Law:情報公開訴訟とインカメラ審理
昨日開かれた北大公法研究会では、情報公開訴訟にインカメラ審理を導入することの可否がテーマとなった。
具体的には、行政機関の情報公開訴訟において、非開示情報に該当するかどうかが争われているときに公開請求されている当の文書を裁判官が見て、その内容から非開示情報該当性を判断できるようにしようというものである。
arret:情報公開訴訟のincamera審理
law:行政情報開示にもインカメラ
このように、最高裁は解釈論や実務運用としてインカメラ手続を情報公開訴訟に導入することを否定したが、これを受けて枝野大臣(当時)が指示して立法による導入が進められている。
最高裁の上記決定は、当該文書の検証に原告が立ち会わないというやり方でのインカメラ審理を憲法に反するとはいわず、民事訴訟の基本原則に反するとして違法とした。従って立法によれば導入が可能だという解釈である。
研究会では、「基本原則」とは何かという点をめぐり、それは憲法とは違うのか、法律でも憲法でもない「基本原則」なるものを認める根拠は何かという議論が戦わされた。フランスにおける「法の一般原則」の機能は、通常の最高裁(破毀院)に違憲立法審査権がなかったフランス法で、事実上、違憲判断と類似の判断をするために用いられている感があるが、それと同じものなのかどうかも興味深い。違憲立法審査権のある日本では、そのような概念を認める必要がないというのが建前としては正しいが、憲法違反と言ってしまうとリジッドな効果が生じてしまうことから、それに代わる概念が必要だったというのが現実的なところであろうか。
なお、各種の立法過程では、憲法以外にも、当該法領域における「基本原則」が所与のものとして立法を指導するし、基本原則に理論的にそぐわない立法をする場合は相当の抵抗がある。そうした現実は、法学の中で正当に位置づけられてはいないのではないかというのが、昨日の感想だ。
内容的に、情報公開訴訟でインカメラ手続を導入することは、非開示情報の該当性という中心的な争点を、一方当事者の吟味できない証拠で裁判官が決めてしまうことになり、その当否はやはり相当に疑問である。現在の立法提案は、両当事者の同意がある場合に限るということになっているようだが、それはむべなるかなである。ただし、インカメラ審理から排除される開示請求者が同意することが必要なはずであって、情報を持っている側が同意しなければ実施できないというのでは制度が動かなくなる。
なお、知財関係訴訟に見られるような、秘密保持命令を施した上での開示も、検討に値すると思うのだが、立法論には取り入れられていない様である。
参照条文:特許法
(書類の提出等)
第百五条 裁判所は、特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟においては、当事者の申立てにより、当事者に対し、当該侵害行為について立証するため、又は当該侵害の行為による損害の計算をするため必要な書類の提出を命ずることができる。ただし、その書類の所持者においてその提出を拒むことについて正当な理由があるときは、この限りでない。
2 裁判所は、前項ただし書に規定する正当な理由があるかどうかの判断をするため必要があると認めるときは、書類の所持者にその提示をさせることができる。この場合においては、何人も、その提示された書類の開示を求めることができない。
3 裁判所は、前項の場合において、第一項ただし書に規定する正当な理由があるかどうかについて前項後段の書類を開示してその意見を聴くことが必要であると認めるときは、当事者等(当事者(法人である場合にあつては、その代表者)又は当事者の代理人(訴訟代理人及び補佐人を除く。)、使用人その他の従業者をいう。以下同じ。)、訴訟代理人又は補佐人に対し、当該書類を開示することができる。
4 前三項の規定は、特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟における当該侵害行為について立証するため必要な検証の目的の提示について準用する。
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