派であった脱原発派が、5月半ばまでに6割近くを占める多数派となったことが分かる。また脱原発派のうち原発全廃を求める声が着実に増加し続けてきたことが分かる。
毎日新聞は3つの回答から選ぶ(もはや原発増やす派を独立させる意味もないという)方式。毎日の調査で特に注目は男女の相違である。男性もいまや脱原発が多数派であるが、一貫して女性の方が脱原発(特に全廃論)が多いことが分かる。
定期検査中の原発の再稼働をめぐる是非では、現時点では再稼働反対が多数を占めるようになっている。朝日の質問には「国が求める安全対策が達成されれば」という前提条件がつけられているため、直接的な条件がついていない他のデータとは単純に比較できないが、6月後半から7月初旬にかけて世論が再稼働により批判的となったとも考えられる(ちなみに九電やらせメール発覚は7月2日)。
原発全廃までの具体的スケジュールについては、朝日の7月調査で、将来全廃することに賛成の回答者のうち、5年以内または10年以内が58%と多数を占めた。ただしその他か無回答が9%あるので、即時全廃が必要と考える人の一部が「5年以内」からもれ落ちている可能性もあるだろう。
菅内閣の是非については5月以降は不支持が増え続けている。支持しない理由のトップは「実行力がない」であり、これだけではどういう政策が不支持を招いているかは分からない。しかし上記のデータから、菅総理が行ってきた脱原発につながる対応が原因ではないことは確実である。例えば浜岡原発の停止判断については圧倒的多数の人が支持している。菅内閣の支持率が落ち続ける主な原因は、長引く原発災害や広がる放射能汚染で安心した暮らしが奪われたことへの一般的な怒りとともに、SPEEDI隠しや学校20ミリシーベルト問題に見られたような数々の非人道的対応、とりわけ情報隠蔽や安全デマで、政府が信用を失ったことにあると思われる。ここまでやられてしまったからには、総理がいくら脱原発に向かう行動を起こしても(それ自体は評価できるにしても)、ただちに政権として支持するわけにはいかない、というのが多くの人々の感覚ではないだろうか。
■ 311後の4ヶ月間の主な出来事
世論が4月後半から5月にかけて脱原発へと劇的に動いた背景を考えてみる。
<311後の主な出来事>
3月11日 | 福島第一原発事故発生、数日以内にメルトダウン(ただし情報隠蔽) |
3月12日 | 1号機爆発 |
3月14日 | 3号機爆発、2号機ベント |
3月15-16日 | 首都圏・伊豆まで大量被曝(ただし情報隠蔽) |
3月17日 | 厚労省、食品放射能の暫定基準値を発表 |
4月2日 | 2号機ピット亀裂から超高濃度汚染水が流出 |
4月4日 | 高濃度汚染水の意図的放出 |
4月10日 | 原発やめろ高円寺デモ |
4月11日 | 20km圏外にも計画的避難地域、発表される |
4月12日 | レベル7へ引き上げ |
4月18日 | 菅総理、原発政策の白紙化を表明 |
4月19日 | 文科省20ミリシーベルト許容を通達 |
4月25日 | SPEEDI一部公開(原発周辺地域の放射能予測値) |
4月29日 | 小佐古内閣官房参与の暴露辞任 |
5月1日 | 子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク発足 |
5月6日 | 菅首相、浜岡原発停止要請 |
5月7日 | 原発やめろデモ 東京・大阪・神戸・福岡など |
5月8日 | 敦賀原発で放射能漏れ事故発生(21日に再び漏れ) |
5月6-10日 | 航空モニタリング結果公開(福島実測値)・WSPEEDI一部公開(首都圏含む広域予測値) |
5月10日 | 菅首相、エネルギー政策の白紙見直し方針発表 |
5月12日 | 東電1号機メルトダウン認める、東京新聞・電力不足キャンペーンのウソを暴く |
