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2014/11/28

misc:ヘイトスピーチと法規制・雑感

ちゃんと論じる用意はないが、この議論を聞くうちに思うことはある。

ヘイトスピーチに「刑事規制必要」…伊藤和子氏

この記事は、さわりだけということであまりに簡単すぎるが、伊藤弁護士と山田健太・専修大教授との方法論の違いが浮かび上がっていると評価できる。

伊藤氏は「人権侵害を伴うものであれば、刑事規制が必要。包括的な人種差別禁止法を作り、明確に犯罪だとメッセージを発することは大事だ。抑止力につながる」と指摘。

一方、山田氏は「差別表現かどうかの境目はあいまい。規制に歯止めがかからなくなる。法規制の前に、教育や救済機関の整備などで、当事者を救うことが大事だ」と述べた。

この両者の真意はこの記事だけでは分からないが、特に外国人差別と排撃を旨としている、いわゆる在特会らのヘイトスピーチを念頭に置くと、これを是としないという点では一致しているようにも思える。

議論の焦点は、規制の矛先が上記のような差別言論行為にとどまらず、特に時の政権にとって不都合な言論一般に広がるのではないかという懸念と、そのような懸念にも関わらず表現行為を規制する法律を作るべき状況にあるのかどうかという評価に関わる。

私も右寄りの匂いの方々からヘイトスピーチだと言われることがある。とりわけ、ネトウヨないしネトウヨまがいの言動を首相やその側近が行うのを非難するときは、それこそがヘイトスピーチだみたいなことを書くものが現れる。
同様の非難は、例えば公務員の秘密保護を強化するようにと指示した民主党政権下の仙谷由人官房長官を取り上げた時もないではなかったが、とりわけ安倍首相やその側近、ネオナチともお付き合いのある閣僚たちなどに対する非難には、それこそヘイトスピーチ的な批判が来る。

このようにヘイトスピーチという言葉は、現在恣意的に用いられ、先に言ったものが勝ちみたいな状況でさえある。下手な法規制は危ないというのも十分な理由がある。

しかし、他方で、今問題となっている外国人差別・排除のデモが表現の自由として認められる範囲を逸脱していることも確かで、放置して良いとは思わない。原則として言論には言論で立ち向かうべき(下村文科相)なのは確かだが、下記のような言動にどんな反論が可能なのか?

例えば、京都朝鮮学校襲撃事件では、2009年12月に在特会及び「主権回復を目指す会」の会員等11名が京都朝鮮第一初級学校の校門に押しかけ、「北朝鮮のスパイ養成機関」「密入国の子孫やないか」「お前ら、うんこ食っとけ」「ちょんこ」「キムチく さい」など差別的な言辞を弄した。校内には約150人の生徒がいたが、恐怖で泣き出す者が続出して、授業の継続が妨げられた。その後も計3回にわたり、在特会等数十人が同校周辺でデモを行い、差別的言辞を叫んだ。3回とも警察が校門へ来たが、犯罪行為を黙認した。
(出典:Human Rights Now『在日コリアンに対するヘイト・スピーチ被害実態調査報告書』

この種の罵詈雑言に対して、言論でもって反論することなど、虚しいばかりであり、意味がない。

そうなると、限界領域における濫用の危険は警戒する必要が十分にあるとしても、なお、法的規制の必要性は高いと思う。
もともと、わいせつ表現とか、名誉毀損とか、表現の自由の枠外にあるとして民事のみならず刑事法でも規制されているが、それらに比べて差別の扇動が保護されるべきとの価値判断もおかしなことである。

そこでどんな内容の法規制が良いのかという話にすすべきだし、その際は、国際人権法上の諸概念を基礎とするのがよいのであろう。例えば人種差別撤廃条約4条の以下のような規定が参考になる。

締約国は、一の人種の優越性若しくは一の皮膚の色若しくは種族的出身の人の集団の優越性の思想若しくは理論に基づくあらゆる宣伝及び団体又は人種的憎悪及び人種差別(形態のいかんを問わない。)を正当化し若しくは助長することを企てるあらゆる宣伝及び団体を非難し、また、このような差別のあらゆる扇動又は行為を根絶することを目的とする迅速かつ積極的な措置をとることを約束する。このため、締約国は、世界人権宣言に具現された原則及び次条に明示的に定める権利に十分な考慮を払って、特に次のことを行う。

(a)人種的優越又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布、人種差別の扇動、いかなる人種若しくは皮膚の色若しくは種族的出身を異にする人の集団に対するものであるかを問わずすべての暴力行為又はその行為の扇動及び人種主義に基づく活動に対する資金援助を含むいかなる援助の提供も、法律で処罰すべき犯罪であることを宣言すること。

(b)人種差別を助長し及び扇動する団体及び組織的宣伝活動その他のすべての宣伝活動を違法であるとして禁止するものとし、このような団体又は活動への参加が法律で処罰すべき犯罪であることを認めること。

(c)国又は地方の公の当局又は機関が人種差別を助長し又は扇動することを認めないこと。


(出典:外務省サイト条文仮訳)

もっとも、この種の内容の立法を望んでも、審議会を経るとまるで別物になり、むしろ逆の内容が法律になってしまうという立法過程を、私たちは昨今の刑事法改革で目の当たりにした。

冤罪の頻発
検察の権限濫用
  ↓
取り調べ過程の可視化が必要
  ↓
可視化には捜査手法の強化が必要
  ↓
可視化はごくごくわずかな導入にとどめ、捜査手法の強化は満額回答←イマココ

そういうわけで、こういう内容のヘイトスピーチ規制が必要だということには十分賛成するのだが、じゃ、それは今の政府(自民党のみならず民主党でも)の下で、そのような内容として実現可能かというと、残念ながらそうは思えないのである。

もちろんそこで思考が止まってしまっては良くないのであり、言論としても許すべきではない行為は、これを明確化した上での立法の途を模索すべきで、そうした活動は支持するのだが、上記のような逆転現象にならないように、立法と法執行に関わる各方面の理解と支持を取り付けながら進めていく必要があるのであろう。

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