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2013/10/30

politique:違憲判決を無視する国会議員たち

昨日から、私のTwitterのTLでもFacebookのニュースフィードでも、自民党の西田参議院議員が次のように語ったということでもちきりである。

「最高裁判所の非常識な判断に従って法改正をしてしまうと、婚外子がどんどんできて家族制度が崩壊してしまう。慎重に考えなければならない」

この議員は、次のような条項を持つ日本国憲法に基づいて自らの地位があることを知らないのかもしれない。

第八十一条  最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

教科書的な説明では、最高裁判所を頂点とする司法権には違憲立法審査権があり、法令等が憲法に適合しないと判断した場合には、当該法令を適用しないということができるし、違憲判決は立法府に伝達されて、その違憲な法令の改廃が促される。
ただし、具体的違憲審査制の下では、具体的な争訟事件の裁判に際して適用される法令が合憲か違憲かを判断できるだけであり、しかも違憲判決の効力は当該事件に適用されないという限りでしか生じない。
それでも、判例(法)としての効果は存在し、判例変更がなされるまでは、同様の事案に対して同一の解決が下されるので、違憲と判断された法令は、その法令が当てはまる事案においてはやはり違憲と判断されて適用されない。その意味で、違憲と判断された法令は、事実上効力を失う、すなわち無効となるのである。

これに対して立法府が司法府の違憲判断に従って法令の改廃をする法的な義務は、憲法擁護尊重義務から生じているといえよう。

第九十九条  天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

立法府を構成する国会議員は、憲法を尊重しなければならないことから、違憲な法令を立法してはならないし、違憲と判断された法令は憲法に適合するように改廃する憲法上の義務がある。

しかしながら、この義務は、現実には強制を伴わない義務である。最高裁の違憲判断に対して、これを尊重し、その判断に適合するように立法を行う義務を果たすことは、立法府を構成する国会議員諸氏の良識に任されている。
そしてこの良識への信頼が裏切られたのは、今回が初めてではない。

尊属殺重罰規定について最高裁が違憲無効と判断したのが1973年のことであり、その当時まだ中学生だった私はどのような経緯で違憲判決後も刑法200条が改正されなかったのかは知らないが、ともかく違憲と判断された刑法200条は刑法全体の現代語化を目的とする1995年の全面改正まで、20年以上も放置されたのである。
また、国会議員選挙の定数不均衡に関する違憲訴訟では、最高裁が「違憲状態」だとし、あるいは「違憲だが事情判決」として選挙の効力を認める判断を出している限り、抜本的な定数不均衡是正の制度改革はなされず、すぐに不均衡が露呈することがわかりきった弥縫策しかしようとしてこなかった。

今回の非嫡出子相続差別規定の違憲判決決定にまつわる経緯も、国会が最高裁判決判例を蔑ろにした先例となるのかどうか、今少し見極めなければならないが、仮に上記の西田某参議院議員のような思い上がりが蔓延しているとすると、国会議員の良識に依存した違憲立法審査権の限界が露呈した事件ということで、歴史的意義が生まれるかもしれない。

追記: 判決と決定とを混同しているところがどうして気になるという方々に配慮して一部修正しました。表題は、違憲裁判と直すと語呂が悪く、意味が違っちゃうおそれもあり、今回の決定だけの話ではないので、そのままにしてあります。

追記2: 思い上がりとはなんだ、という反応もあるので、もう一言。国会議員の地位は、現在の憲法に基づいて与えられているのに、その議員たちが憲法秩序に組み込まれた違憲立法審査権の発動を蔑ろにする姿は、自らの地位の分を知らない振る舞いだということで、「思い上がり」と評している。

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コメント

民法900条、法定相続分規定は、遺言による相続分の指定等、相続当事者間での取り決めがない場合に適用される規定だから、裁判所が同条4項但書を今後適用しないことにすれば、問題ないのでは?
条文改正せずに空文としておけばよい。違憲とされた刑法の尊属殺規定も、改正されるまで空文扱いにしていた。
法規定の明確性に欠けるというのなら、民法458条(連帯債務に関する規定の連帯保証への準用規定)で、準用対象となっている437条や439条が実際には連帯保証人には適用されないという、インチキな規定が長年放置されているのを、どう考えるのでしょうかねえ・・どの基本書にも書いてあることだけど。

