C. COUTELLE下院議員とフランスのDV対策法
ポアチエ大学のMonnet学部長のご紹介で、フランスの女性の権利関係で主導的な役割を果たしている下院議員Catherine COUTELLE氏に面会し、お話を伺うことができた。
短い時間であったが、有益な機会だった。
フランスのDV対策法については、2010年の法律が従前の体制を一新し、家事事件裁判官による保護命令を導入し、暴力抑止・予防に関する体制を強化したところである。
この法律については、長谷川総子「フランスの2010年ドメスティック・バイオレンス対策法」外国の立法258号49頁以下が詳細で条文訳も掲載されている他、『法はDV被害者を救えるか ―法分野協働と国際比較』(JLF叢書 Vol.21)の柿本論文でも詳細に取り上げられている。
その背景としては、常にフランスで語られるように、2000年の社会調査で3日に一人の女性が家庭内暴力によって殺されているというショッキングな結果が明らかになったことから、法的政治的対策が進められてきたという。
2010年法律の制定においては市民の後押しにより議会がイニシアティブを発揮し、全会一致であり、とりわけ被害者が告訴することについての困難を取り除くことに力点があったという。DV被害者は、暴力で支配され、孤立させられ、心理的に閉じ込められ、肉体的にも傷めつけられ、子どもも被害者となる。そのような環境に置かれた被害者が警察等に助けを求めることの困難さをなんとかこじ開けたいというわけである。
施策のポイントは、全国統一のDVホットラインを24時間運用すること、警察に通報しやすくすることや、婦人警官を積極配置すること、そして保護命令、DV加害者を家から追い出して被害者の安全な環境を作ること、そして教育上も人を尊重することを教えようという点をより強く進めていくことなどである。
もっとも保護命令に関しては、とにかく時間がかかり、申立てから命令まで平均して26日間もかかるという。これは司法手続である以上、対審主義も無視できず、相手方と申立人とを呼び出して聴取した上で発令するのでどうしてもそうなるという。
また、加害者を追い出すという点も、現実には逆に被害者を逃し、施設で安全を確保すること、要するにシェルターを提供したり住居を提供したりする方向に力点があるというのが現実であると述べられた。
*その住宅について、下記報告書では賃貸住宅借り上げも大学住宅使用協定も進んでいないと批判されていたが、先日大学住宅使用協定が結ばれたというニュースに接した。
Catherine COUTELLE議員は、先週ブリュッセルでヨーロッパ全体の状況を聞いてきたが、ヨーロッパ全体としてもなお問題は解決していないという。
最後に、心理的嫌がらせについての問題が解決困難なものとして残されていると指摘された。これは、心理的なDVということだが、その立証は困難であり、司法官(裁判官・検察官)を納得させることができないでいるとのことであった。
2010年法については、Guy Geoffroy議員とDanielle Bousquet議員の議会報告書が提出されており、上記の日本語文献でもそれぞれ取り上げられていたが、その感想を聞いてみたところ、確かに批判的なトーンで書かれているが、司法官の側の向上も期待できるし、この批判を糧に改善されるはず、立法面でもさらに進む準備ができているとのことであった。
その一つとして、現在、上院の第二読会に進んでいる男女平等法案による包括的な平等推進を挙げられた。
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