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2015/10/29

SLAPP訴訟に断罪

長野・太陽光発電所:批判封じの提訴、正当性欠く

見出しからはちょっと分かり難くかったが、反対派に対して、口封じのためにわざと高額請求を突きつけてビビらせる、そういう目的で提訴したと認められたようである。

長野地伊那支判平成27年10月28日

判決は、同社が「誹謗(ひぼう)中傷に当たる」と主張した住民説明会での男性の発言について、「住民が反対意見や質問を述べることは当然で、違法性はない」と指摘。同社が提訴した経緯について「男性は工事への妨害もしておらず、言動に不当性があるとは考えにくい。個人に多額の損害賠償を求めており、被害回復が目的の提訴とは考えがたい」と批判した。

 判決などによると、発電所(約1メガワット)は2013年3月から3回の住民説明会を経て、14年4月に稼働した。同社は同年2月、男性が客観的・科学的根拠がない情報で地元住民をあおり、計画の一部を断念させたとして提訴。男性は同年8月に反訴した。

口封じ目的での提訴が違法とされたケースとして著名なのは、なんといっても、今は亡き武富士の盗聴を報じたジャーナリストたちに対する名誉毀損事件である。

arret:不当提訴で損害賠償を認めた例

また、個人的にはSLAPP訴訟と言えるのかどうか疑問に思うが、訴えられた側が上記の本まで書いてSLAPP訴訟を有名にした功績がある例として、以下のものがある。ちなみに烏賀陽弘道氏に対する訴えは控訴審で請求放棄されたようである。
オリコンvs.烏賀陽弘道)

ちなみに、不当提訴に関する最高裁の有名な準則があるので、念のために挙げておこう。

訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者が,そのことを知りながら,又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる

最判昭和63年1月26日民集42巻1号1頁
最判平成11年4月22日集民193号85頁
引用は最判平成22年7月9日集民234号207頁

この最後の平成22年のケースはひどい話で、会社経営者が、経理担当従業員に対して、横領をしたと言って刑事告訴した上に、嫌疑不十分で釈放されると3900万円もの損害賠償請求をしたというのだが、原審の認定によれば、横領したとされる金銭を引き出すのに用いられた小切手の振出や預金引き出しは経営者の指示によるもので、その金員も経営者が従業員から受領し、あるいは業務に用いられたという。
こうした認定で経営者が従業員に対して請求した損害賠償は棄却された。ところが、提訴は不法行為だという反訴についても原審は棄却したのである。

これには最高裁の鉄槌が下った。以下、上告人が従業員で、X1は会社、X2以下が経営者一族である。

本訴請求は,そのほとんどにつき,事実的根拠を欠くものといわざるを得ないだけでなく,X2は,自らが行った上記事実と相反する事実に基づいて上告人の横領行為等を主張したことになるのであって,X2において記憶違いや通常人にもあり得る思い違いをしていたことなどの事情がない限り,X2は,本訴で主張した権利が事実的根拠を欠くものであることを知っていたか,又は通常人であれば容易に知り得る状況にあった蓋然性が高く,本訴の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められる可能性があるというべきである。

加えて,原審は,X1が本訴の提起に先立ち上告人により5億円程度の小切手が無断で振り出されたとして告訴をしたが,上告人は小切手金約34万円の業務上横領の嫌疑で逮捕勾留されたものの勾留期間満了前に釈放されたことを認定していることや,その後に提起された本訴の請求金額が合計約3900万円に達することなども考慮すると,なおさらである。

以上によれば,X1及びX2の本訴の提起は,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとみる余地が大きい。また,X3及びX4についても,X2の子であって,X2の主張に依拠して本訴を追行していることがうかがわれることからすれば,これと同様に解することができる。

このような推論に基づき、原審は、「記憶違いや通常人にもあり得る思い違いをしていたことなどの事情」を認定もしないで不法行為の成立を否定したのは違法だと断じた。

冒頭のケースは判決文がないので、具体的なことはわからないが、積極的に悪意が認定できなくとも、状況から言ってよほどのことがなければ悪意に基づく訴えと認められる場合があること、その一例ということかもしれない。

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