arret:在特会のヘイトスピーチに高額賠償判決、上告容れられず
よい結果に終わったので、特に書いておこう。2014年12月9日付け決定ということだが、上告不受理決定なのであろうか。
ヘイトスピーチは人種差別 在特会側への賠償命令確定
「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の会員らによるヘイトスピーチ(差別的憎悪表現)を人種差別と認め、在特会側に計約1226万円の賠償と街宣活動の差し止めを命じた今年7月の大阪高裁判決が確定した。最高裁第三小法廷(山崎敏充裁判長)が9日付の決定で、在特会側の上告を退けた。
しかしながら、ヘイトスピーチを人種差別と認めたというよりは、人種差別的な言動について違法と認めた判決が確定したというべきであろう。
少々長いが、原審・大阪高判平成26年7月8日判時2232号34頁のキモの部分を引用する。
「朝鮮ヤクザ」「日本からたたき出せ」「ぶっ壊せ」「端のほう歩いとったらええんや」「キムチ臭いで」「約束というのはね,人間同士がするもんなんですよ。人間と朝鮮人では約束は成立しません」などとし(示威活動①),「日本から叩き出せ」「解体しろ」「不逞な朝鮮人を日本から叩き出せ」「保健所で処分しろ,犬の方が賢い」とし(示威活動②),「卑劣,凶悪」「ゴキブリ,ウジ虫,朝鮮半島へ帰れ」などと発言した(示威活動③)。これらは在日朝鮮人を嫌悪・蔑視するものであって,その内容は下品かつ低俗というほかはない。しかも,その態様は,多人数で,多数の児童らが在校する日中に,いきなり押しかけて拡声器を用いて怒号して威嚇し(示威活動①),街宣車と拡声器を使用して声高に叫んで気勢を挙げ,広範囲の場所にいる不特定多数の者らに聴取させた(示威活動②,③)というものである。これによれば,控訴人らが,在日朝鮮人及び被控訴人の人格を否定し,在日朝鮮人に対する差別の正当性を世に訴え,我が国の社会から在日朝鮮人を排斥すべきであるとの見解を公開の場所で主張したことが明らかである。しかも,合計3度にわたる執拗な行動である上に,示威活動③は,本件仮処分決定を無視して実行されたという点においても強い違法性が認められる。さらには,本件示威活動の様子を撮影した映像を,控訴人Y1会及びa会の立場からタイトル等を付した上で,インターネット上の動画サイトに投稿して公開し(本件映像公開),不特定多数の者による閲覧可能な状態に置いたことは,その映像を広く拡散させて被害を増大させたというだけでなく,映像の流布先で保存されることによって今後も被害が再生産されることを可能としている。以上の事情を総合するならば,本件活動は,その全体を通じ,在日朝鮮人及びその子弟を教育対象とする被控訴人に対する社会的な偏見や差別意識を助長し増幅させる悪質な行為であることは明らかである。
被控訴人は,控訴人らの上記行為によって民族教育事業の運営に重大な支障を来しただけでなく,被控訴人は理不尽な憎悪表現にさらされたもので,その結果,業務が妨害され,社会的評価が低下させられ,人格的利益に多大の打撃を受けており,今後もその被害が拡散,再生産される可能性があるというべきである。また,事件当時,本件学校には134名の児童・園児が在籍していたが,各児童・園児には当然のことながら何らの落ち度がないにもかかわらず,その民族的出自の故だけで,控訴人らの侮蔑的,卑俗的な攻撃にさらされたものであって(児童らが不在であった場合であっても,事件の状況を認識し,又は認識するであろうことは容易に推認できる。),人種差別という不条理な行為によって被った精神的被害の程度は多大であったと認められ,被控訴人は,それら在校生たちの苦痛の緩和のために多くの努力を払わなければならない。
なお,控訴人らは,本件学校による本件公園の不法占拠の事実を過失相殺の基礎事情として斟酌すべきである旨主張しているが,被控訴人は,本件公園を無許可で使用していたとしても,本件公園の不法占拠と本件活動による損害の発生・拡大との間に相当因果関係があるとは認められない。また,本件活動の悪質性に照らせば,損害の公平な分担を目的とする過失相殺の法理が適用される余地はなく,控訴人らの上記主張を採用することはできない。
「本件活動の悪質性に照らせば,損害の公平な分担を目的とする過失相殺の法理が適用される余地はなく」という明快さは気持ちがよいくらいだ。
ちなみに、過去に引用したことのある記事をもう一度引用しておこう。
例えば、京都朝鮮学校襲撃事件では、2009年12月に在特会及び「主権回復を目指す会」の会員等11名が京都朝鮮第一初級学校の校門に押しかけ、「北朝鮮のスパイ養成機関」「密入国の子孫やないか」「お前ら、うんこ食っとけ」「ちょんこ」「キムチく さい」など差別的な言辞を弄した。校内には約150人の生徒がいたが、恐怖で泣き出す者が続出して、授業の継続が妨げられた。その後も計3回にわたり、在特会等数十人が同校周辺でデモを行い、差別的言辞を叫んだ。3回とも警察が校門へ来たが、犯罪行為を黙認した。
(出典:Human Rights Now『在日コリアンに対するヘイト・スピーチ被害実態調査報告書』
こんな言動は問答無用で撲滅すべきだし、刑事罰の対象となってもおかしくないとさえ思う。ただし、警察検察が曲がりなりにも表現行為にはむやみに立ち入れないという常識があった方がよい場合が多いと思うので、やはり民事事件で徹底追及していくのがよいであろう。
追記
上記記事は2014年の記事が最近表示されたのを今年の出来事と勘違いして書いたもので、日付を修正しました。ご指摘ありがとうございました。
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コメント
最高裁決定は昨年の12月9日ですし、高裁の判決も昨年7月ですよ。
投稿: ななしの法律家 | 2015/12/11 14:30