ヘレン・カルディコット医師『原子力が答えではない』(2006年出版)【Helen Caldicott, Nuclear Power Is Not The Answer】の要点を和訳しました。
カルディコットさんは医師として、放射能に安全な「しきい値」はないとNYタイムズに投降記事を書いた方(この記事でに紹介しました)です。後になって随分有名な方だと分かりました。小児科医として働き、1977年にはハーバード医科大学で教えていたりもします。1980年のスリーマイル事故をきっかけに脱原発を目指して活動をはじめました。1985年にノーベル平和賞を受賞した核戦争防止国際医師会議(IPPNW)にも関与していますが、彼女自身も個人でノーベル平和賞にノミネートされています(Wikipedia)
この本には沢山の有益な情報があったので、2・3回に分けて紹介したいと思います。今回はそのパート1、「放射線1ミリシーベルトでも死ぬ、原発は平常時でも放射能をばらまき労働者を殺し温暖化を促進する」です。
以下、中鬼が特に驚いた事実をまとめてみました。
1 「原発は地球温暖化防止のためにCO2削減の救世主」は完全に嘘
2 原発を稼働させる為のウラン採掘は労働者の命を削っておこなわれている
3 ウラン精製も一つ間違えると大変なことになる、というかすでになった地域がある
4 原発から放射性物質が定期的に排出されるのはとても当たり前のこと
5 放射線で細胞の突然変異が引き起こされる
6 「安全基準」には科学的根拠がない:1ミリシーベルトでも人は死ぬ
7 プルトニウムはやっぱり猛毒
8 平常運転時でも原発から漏れている猛毒トリチウム
---------------------------------------------
1 「原発地球温暖化防止のためにCO2削減の救世主」は完全に嘘
→ 原子力を稼働させる為に必要なウランを採掘して精製するのに莫大な量の化石燃料が必要=CO2排出 しかも、地球上のウラン鉱には限りがあって、ウランの質が近年どんどん悪くなってきていて、それを精製するのに更に多くの化石燃料が必要になってきている=CO2更に排出
→ 原発のコンクリ建屋を作るのに化石燃料が必要=CO2排出
→ 有害な使用済み核燃料を保管したり移動させたりするのに化石燃料が必要=CO2排出
→ このような事実を全く考慮せずに「原発はCO2を排出しないクリーンなもの」と原子力村は言っている=大嘘排出
※大鬼脚注:それに加えてエネルギー効率の極端に悪い原子力発電所は発生した熱の3分の2を海に高温排水として捨てているので海を暖め環境負荷を増やしています。また核廃棄物を何万年も閉じ込め続けることに成功しなければ(・・無理)将来大変な放射能汚染をもたらします。
2 原発を稼働させる為のウラン採掘は労働者の命を削っておこなわれている
→ 例えばアメリカにおけるウラン採掘は、先住民のナバホやプエブロ族の居住地区でおこなわれている。その結果先住民の人達がウラン採掘の仕事につくのだけれど、地下での採掘は気体化したラドン220を大量に吸ってしまうため、彼らの20~50%が肺がんで命を落としている。調査によると、ドイツ、ナミビア、そしてロシアのウラン採掘労働者も同じように高い肺がん率で亡くなっている。
3 ウラン精製も一つ間違えると大変なことになる、というか既になった地域がある
→ コロラド州であった本当の話。60年代半ばに、ウラン精製の際にできた大量の残りかすを放射能で汚染されていると知らずにコンクリートに混ぜて使ってしまった会社があった。そのコンクリは学校、病院、個人の家、道路、空港、そしてショッピングモールなんかに使われた。70年代になってから地元の小児科医達が新生児に口唇裂、口蓋裂やその他の先天異常が増えたことに気づき始めた。米政府はそれについてコロラド大学に放射能コンクリートと新生児の先天異常の関わりについて研究を委託したが、その1年後に突如研究を打ち止めにし、その後原因究明はされていない。
4 原発から意図的または「注意に値しない小さな事故」によって放射性物質が排出されることはごくごく当たり前のこと
→ 原発内で人工的にウランを核分裂させる過程で200以上もの放射性物質が作られて放射線濃度を何十億倍も強くする。例えば、1000メガワットの普通の原子炉一基には広島原爆の1000倍もの放射線が内蔵されることになる。この高濃度の放射線は定期的に外に出す以外方法はない構造になっている。
→ 1974年にアメリカが保有していた全部の原子炉から放出された放射性ガスは648万キューリー。これは総量約2400億ベクレル(!)の放射性ガスが放出されていたことになる。全て「平常運転」でこの結果です。
→ 汚染された冷却水も同じように意図的または事故によって外に出される。
→ このように意図的、もしくは小さな事故によって排出される放射性物質についての研究はほとんどされてきていない。
5 放射線で細胞の突然変異が引き起こされる
→ 放射線で引き起こされる突然変異は優生、劣性、または伴性突然変異。劣性変異で代表するものは糖尿病、嚢胞性繊維症、筋ジストロフィー、そして精神遅滞。典型的な伴性突然変異は色盲と血友病。
→ 確認されている遺伝子病は16,604種類もある(2006年当時)
→ 放射能によって破壊された染色体は、生まれてくる赤ちゃんにダウン症などの深刻な精神・身体の病気を起こさせる。
