jugement:食べログ掲載を差し止める権利はない
大阪地判平成27年2月23日
バーがホームページで店の情報を公開していることを踏まえ、佐藤哲治裁判長は「削除要請に応じないことが違法とまでいえない」と判断。請求を退け、食べログの運営会社「カカクコム」の勝訴判決を言い渡した。判決によると、バーは看板を出さず、オートロックの扉を店員が開けないと入れない「隠れ家」を演出。客とみられる人物が2012年11月に店内の写真や感想を食べログに投稿したため、バーが13年12月に「営業戦略が台無しになった」として提訴していた。
隠れ家を演出して看板なども出さないという営業戦略が、食べログに掲載された結果、台無しになったとして削除を求めたが、棄却されたというニュースである。
新聞記事のわずかな情報では、結論や理由付けについて何とも言いがたいが、飲食店が当然に自らの情報を掲載するかどうかの全権をもっている訳ではないし、他方でどのような場合でも自らの情報を公開されたことを甘受すべきだということにもならない。
個人であれば、プライバシーの権利に基づき、他人に知られたくない情報を公開しないように求める差止請求権が一応認められようが、他方で情報を公開する側の利益も考慮されるべきで、公益目的の公表や報道など、あるいは表現の自由の観点からも、プライバシーが制限されることはあり得る。
事業者の事業に関する情報は、プライバシーに差止請求権の根拠を求めることは難しい。事業に関する情報を公開されない権利は、例えば営業秘密についてであれば不正が絡んでいれば認められうる。また著作物の公表権や複製権を根拠とする差止めも考えられる。商標などの不正な使用も差止請求権が生じる。信用毀損となる場合も、当然ながら差止めが考えられる。飲食店の店舗情報自体にパブリシティ権が認められるのは難しいだろうが、仮に認められるとすれば、それも根拠となりうる。
しかし、そうした根拠がなければ、他人が情報を公開することを差し止める権利というのは認めがたい。
というわけで、上記の新聞記事の限りでは、当該事案についての結論が良いとも悪いとも何とも言えないが、一般的には他人の自由な表現行為を妨げてまで自己の情報を公開するなと要求する権利は、限定的にしか認められないのが原則だ。
その意味で、食べログへの差止めを正当化するのは難しいであろう。
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