各地が放射能汚染の程度や危険性を考える上で、政府やマスコミが必死に宣伝しているいわゆる「放射線量」(ガンマ線空間線量)は測れてないものが多すぎて全然参考にならないが、土壌調査は放射性物質の積もった量を計測するため重要な手がかりの一つとなる。放射性セシウムの地表濃度について、当ブログで把握している土壌調査の結果(放射性セシウム濃度のみ)をまとめてみた。※なお土壌調査については同じ市町村内でも計測ポイントや地表の状態によって全く違う値が出ることが分かってきましたので、一つの検出値だけでこのエリアは安全だとか全部がこの濃度だといったような判断はできないことをご注意願います。
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※表内「セシウム全体」とはCs134とCs137の合計
※農水省の「稲作規制基準」については追記参照
■ 山崎秀夫・近畿大学教授による土壌調査について
単位が1キログラムあたりのベクレル数なので、これを平方メートルに換算して比較することは厳密には難しい。ただしいろいろ調べたところ、今中哲二氏が検討したことがある20倍にする方式と、安全委員会が文部科学省データについて回答したという65倍にする方式とがあるようなので、参考までに両方の方式で換算してみた。(※換算方法は採取した土の深さや土の質量によって違ってくるようです。農林水産省のように15cmくらいまで採取する場合はキログラムあたりの値が極端に小さくなりますので150倍にする方式で換算しないといけません)
上の換算方式で推定するなら、福島市光が丘のセシウム137濃度(20倍換算で7.5キュリー/km2、65倍換算なら24.3キュリー/km2)は、少なくとも【参考】に書いたチェルノブイリでの第二区分に相当することになる。これが人口の多い福島市中心地や福島大学からも近いエリアでの値なので、深刻に受けとめざるを得ない。東京都江東区亀戸の土壌中濃度(20倍換算で0.9キュリー/km2、65倍換算なら2.8キュリー/km2)は、少なくともチェルノブイリ第三区分にほぼ匹敵する濃度になる。アスファルトの上は一般的に雨などで放射性物質が下水に流されるため土砂の地表よりは汚染されていないと思われるが、東京でも部分的には相当な汚染があることがこの土壌調査からも分かる。
資料出所:朝日新聞・2011年5月15日朝刊
■ 文部科学省の土壌調査について
文科省の土壌調査もキログラム単位であるが、文科省のデータの場合は65倍換算で良いらしいので比較できる。福島県内の比較的原発から近いエリアのみであるが、飯舘村Aポイントでの143キュリー/km2や浪江町での685キュリー/km2は目を疑うような値だ。今回の福島原発から出ている放射性物質の量のすさまじさを改めて見せつけられる。
資料出所:リンク1、リンク2
■ 木村真三氏による土壌調査について(ETV特集の感想を兼ねて)
ETV特集「ネットワークでつくる放射能汚染地図」(5月16日放映)は多くの方が指摘されているように良い番組だった。番組内ではっきりと数値が分かったものは限られているが、元厚生労働省の調査員である木村さんが事故発生直後から自分で現地に赴き、多くのポイントで土壌を調べた。このような人がいることは本当に心強い。
この番組を見た人の多くがこの国の政府のひどさを改めて痛感したと思う。政府は事故発生から2ヶ月近く、20kmから30kmのエリアを一様に屋内退避などと言って避難させなかったが、浪江町赤宇木の避難所の人たちもまた政府の言葉を信じてそこで暮らしていた。ところが木村さんが土壌を計測すると、54キュリー/km2というチェルノブイリ第一区分つまり強制移住となったエリアの濃度をはるかに上回る値のセシウム137が検出された。この避難所の方々はたまたま木村さんに正しい情報を伝えられて避難所を出た。そもそも木村さんは、こうした自主的な調査を行おうとして、厚生労働省の上司からやるなと言われ、辞職を決意したという。なぜ人々の命を守るための調査をしてはいけないと命令したのか、厚生労働省は説明すべきだ。
文部科学省もその非人道さで負けていない。福島県郡山市の学校は校庭の土砂に堆積した放射性物質を懸念していたが、文科省は使用時間を制限すれば(年間20ミリシーベルトを越えないから)放射能を除去する必要はないと言った。郡山市の学校が独自の判断で校庭の土の表面を3センチほど取り除くことを決定したが、それに対しても文科省は、かき集めた汚染土の山の処理を助けもせず校庭内に保管させた。なぜ子供たちのリスクを最大限下げようとしないのか。腹立たしい。
ただ興味深かった点は、5月2日に福島県の住民らが政府と交渉した際、文科省に20ミリシーベルトの助言を行ったはずの原子力安全委員会が、文科省の代表者とは食い違う以下のような発言をしていたことだ。「20ミリシーベルトを基準とすることは、これはもう認められない。これははっきり申し上げさせてもらいます。20ミリシーベルトを基準とすること、これはもう原子力安全委員会は認めておりません。(会場ざわめき)認めておりません!年間20ミリシーベルトの被曝は許容しません、子供に関しては。それはもうはっきり原子力安全委員会として言わさせていただきます。」世論の力におされて、政府内でも異論が出始めているのでは?と少し希望をもった。
資料出所:NHK・ETV特集「ネットワークでつくる放射能汚染地図」(5月16日放送)※この方が文字起こしをして下さっています(You)
■ 日本分析センターの土壌調査について
過去の記事でも書いたが、千葉市の一部で1.4キュリー/km2というチェルノブイリ第三区分に相当するセシウム137汚染が出たことは重大である。
資料出所:日本分析センターの報告
■ 大量汚染が示されている以上、体内被曝検診を実施すべき。ホールボディカウンタ車・尿検診を要求しよう!
