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2022/04/22

外国で結婚した日本人夫婦の婚姻届提出とその後の処理

映画監督の想田和弘さんと柏木規与子が挑んだ夫婦別姓訴訟判決(東京地判令和3年4月21日PDF判決全文)は控訴されずに確定したが、その後、婚姻届を再提出するというニュースが現れた。

別姓婚 日本も有効?婚姻届再提出 瀬戸内の夫妻 戸籍に記載求め近く

記事によれば、「東京地裁が昨年4月、判決で婚姻関係を認めた一方、戸籍への記載は具体的な判断をしないまま請求を退けた」ということから、東京で婚姻届を提出し、役所が受け付けないであろうから、改めて家裁に不服申立ての請求をする予定だという。以下、代理人弁護士の弁。

「地裁が婚姻関係を認めている以上、役所が応じなくても、家裁が受理を命じる可能性は十分にある」と予想。「そうなれば、裁判所で婚姻関係が認められながら戸籍に記載できていないという不合理な状態の解消につながる」

なるほど頑張って欲しいところだが、この記事にはかなりミスリードな部分があるので、上記の判決文を読んでみないとよく分からなかった。

 

記事には東京地裁判決が婚姻関係の存在を確認したように読める書かれ方をしていて、その点に既判力が生じているのであれば、家裁はそれに拘束されて婚姻届の受理を命じる可能性があると理解できそうな感じだったが、実際は、想田・柏木夫妻に婚姻関係が有効に成立していることを認めたのは文字通りの理由中の判示であった。

しかしその部分はなかなか感動的なまでに素直な解釈論なので、ちょっと引用してみよう。

婚姻の成立及び方式に関し,通則法24条1項は,「婚姻の成立は,各当事者につき,その本国法による」と定め,同条2項は,「婚姻の方式は, 婚姻挙行地の法による」と定めている。そして,原告らは,社会通念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する意思を有して(甲17,18,弁論の全趣旨),前記前提事実のとおり, ニューヨーク州において,ニューヨーク州法所定の婚姻の方式に従い,婚姻を挙行したものと認められるのであって,婚姻の成立に関し,原告らの本国 法である民法上の実質的成立要件(民法731条から737条まで)にも欠けるところは認められないから,民法750条の定める婚姻の効力が発生する前であっても,原告らの婚姻自体は,有効に成立しているものと認められる。

その上で被告・国が夫婦の称する氏を定めていないから婚姻は成立していないと主張するのに対し、婚姻の方式を婚姻挙行地の法によるとした上で戸籍法41条の報告的届出を求めていることから、夫婦が称する氏を定めずに婚姻が有効に成立することを許容していると言わざるを得ないという。

通則法24条2項は,外国に在る日本人が「夫婦が称する氏」を定めることなく婚姻することを許容しているものと解さざるを得ないのであり,そのような場合であっても,その婚姻は我が国において有効に成立しているというほかない

 

ただし、確認の訴えについては、確認の利益が必要で、想田・柏木夫妻の場合、婚姻届の不受理処分を受けたのだから、それに対する不服申立てが戸籍法122条に定められていて、それにより家事審判で届出受理を命じられれば婚姻届を受理しなければならず、戸籍への記載を命じられれば、区長は戸籍に夫婦関係を記載しなければならなくなる。要するに適切な法的手段があるのだから、確認の訴えは方法選択の適切性を欠くというべきだという。

戸籍法122条「戸籍事件(第百二十四条に規定する請求に係るものを除く。)について、市町村長の処分を不当とする者は、家庭裁判所に不服の申立てをすることができる。」

家事事件手続法230条2項「家庭裁判所は、戸籍事件についての市町村長の処分に対する不服の申立てを理由があると認めるときは、当該市町村長に対し、相当の処分を命じなければならない。」

Justicepolonaise 後もう一つ、確認の利益を基礎づける即時確定の利益(原告の権利又は法的地位に危険や不安が現に存し,その危険や不安を除去するために確認の訴えが有効かつ適切な手段といえること)についても、東京地裁は原告の主張するところを「事実上の不便や将来の抽象的な危険等をいうにとどまるものであり,また,事後的に争ったのでは回復し難い損害を被るおそれがあるなどの特段の事情も認められない」とし、さらに原告らが共通の氏を定めたくないということは内部的な事情にとどまり、「「夫婦が称する氏」 を定めて戸籍の編製等を求めるにつき何ら客観的な障害は見当たらない」とまで言って、原告の危険または法的地位に危険不安が現存するとはいえないという。

即時確定の利益を否定するくだりは、従来の確認の利益の判断に比べて異様に厳しいと思うし、民法750条をそもそも違憲だという立場からの主張に合憲だという立場からなにか言っても虚しいすれ違いの議論にならざるを得ない。そもそも国が婚姻関係を争っているというその事自体が、即時確定の利益の存在を裏付けているのではないか。

ともあれ、前段の、他の適切な手段があるという部分に対し、「おお、そうならその方法で行ってやろうじゃないか」ということで、改めて婚姻届の提出から手続を始めるというわけである。

 

我が家でも、同じようにアメリカにいって婚姻関係を成立させて日本で婚姻届を出すのをやってみようかと妻が言うのだが、そのためにはまず離婚をしなければならないし、その他アメリカでの結婚に必要な諸手続を考えると面倒になって5秒で立ち消えとなった。

ぜひ、想田・柏木夫妻には頑張って欲しいと、やや後ろめたいが、エールを送りたい。

 

その上で、戸籍法40条以下をつらつらと眺めるに、外国で別姓のまま婚姻関係を成立させた日本人は、3ヶ月以内に日本大使館の大使等にその旨の届出と婚姻証書謄本を提出し、大使等はこれを本籍地の市区町村に転送する。届出を受領した市区町村長が「届書に不備があるため戸籍の記載をすることができないときは、届出人に、その追完をさせなければならない」(戸籍法45条)のであり、その場合には催告をしても再度の届出がないときに「市町村長は、管轄法務局長等の許可を得て、戸籍の記載をすることができる」(同44条3項)と規定されている。

そして先の判決は、家庭裁判所が不服申立てを受けて出した審判が「届出等を受理すべき旨を命ずる審判であれば,市町村長は直ちに受理の手続を執らなければならないし(なお,婚姻の届出が受理されれば,戸籍の編製等がされ(戸籍法16条),婚姻関係が表示される(戸籍法13条6号)。),戸籍の記載を命ずる審判であれば,市町村長はその審判に基づいて戸籍の記載をしなければならない」と判示している。これに基づいて考えれば、外国人と結婚した場合を参考に、婚姻によって新戸籍を編成するにしても別姓戸籍は存在しないので夫婦それぞれが単独の新しい戸籍を作成して、それぞれに婚姻の事実を記載するか、あるいは元の戸籍(つまり親の戸籍のままか)に婚姻の事実を記載するか、いずれかを命じれば、戸籍官吏はそうするのだというわけであろう。

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