arret:不当提訴の不法行為
不当提訴が不法行為になるための要件は、最判昭和63年1月26日民集42巻1号1頁が以下のように判示している。
民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる
これがリーディングケースとなっているが、本件原審は、会社と代表者が従業員の横領行為を理由に損害賠償を請求したのに対して、実は代表者自ら従業員にその操作を求めたという事案で、会社側が権利のないことを知りながら訴えを提起したものとは認められないとした。
ところが最高裁は、同じリーディングケースを前提にしつつ、本件では会社代表者が従業員の口座引き出し行為を指示し、その引き出した金員も受領するなど、自らの行為に反して横領行為を主張しているわけで、以下のように判示した。
「X2において記憶違いや通常人にもあり得る思い違いをしていたことなどの事情がない限り,X2は,本訴で主張した権利が事実的根拠を欠くものであることを知っていたか,又は通常人であれば容易に知り得る状況にあった蓋然性が高く,本訴の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められる可能性があるというべきである。」
ちなみにこの事件では、従業員を刑事告訴もしていて、従業員は逮捕勾留された後に、勾留期間満了前に処分保留で釈放されている。
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