国民生活安定緊急措置法再び?
安倍首相は国民生活安定緊急措置法の発動によりマスクを北海道に供給する方針でいると報道されている。
安倍晋三首相は1日、首相官邸で開いた新型コロナウイルス感染症対策本部で、感染者が増えている北海道の市町村に対し、国が必要なマスクを企業から買い取り、供給すると表明した。「国民生活安定緊急措置法に基づき、マスクのメーカーに対し、国への売り渡しを指示する」と述べた。第2弾の緊急対応策は10日をメドにとりまとめると明らかにした。
国民生活安定緊急措置法の22条が考えられているようだが、その条文は以下のようなものだ。
世間では、転売ヤー対策として買い占め売り惜しみ防止法とか国民生活安定緊急措置法の活用が話題となっているようだが、これは東日本大震災の折にもやはり話題となっていた。
なかなか興味深い法律なのだが、今回の新型コロナウィルス対策で、マスクやトイレットペーパーが品薄になっていて一部で転売ヤーが目に余る状況になっている場合には、あまり適合的な法律とはいいがたい。
売り惜しみ買い占め防止法は主として事業者が経済の混乱に乗じて不当な利益を得ようとするもので、一見すると転売ヤーにピッタリ来るのだが、今回のケースで転売ヤーを取り締まったところで、一時的な需要の高まりによる品薄の解消にはつながらないのではないか。目に余る転売ヤーに対する吊し上げとして一般大衆が満足するかもしれないが、問題解決にはつながらない。
そして、特に冒頭の報道にもあった北海道へのマスクの供給に国民生活安定緊急措置法22条が発動できるかということだが、実際には難しいほどに大掛かりな規定である。
条文の要件部分「特定の地域において生活関連物資等の供給が不足することにより当該地域の住民の生活の安定又は地域経済の円滑な運営が著しく阻害され又は阻害されるおそれがあり、当該地域における当該生活関連物資等の供給を緊急に増加する必要があると認めるとき」の後段部分はマスクの供給を緊急に増加する必要があると言えそうだが、前段部分「生活関連物資等の供給が不足することにより当該地域の住民の生活の安定又は地域経済の円滑な運営が著しく阻害され」というのがマスクの不足に該当するのかと言うと、かなり無理がありそうである。
効果の部分でも「売渡しをすべき期限及び数量、売渡先並びに売渡価格を定めて、当該生活関連物資等の売渡しをすべきことを指示する」というのだが、売渡先はどうやって定めるのか、売渡価格はどうするのか?
北海道のドラッグストアといえばツルハとかサッポロドラッグストアとかを思い浮かべるが、一般のコンビニでもその他の商店でも薬局でもマスクぐらいは売っているのであり、小売業者は無数にいる。そうした小売業者を指定することは事実上無理であろう。
北海道だけを対象とする卸売業者というのがマスクに関して存在するのかどうかはよく知らないので、卸売業者を指定することは可能かもしれないが、そこはわからない。
価格でも、自由競争がうまく行っている日用品に特定の価格を定めるということ自体、無理があろう。オイルショックのときの記憶でも、消費者には不満のある価格設定がされたところである。特に自由競争で回っている事業者に義務を負わせるのであるから、その価格設定は高くなりがちで、そうなると消費者側からは結局事業者が焼け太りだったのではないかという批判が必ず出てくるであろう。
国が買い上げて北海道に供給するということも報じられているが、それはこの法律のそもそもの対象でもなさそうであるし、不可能ではないだろうが、やはり上記と同様の問題が発生する。
むしろこの法律を背景として、事実上、北海道への優先流通を事業者に要請することの方が、様々な無理が回避できて良いし、結果的には効率的なのではないかと思う。
かくして、近代法が前提としていたカッチリとしたシステムが崩れることには危惧を禁じえないのだが、そういう中での正統性確保の仕組みを考えていくべきかもしれない。
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