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2023/01/05

民訴IT化法による改正の施行日が複雑な件〜今年の2月20日から3月1日までと3月1日以降未定の期間の法律の見方

令和4年法律第48号による改正(この改正法を私は民訴IT化法と呼んでいる)には、100ヵ条をはるかに超える民事訴訟法の条文と見出しの改正があり、その中には条文番号も変更になるものが少しだけ含まれているが、それはごく僅かであった。

しかし、複雑なのは、民訴IT化法の1条による当事者の氏名住所の秘匿に関する規定と、2条によるIT化を中心とする規定とが分かれており、しかも1条で改正された条文をさらに2条で改正するという二段構えとなっていること、そしてそれとは別に、附則により施行日がさらに分けられていることだ。

Humoir 附則(令和4年5月25日)1条には以下のように民事訴訟法本体の施行日がずれて規定されている。

民訴IT化法1条の規定→公布から9ヶ月以内(附則1条2号)

民訴IT化法2条のうち民訴89条の見出しと同条2項と3項を加える規定および173条3項を加える規定→公布から1年以内(附則1条3号)

その他→公布から4年以内(附則1条本文)

そして、この度、附則1条2号については令和5年2月20日施行、附則1条3号については令和5年3月1日施行ということが明らかになった(令和4年政令384号)

その他の規定は、依然として令和8年5月までのいつかに施行となっている。

これだけでも随分複雑であるが、さらに、上記のように1条改正の対象条文にさらに2条改正が加わっているので、今年2月20日までの現行条文と、2月20日以降の条文と、さらに3月1日以降の条文とが異なることになっていて、しかも2月20日から新しくなった条文も3月1日から新しくなった条文も、4年以内のいつかにまた変わるという事になっているのだ。

例えば、民訴89条という和解勧試がいつでもできるという規定は、次のように変わる。

現行規定

(和解の試み)
第八十九条 裁判所は、訴訟がいかなる程度にあるかを問わず、和解を試み、又は受命裁判官若しくは受託裁判官に和解を試みさせることができる。

3月1日以降

(和解の試み等)
第八十九条 裁判所は、訴訟がいかなる程度にあるかを問わず、和解を試み、又は受命裁判官若しくは受託裁判官に和解を試みさせることができる。
 2 裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、和解の期日における手続を行うことができる。
 3 前項の期日に出頭しないで同項の手続に関与した当事者は、その期日に出頭したものとみなす。

4年以内のいつか以降

(和解の試み等)
第八十九条 裁判所は、訴訟がいかなる程度にあるかを問わず、和解を試み、又は受命裁判官若しくは受託裁判官に和解を試みさせることができる。
 2 裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、和解の期日における手続を行うことができる。
 3 前項の期日に出頭しないで同項の手続に関与した当事者は、その期日に出頭したものとみなす。
 4 第百四十八条、第百五十条、第百五十四条及び第百五十五条の規定は、和解の手続について準用する。
 5 受命裁判官又は受託裁判官が和解の試みを行う場合には、第二項の規定並びに前項において準用する第百四十八条、第百五十四条及び第百五十五条の規定による裁判所及び裁判長の職務は、その裁判官が行う。

さらに、民訴IT化法1条で変わるのは、訴訟記録の閲覧制限に関する92条と住所氏名秘匿に関する133条から133条の4までであるが、比較的短い133条の3は以下のようになる。

2月20日以降

(送達をすべき場所等の調査嘱託があった場合における閲覧等の制限の特則)
第百三十三条の三 裁判所は、当事者又はその法定代理人に対して送達をするため、その者の住所、居所その他送達をすべき場所についての調査を嘱託した場合において、当該嘱託に係る調査結果の報告が記載された書面が閲覧されることにより、当事者又はその法定代理人が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあることが明らかであると認めるときは、決定で、当該書面及びこれに基づいてされた送達に関する第百九条の書面その他これに類する書面の閲覧若しくは謄写又はその謄本若しくは抄本の交付の請求をすることができる者を当該当事者又は当該法定代理人に限ることができる。当事者又はその法定代理人を特定するため、その者の氏名その他当該者を特定するに足りる事項についての調査を嘱託した場合についても、同様とする。

4年以内のいつか以降

(送達をすべき場所等の調査嘱託があった場合における閲覧等の制限の特則)
第百三十三条の三 裁判所は、当事者又はその法定代理人に対して送達をするため、その者の住所、居所その他送達をすべき場所についての調査を嘱託した場合において、当該嘱託に係る調査結果の報告が記載され、又は記録された書面又は電磁的記録が閲覧されることにより、当事者又はその法定代理人が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあることが明らかであると認めるときは、決定で、当該書面又は電磁的記録及びこれに基づいてされた送達に関する第百条の書面又は電磁的記録その他これに類する書面又は電磁的記録に係る訴訟記録等の閲覧等の請求をすることができる者を当該当事者又は当該法定代理人に限ることができる。当事者又はその法定代理人を特定するため、その者の氏名その他当該者を特定するに足りる事項についての調査を嘱託した場合についても、同様とする。
2 前条第五項及び第六項の規定は、前項の規定による決定があった場合について準用する。

幸いにして、民訴IT化法1条による改正部分に、附則1条3号による早期の施行が定められた改正部分がかぶることはないので、同じ条文が3度変わるという事態は避けられているが、それにしても当分は、条文の引用も気が抜けない。

なお、e-Govの法令提供システムは、施行日ごとに条文を示すシステムとなっているスグレモノなので、現行はどういう条文、2月20日からはどういう条文、3月1日からはどういう条文、そして前のエントリに書いた4月1日からはどういう条文、そして4年以内の改正施行による最終的な条文がどうなるのか、全て見ることができる。タイムマシン構造なのだ。

惜しむらくは、条文ごとにいつ改正があったかが示されず、また過去分についてはかなり早くなくなってしまうというところが難点であるが、これは民間データベースの役割をあえて残しているというところなのであろう。

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