Lyon第3大学でシンポジウム「離婚後の紛争」
Lyon第三(Jean-Moulin)大学でLe contentieux post-divorceと題するシンポジウムに出席した。
主催は若きオーリアン・モリエール講師で、朝9時から夕方17時までに3つのセッションと昼食会があり、すっかり離婚関連紛争にどっぷり使った。
フランスで何が問題となっているのか、どういう方向に向かおうとしているのかということをモリエール講師が最初にPropos introductifsとして提示していた。
レジュメもないので聞いた限りでだが、それによると、離婚手続について数々の改革により合意に基づく離婚の余地が大きくなってきた。しかし、離婚に伴う紛争、すなわち財産の清算や扶養料・養育費、子の面会・宿泊権(面会交流)に関する紛争は、むしろ増大しているとさえ言える。
そうした紛争が好ましくないことは明らかであり、なるべく紛争が激化しないようにするためには、婚姻や離婚を減らすわけにも行かないので、離婚に伴う関連諸条件の決定過程を専門化し、弾力化し、契約化することが必要だという。契約化 contractualisationという言葉を使っていたが、要するに合意に基づく解決への志向である。
これを受けて、シンポジウム全体の構成は以下の通りだった。
まず第一部「夫婦間紛争」の前半には、扶養料 prestation compensatoire についてであり、その見直しや履行確保について、リヨン控訴院家庭部のDurand 部長判事とリヨン第三大学講師のThouret弁護士が実務の現状について説明した。
ここでは特に、Thouret弁護士が履行確保について法的な枠組みの機能不全を前提に、扶養料に担保を付ける方法、それも不動産担保をつける可能性や、保証人をつけること、そして債務者が履行保険を掛ける方法などが紹介されていた。
後半は財産の清算と分割に関する紛争で、司法省に所属しているBuat-Ménard判事が離婚の際の財産分割の手続について、ボルドー・モンテスキュー大学のHauser名誉教授が裁判所の認可を受けた合意について見直しが可能かどうかについて、そしてリヨンのDelécraz公証人が分割の際に見落とされた財産の帰趨について、それぞれ説明していた。
ここでは、Hauser教授の話が理論的で、特に合意に基づく条件決定と裁判所の認可が非訟事件に属することと既判力(フランス語では既判事項の権威)との関係において困難な問題をはらんでいることが論じられていた。
昼食会を挟んで、午後は第二部「親としての紛争」と、第三部「可能な将来像」が展開された。
第二部「親としての紛争」は、経済的な側面での養育費紛争で、リヨン第三大学講師のBuratti弁護士が養育費の履行強制について、特に直接請求や検察官を通じた取立てなどについて述べられていた。しかし、いずれも必ずしも十分ではないとのことである。また未成年権利委員会の委員長であるNeple弁護士は訪問・宿泊権について、つまり日本法での面会交流について、その現状が監護親の拒否や子どもの拒否により必ずしもうまくいかないことが説明された。そしてリヨン・カトリック大学のDouris講師が中立的な場所と題し、面会交流の場所を制限すること、特に中立的な機関が提供する面会交流場所について説明された。
第三部「可能な将来像」は、Toulon大学のEgéa教授が義務的調停と題して、要するに調停前置主義の導入と一般化について実験的な取り組みを中心に説明された。
そして締めくくりとして、家族法センターの責任者でリヨン第三大学のFulchiron教授が、脱裁判化の方向性について、いかなる未来が待っているのかと題する総括的な話をした。
以下感想
フランスと日本とでは、制度的な違いが大きく、また刑事法的な保護がかぶさっていたり検察官による債権執行への関与があったりと、様々な分野に関係ができてくる。面会交流への姿勢も、共同親権が原則であることや、裁判所が何らかの形で離婚に関与することを踏まえてでないと、評価はできない。
その一方、配布資料によれば、フランスでも2009年に16万人もの子どもが離婚等により両親の別れを経験し、その76%が母親に、わずか9%が父親に引き取られ、残る15%は施設に引き取られる。
他方、報告中では、離婚給付の支払いは多くが滞り気味で、一部しか支払われないことも多く、全く支払われないケースが30%にも及ぶという。
こうしたフランス社会の現状は、日本の現状にも通じるものがかなりある。
この家族の紛争処理手続の比較研究は一朝一夕にはできないが、極めて興味深い。
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