原発利権集団が、情報を隠し計測をボイコットしゆるい暫定基準まで作って被害を隠し、風評だ何だと言って原発災害の責任を一般庶民に転嫁することを、これ以上認めるわけにはいかない。得られるデータを総合的に見て言えることは、福島原発から放出された放射性物質はとてつもない量であり、汚染は相当広範囲に広がっている。今のところ土壌調査はごく限られたポイントでしか計測されていないため、土壌調査だけからは全体像はまだ見えてこないが(同じ市町村内でも計測ポイントや土質等によってかなりのばらつきがある)、先日公表されたWSPEEDIの広域予測値もあわせて考えれば、首都圏も含めてかなり広範囲に放射能汚染が広がっていることは疑いようがない。大地が汚染されていれば水もそうであり、生き物の生態濃縮や食べ物を通じて内部被曝を被る人々が増える。
大規模かつ広範囲の放射能汚染が示された以上、実際の被曝被害から目を背けるべきではない。政府は土壌・食品・水・空気などの中のアルファ線物質(プルトニウム・ウランなど)やベータ線物質(ヨウ素・セシウム・ストロンチウムなど)も含む放射性核種ごとの徹底的な調査をすべきであるとともに、もはや人体を直接調査すべき事態であると考える。服などに付着した放射能をただ測るのではなく、一人一人の体内被曝量を計測できるホールボディカウンタ車を増産して各エリアに配置し、アルファ線・ベータ線物質が検出できる尿検査も含めて、巡回して子供から順に無償で検診を始めるべきだ。あなたやあなたの家族が10年後や20年後にガンや白血病を発病しても、今現時点でどれだけ被曝しているかのデータを示せなければ、因果関係がはっきりしないとかいろいろ理屈を出してきて被害や補償を認めないという理不尽が起きることは目に見えている。現にチェルノブイリ被害者の多くがそうした経験をしてきた。自分の被曝量が分からないままでは不安は払拭できないし、今ならまだ被曝量を把握した上で対策を考える時間がある(最初の頃に体内に取り込んでしまった半減期の短いヨウ素の被曝量を測るにはもう手遅れかもしれないけどセシウムその他の被曝量が分かるだけでも全然まし)。そして体内被曝が計測されるということが、行政にしっかりとした放射能対策をさせるプレッシャーともなる。みなさん、体内被曝検診を自治体などに要求していきましょう!
<ホールボディカウンタ車・体内被曝量計測機器>
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追記:農林水産省の作付け規制基準について
ちなみに農水省が決めたという稲の作付け規制の土壌基準とされている、放射性セシウム5000ベクレル/kgとはどういう値なのでしょうか。
農水省の土壌調査は地中15センチくらいまで掘っていますので、もしも土の比重を1と仮定すると平方メートル単位に換算するには150倍する計算になります。またこれまでのデータを見る限りはセシウムのほとんどはセシウム134と137なので、セシウム137だけなら2500Bq/kgと置き換えられます。計算してみると、
2500x150= 375,000 Bq/m2 =10.1 Ci/km2
チェルノブイリでは5から15キュリー/km2までのエリアは補償付き移住が認められました。5キュリー以下の第三区分ですら、そこで自給自足的生活をしていた人たちからガンや白血病が出ています。食品のうち放射能をチェックされるのはごくわずかなサンプルだけなので、このままだと大量の放射能汚染米が流通することになると危惧します。少なくとも私はこんな基準でつくられた東日本の米を買いたいとは思いません。政府が基準を改めて汚染土壌を除去するまでは買わないでしょう。
政府は被害と補償を認めないために農家と市民を分断して放射能汚染食品を市民に強要していますが、これは憲法で保障された市民の基本的人権を侵害しています。当ブログはこれを原発災害の責任転嫁と捉えています。私たちは原発利権が引き起こした世界史的大惨事の責任を、放射能汚染食品の摂取という形で転嫁されているのです。私たちは体内被曝も計測してもらえないため将来ガンや白血病になってもこのままでは泣き寝入りです。市民と農家は連帯して、政府に徹底した汚染除去事業・補償・厳格な基準・体内被曝検診などを求めていくべきだと考えます。