law:損害賠償命令制度の利用は低調
神戸新聞に「簡易、迅速なのに…賠償命令制度が低調 県内年10件前後」という記事が載っている。
それによると、対象事件が年6千件ほどあるのに、利用は年200〜300件程度ということで、低調だという。
その理由は、履行率が低いということだが、これはそもそも犯罪加害者が相手なので仕方がない面もあろう。
ただし、奥村先生は自らの経験から以下のように書いている。
性犯罪事件で5000万円の申立を受けて、一部認諾して、損害認容額400万円のうちの遅延損害金のみ(数万円)の刑事損害賠償命令を受けた例がありました。それは履行したけど、それは統計に入ってないのか。上手く使えば、被害弁償のきっかけになります。
刑事手続に疎いと、このように刑事事件の加害者側(民事では債務者)に、債務を履行するメリットが有るということになかなか気が付かないが、なるほどというところである。
問題は、民事訴訟手続の目からこの制度と、それから刑事和解の制度を見た時に、実務上のメリットとは別にどうかということだ。
和解の方が分かりやすいが、刑事和解は上記のように刑罰を突きつけられ、情状弁護の材料を欲している人、つまり和解の成立に強いインセンティブを持つ加害者と、金銭面の解決ももちろん重要だけれども、もう少しエモーショナルな解決を期待する被害者との間で成立する。
なかなか、一般の和解のように成立すれば履行は半ば確実視されるという環境にもなく、和解の意味にかける思いもすれ違っている中で成立する和解には、やはり問題があると言わざるをえない。当事者同士の問題解決につながる和解ももちろんあるだろうが、少なくとも被害者の期待に添えるような和解にはなかなか成り得ないように思う。
他方、刑事損害賠償命令制度だが、対象事件の内5%程度ということで、確かに利用は低調なのだが、上記記事で指摘されている制約は批判すべき制約ではない。「審理全体の2~3割が民事裁判への移行や被害者側の取り下げで終結」というのもやむを得ないところである。
もちろん、誰かがお金を出して被害者には満足を与え、加害者との裁判を引き受けるという構造があれば、少なくとも被害者救済という目的は叶うことになる。記事中での常磐大学の諸沢英道教授(被害者学)が紹介している制度がそれに近い。
しかし、これって、要するに保険会社が賠償保険としてやっていることじゃないのか?
自動車損害賠償責任保険でやっているように、住民登録(外国人も含む)の際には4000円程度の強制保険に加入させられるということにすると、犯罪被害者には結構な補償が用意できるし、保険代位ということで保険会社が加害者への責任追及を可能な限りすれば良いということになるのではないか。
対象事件を自賠責みたいに人身損害に限れば、保険料ももっと安くて済むのじゃないかなぁ。
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コメント
これを申し立てられてしまうと、刑事事件の判決後に審理されるので、刑事事件は控訴して、刑事損害賠償命令の結果(支払いとか和解とか)を控訴審で利用しようということになりますよね。
また、性犯罪の場合、被告人から金額(○○○万円)を提示すると「私(うちの子)は○○○万円ということですか!」と言われるのですが、刑事損害賠償命令の申立が出た場合には、被害者はお金を請求されているということで、そういう反応もなく、一部弁償にも応じてくれやすい感じがします。
ちなみに、対象罪名から、福祉犯(児童ポルノ・児童買春、児童福祉法違反(淫行させる行為・児童淫行罪)、青少年条例違反)は除外されているので、児童を強姦して写真とった場合、写真を撮った点は、通常訴訟になりますね。
投稿: 奥村徹(大阪弁護士会) | 2014/07/05 10:43