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2015/01/12

courts:ハンセン病特別法廷調査の一端

日本の戦後司法がこうした形で実態調査にさらされるのは空前のことで、絶後にして欲しくないものだが、その一端が現れた。

菊池「特別法廷」35件 ハンセン病非公開裁判

ハンセン病患者の被告人を国立療養所内などで事実上、非公開の状態で裁いた「特別法廷」問題で、1948~77年に開かれた95件のうち、合志市の菊池恵楓園と隣接する菊池医療刑務支所で審理されたケースが3割を超える35件に上っていたことが、最高裁の調べで明らかになった。

 

このうち、殺人罪に問われた元患者が無実を訴えながら62年に死刑になった「藤本事件」に関連する裁判が、6件含まれていたことも分かった。

 最高裁によると、50年から69年までに、恵楓園で9件、刑務支所で26件の特別法廷が開かれた。熊本地裁が開いたのが25件と最も多く、次いで福岡高裁の7件。大阪地裁(2件)や神戸地裁(1件)が開いたケースもあった。

無実を訴えていた被告人が非公開裁判で死刑になっていたというのも、衝撃的な事実である。関係者には知られていたことかもしれないが、最高裁自らの調査で正面から認められたのは評価できる。

憲法第82条  裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。

この規定は、2項に例外の余地が認められているが、公開原則に新たな例外を付け加えることは原則としてできないという厳格な運用をされてきた。旧民事訴訟法時代の末期に「弁論兼和解」というヌエ的な手続が実務運用で行われたことがあったが、この時も和解期日の運用であり和解室で行われるのにもかかわらず、弁論を行う以上、公開でなければならないのではないかという問題があった。ドアを開けておけば良いといった議論が真面目に交わされた。

その明文化という位置付けもできる現行法の弁論準備手続について、公開はしなくても良いということになったが、それでも公開原則を気にして微妙な法文となっている。

民事訴訟法

(弁論準備手続の期日)

第百六十九条  弁論準備手続は、当事者双方が立ち会うことができる期日において行う。

2  裁判所は、相当と認める者の傍聴を許すことができる。ただし、当事者が申し出た者については、手続を行うのに支障を生ずるおそれがあると認める場合を除き、その傍聴を許さなければならない。

ま、実際は非公開の運用がされているのだが、立法直後の手続が見たくて、弁論準備期日との表記のある法廷に入っていったら、両当事者の了解の下、裁判長が認めてくれたことがあった。2項後段は「当事者が申し出た者」が対象でただの傍聴人は対象でないのだが、前段の「相当と認める」を広めにとるか狭めにとるかがまだ固まっていなかった時代である。

長い時間をかけてできた例外が、知財訴訟における秘密保護と人事訴訟における秘密保護の規定である。

人事訴訟法の規定

(当事者尋問等の公開停止)

第二十二条  人事訴訟における当事者本人若しくは法定代理人(以下この項及び次項において「当事者等」という。)又は証人が当該人事訴訟の目的である身分関係の形成又は存否の確認の基礎となる事項であって自己の私生活上の重大な秘密に係るものについて尋問を受ける場合においては、裁判所は、裁判官の全員一致により、その当事者等又は証人が公開の法廷で当該事項について陳述をすることにより社会生活を営むのに著しい支障を生ずることが明らかであることから当該事項について十分な陳述をすることができず、かつ、当該陳述を欠くことにより他の証拠のみによっては当該身分関係の形成又は存否の確認のための適正な裁判をすることができないと認めるときは、決定で、当該事項の尋問を公開しないで行うことができる。

2  裁判所は、前項の決定をするに当たっては、あらかじめ、当事者等及び証人の意見を聴かなければならない。

3  裁判所は、第一項の規定により当該事項の尋問を公開しないで行うときは、公衆を退廷させる前に、その旨を理由とともに言い渡さなければならない。当該事項の尋問が終了したときは、再び公衆を入廷させなければならない。

特許法の規定

(当事者尋問等の公開停止)

第百五条の七  特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟における当事者等が、その侵害の有無についての判断の基礎となる事項であつて当事者の保有する営業秘密に該当するものについて、当事者本人若しくは法定代理人又は証人として尋問を受ける場合においては、裁判所は、裁判官の全員一致により、その当事者等が公開の法廷で当該事項について陳述をすることにより当該営業秘密に基づく当事者の事業活動に著しい支障を生ずることが明らかであることから当該事項について十分な陳述をすることができず、かつ、当該陳述を欠くことにより他の証拠のみによつては当該事項を判断の基礎とすべき特許権又は専用実施権の侵害の有無についての適正な裁判をすることができないと認めるときは、決定で、当該事項の尋問を公開しないで行うことができる。

2  裁判所は、前項の決定をするに当たつては、あらかじめ、当事者等の意見を聴かなければならない。

3  裁判所は、前項の場合において、必要があると認めるときは、当事者等にその陳述すべき事項の要領を記載した書面の提示をさせることができる。この場合においては、何人も、その提示された書面の開示を求めることができない。

4  裁判所は、前項後段の書面を開示してその意見を聴くことが必要であると認めるときは、当事者等、訴訟代理人又は補佐人に対し、当該書面を開示することができる。

5  裁判所は、第一項の規定により当該事項の尋問を公開しないで行うときは、公衆を退廷させる前に、その旨を理由とともに言い渡さなければならない。当該事項の尋問が終了したときは、再び公衆を入廷させなければならない。

知財関係には、このほかに秘密保持命令も用意されている。あまり使われていないようだが。

そんな秘密保護の要請にもわずかな例外しか認めないくらい厳格に運用されてきた公開原則が、ハンセン病については全くないがしろにされていたと言うわけである。

上記の藤本事件、公開の有無のみならず、手続を尽くしたのかどうか、ハンセン病に対する偏見が有罪判決の心証形成を決定づけていたのではないかというところも含めて、再調査を尽くすべきである。

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