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2014/02/14

Court:裁判所の使い方

フランス・オルレアンの裁判所が、マイケル・ジャクソンの急死で健康を害したとして、過剰投与をした医師に対するファンの賠償請求を認容する判決を下したそうである。

「マイケル急死で健康被害」仏裁判所認定 賠償1ユーロ

裁判所は、「ポップの帝王」の熱烈なファン34人のうち5人について、体調を崩したり、精神的な苦痛を受けたりしたことを診断書などをもとに認定。マイケルさんに麻酔薬を過剰投与したとして米国で禁錮刑の判決を受けた元専属医は、賠償金を支払う必要があるとした。3年余りの裁判の過程で元専属医への接触も試みられたが、かなわぬままだったという。

この裁判、結果的に1ユーロの賠償が認められたにとどまったが、当初の請求がいくらだったのかは記事からは明らかでない。
しかし、そもそも牢屋に入れられている医師を被告とする時点で、賠償金を得ることが目的とは考えにくい。

一般に、訴えの利益とは、民事裁判で請求する内容をもとに利益があるとかないとか判断する。金銭請求や金銭以外の何らかの行為を要求する訴えは、それだけで原則として利益があるとされる。その要求している内容が原告にとって利益になることが明白だからだ。
しかし、この事件のように、名目的な賠償請求を掲げつつも、その実現を本当に求めているわけではないということになると、はて、この裁判は何のためなのか検討を要するし、民事訴訟法学としてもその点に興味が生じる。

上記記事から推測される限りでは、原告が真に求めたのは過剰投与をした医師に裁判を通じて接触したい(証人として尋問したり、なんらかの陳述を紙等で得たい)ということと、マイケル・ジャクソンの死に利害関係があることを法的に認めてもらうことで墓参りがしたいということが原告の目的のようである。

前者は、日本でもおなじみな裁判の使い方である。
一般人が裁判に求めることは、民事であれ、刑事であれ、真実を明らかにしたいということと、交渉や接触を拒んでいる他者を法廷に引きずり出して糾弾したり交渉したりしたいということがよく上げられる。
一般人と書いたが、法律、特に裁判手続の専門家たる弁護士であっても、そのような目的での裁判を起こすことはある。それは必ずしも依頼人が望むからというだけでもなさそうである。もちろん素朴な法感情に根ざす行動というだけではなく、実利を得るための戦略的な使用法という場合もある。

そのように考えてくると、後者の、裁判で賠償権利者と認めてもらうことで墓参りがしたいというのも、そうした結果が生まれるかどうかは甚だ疑問なところがあるが、ともかくも裁判を手段として実利を得る一環という点では理解が可能である。

さて、以下は日本の民事訴訟理論を前提に考える。
こうした「実利」は裁判利用の正当な理由として評価されない。感情的ないし事実上の利益として、むしろ裁判利用を認めない典型例として現れる。
もちろん上で書いたように、名目的にせよ金を払えという形式を取る限り、その真意を探求して利益があるとかないとかは考えないのだが、例えばマイケル・ジャクソンの死が過剰投与に原因があることを確認してほしいとか、自分たちに墓参りをする権利があることを確認してほしいというような形式の訴えにすれば、たちどころにその訴えには利益があるのかを実質的に考える。

その場合も、単なる事実の確認では駄目だとか、過去の法律関係の確認では駄目だとか、いくつかの準則があるのだが、微妙な判断が求められる場合はある。例えばすでに死亡した人と自分とが親子であることを確認してほしいというのは、事実なのか法律関係なのかも微妙なところがあるし、死亡した人との関係は過去の関係ではないかと考えられるわけだが、最高裁はこの訴えを正当と認めた。その動機の部分で、例えば遺族年金受給権とか戸籍の訂正とかを実現するためなどと忖度されるわけだが、そうした実利部分を正面から取り上げるわけでもない。

ということで、微妙な部分をはらんでいる問題ではあるが、ともあれ上記のような動機は裁判利用を正当化する理由にならない一方で、形式的に金銭請求としてしまえば、動機は不問となる。
こうした解決は、不毛で官僚的な取り繕いに終始した理論と言えないだろうか?

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