投稿: arisawa | 2013/10/30 23:44

最高裁判所の非常識な判断に従って法改正をしてしまうと、婚外子がどんどんできて家族制度が崩壊してしまう。
>>このようになってしまうのは、婚妻子の相続差別の問題ではなくて、日本の婚姻制度がフランスのPACS程度の制度にすぎず、妻子の保護が弱いからです。
婚外子相続差別廃止に際しては、そちらにも配慮しなくては、婚姻制度は七五三程度の制度となってしまいます。
しかし、不倫好きな国会議員にとっては、妻子の保護こそしたくないのだと思います。
妻の地位を低くすることで、夫に隷属させたいからです。

安倍晋三首相側近の徳田毅、西村康稔、佐田玄一郎の弛み切った秘部に「3本の矢」が命中し政権の前途に暗雲
http://blog.goo.ne.jp/itagaki-eiken/e/b757b80f2d695382bb983975f9e39e3f

カップルの選択
・・・・サビーヌ・マゾー=ルブヌール教授講演「個人主義と家族法」コメント
http://www.law.tohoku.ac.jp/~parenoir/pacs.html
2003年1月14日水野紀子(東北大学法学部教授)
日本法と同様に相続分差別規定をもっていたフランス法も、2001年12月3日法によって非嫡出子の相続分差別を撤廃した
しかしフランス法は、生存配偶者については、夫婦財産制の清算によって日本法の配偶者相続分にあたる財産はすでに保障されており、配偶者相続権はそれ以上の財産を得る権利である。しかも今回の相続法改正によって、配偶者の相続権は一挙に拡大された。配偶者の死後はその財産は嫡出子に相続されることになるが、それは問題とされない。つまり婚姻家族の財産的保護は、改正後はむしろ手厚いものとなっている。生存配偶者の居住財産を確保する特別規定もあり、現在の日本法のように、残された配偶者が居住家屋を処分して子の相続分を手当てする必要などは決して生じない。
 要するに日本家族法の最大の問題点は、相続分差別規定ではなくて、法律婚の保護があまりにも弱すぎることである。法律婚の効果が夫婦同氏と同義にとられてしまうような貧弱なものである
日本の婚姻法の法的効果は、むしろ曖昧で無内容であるといわれる民事連帯契約(Le Pacte civil de solidarite = Le Pacs、パックス)のそれにずっと近い。
日本の婚姻が、婚姻の効果としてフランス法より強力な点は、身分証明書を意味する身分登録簿である戸籍に公示され、氏も強制的に変更されるという公示機能と、合意が成立しない場合の裁判離婚成立の困難さの、ほぼ二点だけである。
婚姻が直ちに氏の強制的変更という拘束をもたらすだけで、実際には家族内の弱者保護のために強者を拘束する法的効果はあてにできず、シャドウワークを義務づける習俗と社会の圧力のみを強く感じるとしたら、自力で生きていける日本の若い女性たちが、しばらくは「個人主義」を頼りにして「家族」形成を回避するのもやむをえないことなのかもしれない。

対談「離婚訴訟、離婚に関する法的規整の現状と問題点――離婚訴訟の家裁移管を控えて」
http://www.law.tohoku.ac.jp/~parenoir/taidan.html
法律婚においては、国家権力が当事者に介入して守ってやらなくてはならないところですのに、まさにそこにおいて十分なことをしてこなかったから、その歪みがほかのところで妙に介入する結果と結びついてきたような気もします。配偶者が他の恋人を作って家族を捨てたら、配偶者にしっかり責任をとらせれば、それで足りるでしょう。
婚姻は一応生涯を約束した契約であったはずで、それがうまくいかなくなってしまったのですから、将来の生活保障というのは当然必要になる、婚姻という契約の中の根本的な部分だろうと思うのです。
フランスの補償給付も離婚後の生活保障をしておりますし、ドイツ法は扶養義務が継続しますし、英米法でも、ずっとアリモニーが認められてきたわけですね。

投稿: 丸山 智恵 | 2013/10/31 09:34

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