arret:任期付大学教員の雇い止めが適法とされた事例
最判平成28年12月1日(判決全文PDF)
事案は、短大教員として一年任期で雇用された原告が、その雇い止めに異議を述べ、地位確認等の訴訟を提起し、二度の雇い止めをいずれも否定して、無期の雇用契約が成立すると主張し、原審はその主張を認めたと言うものである。
最高裁は、以下のように判示して、無期の雇用契約が成立するとは言えないとして3年間での有期契約の満了による雇用契約終了を認めた。
・ 本件契約が一年任期で三年を限度とし、期間満了時に無期に転換するのは希望する職員の勤務成績を考慮して使用者が必要であると認めたときと明確に規定され、当該教員も十分認識していた。
・大学の教員の雇用については一般に流動性のあることが想定されている。
・本件使用者の経営する三つの大学でも無期に転換されなかった者が複数いた。
以上の点から本件契約が三年の期間満了時に当然に無期に転換されるものとは解されず、使用者の判断に委ねられており、本件では使用者がその必要を認めなかったものであった。
・また労働契約法18条の要件も満たしていない。
従って、本件契約が3年の期間満了時に無期に転換されたとは言えない。
法廷意見は以上だが、桜井龍子裁判官が補足意見をつけていて、大学教員に関する本件の特殊性について以下のように指摘している。
・被上告人が講師として勤務していたのは大学の新設学科であり、同学科において学生獲得の将来見通しが必ずしも明確ではなかったとうかがわれる
・教員という仕事の性格上,その能力,資質等の判定にはある程度長期間が必要である
以上の点から「無期労働契約を締結する前に3年を上限とする1年更新の有期労働契約期間を設けるという雇用形態」には一定の合理性がある。
そして桜井裁判官は、本件以外の場合に、このような雇用形態が合理的かどうかについて、以下のように、否定的なニュアンスでの意見をつけている。
どのような業種,業態,職種についても正社員採用の際にこのような雇用形態が合理性を有するといえるかについては,議論の余地のあるところではなかろうか。この点は,我が国の法制が有期労働契約についていわゆる入口規制を行っていないこと,労働市場の柔軟性が一定範囲で必要であることが認識されていることを踏まえても,労働基準法14条や労働契約法18条の趣旨・目的等を考慮し,また有期契約労働者(とりわけ若年層)の増加が社会全体に及ぼしている種々の影響,それに対応する政策の方向性に照らしてみると,今後発生する紛争解決に当たって十分考慮されるべき問題ではないかと思われる。
桜井補足意見では、大学教員であることや、新設学科での採用であることをかなり重く見た判断であることが強調されており、そのこと自体はやや首を傾げたくなるところがないわけではないが、任期付きで不安定な雇用の蔓延が反省されるべきだという指摘には賛成したい。
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