5月14日 | 東電2・3号機もメルトダウン認める |
5月16日 | NHK・ETV特集「ネットワークでつくる放射能汚染地図」放送 |
5月18日 | 菅首相、発送電分離の検討を発表 |
5月23日 | 福島の親たち文科省包囲、参議院行政監視委員会で小出氏・石橋氏ら発言 |
6月2日 | 内閣不信任決議否決(衆議院本会議)、「退陣表明した」とマスコミ報道 |
6月6日 | 保安院、プルトニウム等の大気中放出認める |
6月11日 | 611脱原発100万人アクション |
6月13日 | 東京連合こども守る会発足 |
6月26日 | 玄海原発再稼働をめぐる説明会でやらせメール(7月2日に発覚) |
6月27日 | 福島で体内被曝量検査始まる |
7月6日 | 菅首相、原発ストレステスト実施方針を発表 |
7月11日 | セシウム牛肉の全国拡散が確認される |
7月12日 | 子どもたちを放射能から守る全国ネットワーク発足 |
7月13日 | 菅首相、脱原発めざすと表明 |
7月15日 | 福島県が脱原発宣言、文科相もんじゅ中止を示唆、広瀬氏ら政府東電要人を刑事告発 |
311発生からおよそ1ヶ月間は原発事故について考える余裕もなく、情報もかなりガチガチに統制されていた。4月に入ると東電・政府・マスコミ・学者らの言っていることに異議を唱える人がネット上では増えはじめた。広瀬隆氏・小出裕章氏のような反骨の知識人やECRR・チェルノブイリ研究者・エンジニアなど海外の専門家の情報にアクセスした素人がネット上で反乱を始めた。事故の情報だけなく放射能のリスクについても嘘が徐々にばれていく。
4月10日の東京高円寺デモは、初めて目に見える形で異論が表面化した重要な転換点だった。レベル7への引き上げで事態の深刻さに気づきネットで情報を探すようになった人もたくさんいただろう。しかしなんといっても大きかったのは、4月後半から始まった学校の放射能をめぐる政府と親たちの正面衝突であり、それを契機として福島から首都圏へと拡大していった放射能から子どもを守る親たち(特に母親)の行動(署名・学習会・宣伝活動・独自の放射能測定活動・自治体要請など)である。また放射能の影響を受けやすい若年層を中心に、原発利権や政府マスコミにデマだ風評だと目の敵にされてきたネット上の情報が実は真実ではないかと考える人が増えていった。葉野菜・キノコ・牛乳・魚・海藻・茶・肉など飲食品の放射能汚染の情報がどんどん出てきて「風評被害」が実は本当の放射能被害だったことが明らかになってきた。広域の放射能汚染(WSPEEDI・土壌調査)や海外の機関の情報から、放射能汚染は福島だけでなく日本全体そして北半球全体の問題であることが明らかになった。このように深刻な放射能汚染の実態がある程度知れ渡った時期と、原発反対が多数となった時期が重なる。
つまり脱原発の世論は、放射能は嫌だという訴え、まともな放射能対策を求める声と表裏一体だ。5月23日文科省包囲や6月11日全国的デモではっきりと示されたノー放射能・ノー原発の世論の急成長に対し、マスコミも政府も態度を改めざるをえなくなった。浜岡停止要請や原発政策見直し・発送電分離方針・再生エネルギー法案・ストレステスト、そして脱原発会見といった菅総理の一連の動きも、世論におされて出てきた。日本社会で孤立しているのは首相というよりその取り巻きであり、永田町・霞ヶ関界隈は世論からどんどん遠ざかっている。どんなに首相の脱原発方針自体が歓迎であっても、今後のエネルギー政策に論点を限定し、現に進行中の放射能被害を過小評価し、情報隠蔽と安全デマで市民をだましながら放射能汚染食品や汚染環境での暮らしを押しつけている政権に、世論は支持を与えていない。政府がいま命を守る政策に転換することを世論は求めている。
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