→ 奇形生成(teratogenesis)は体外からの放射線や胎盤から吸収され胎児に届いてしまい起こる。
6 「安全基準」には科学的根拠がない:1ミリシーベルトでも人は死ぬ
→ 私たちは年間約100ミリレム(1ミリシーベルト)の自然放射能を大地や太陽から浴びている。しかしこの年間100ミリレム(1ミリシーベルト)という値は7年間その量を浴び続けると125人中1人が癌を発病する値である。
→ Nuclear Regulatory Commission(米原子力規制委員会)は何の科学的根拠もなく、一般人は自然放射能100ミリレム(1mSv)に加えて人工放射能も100ミリレム(1mSv)までは浴びられるといった限界値を作った。要するに年間200ミリレム(2mSv)まで安全だと言えるようにした。
→ 原発労働者の基準はそこから更に引き上がって5000ミリレム(50mSv)。年間に50mSvを浴び続けると、50年後に5人に1人が発癌する。
→ 安全基準は健康な70kgくらいの体重の成人男性を目安に作られている。
→ 放射性物質と化学物質は相互に発がん性を助長する場合がある。
→ National Academy of Science (米国科学アカデミー)の報告によると、大きな事故のない通常時で私たちの年間被ばく量の18%は人工放射能から起きている。ちなみにその人工放射能被ばくの内訳の79%がレントゲンや核医学から起きて、5%が汚染されたタバコや飲み水、そして原発からの放射能になる。しかし、これは通常時の計算であって、定期的に放射性物質をベントする原発が増えたり、核廃棄物が増えることでこの18%がどんどん増えていくことになる。
7 プルトニウムはやっぱり猛毒
→ 100万分の1グラムのプルトニウムを肺に吸い込むだけで高い確率で癌が引き起こされる。プルトニウムは短いが強烈なα線ですぐに細胞を死滅させる。すこし威力が弱まると今度は周りの細胞を破壊してそれが変異体となっていく。
→ チェルノブイリ事故のメルトダウンでは0.5トンのプルトニウムが放出させられた。プルトニウム0.5トンという量は、もしもこれが全世界の1人1人に平等に配布されて被ばくしたとすると、私たちが肺がんで死亡する確率が1100倍増加するという値である。
→ プルトニウムが4.5kgあれば原爆が一つ作れる。
8 平常運転時でも原発から漏れている猛毒トリチウム
→ トリチウムはどんなフィルターでも濾過できないので、気体や水と一緒になり流出されやすい。
→ 年間に少なくとも1360キューリー(5000万ベクレル)のトリチウムが平常運転している原子炉一基から放出されているという研究結果がある。
→ トリチウムの出すβ線は遠くまで貫通しないが、逆にそれは付近の細胞に吸収されやすいという事を意味していて突然変異誘発性がとても高い。
→ 動物実験の結果、トリチウムの被ばくにあった動物の子孫の卵巣に腫瘍が発生する確率が5倍増加した。さらに精巣萎縮や卵巣の縮みなどの生殖器の異常、脳の縮小、精神遅滞、脳腫瘍、周産期死亡率の上昇、そして発育阻害や奇形の胎児が観察された。
→ トリチウムは食品に組み込まれ、体内のDNAに組み込まれてしまう。
→ 通常運転中の原子炉からトリチウムは放出されていて、付近で霧が発生した時や汚染された森林から放出される気体によって人々は被ばくをしてしまう。
-----------------------------------------
感想:一言で言うと、原発って事故さえ起こらなければ安全でクリーンだなんて大嘘なんですね。事故が起きた場合のとんでもない規模の被害もさることながら、普段から地球と生命を痛めつけて成り立ってきたんですね。原発推進派は世界中でずっと嘘をついてそのことをごまかしてきました。1ミリシーベルトだって実は人を殺すんです。人々を騙してまで原発を作り続けようとする偉い方たちって一体どういうつもりなんでしょうか?どこかの国で命を削りながらウランを採掘している人達や、原発やウラン精製工場が近所に建てられてしまい定期的なベントによって知らず知らずのうちに被ばくしている人達など、沢山の犠牲によってしか成立しない原発がつくった電気を使わされることは、私たちも加害者にさせられることを意味します。私たちは今、もっと安全で環境負荷も少なく人を殺さず各地で雇用を生み安くて再生可能な自然エネルギーというオプションを持っています。節電(ピーク時電力の削減)だってちょっと電力料金の仕組みを変えるだけで簡単にできます。原発はただちに全部やめても問題ありません。エネルギーシフトに数十年かかるなどという戯言には何の根拠もありません。2010年の一年間に中国は原発17基分相等の風力発電、ドイツは7基分相等の太陽発電をつくりました。原発をなくされて困るのは原発で儲けてきた人たちと核兵器を持ちたがってる人たちだけでしょう。原発大好き政党のお一人がさすがに世論にびびって過ちを認めるって言いましたけど、これまで彼らがやってきたことの罪の深さを考えるとこんなにサラッと言われても今さら何言ってるの?と思ってしまうのは中鬼だけでしょうか。とにかくこれ以上こんな原発は続けられません。今こそ脱原発を実現させましょう!
要点翻訳(2)はこちらへ。
関連記事
原子力団追放!:元福島県知事「汚職」ともんじゅ担当職員「自殺」から見える原子力利権の闇
最初からレベル7だった:政府が隠してきた福島原発災害発生直後の桁違いの放射能放出
「人体に影響なし」の7つの嘘:原発推進派の巧みな言葉にだまされるな