vote:最高裁判事の国民審査下調べ
このうち、竹崎博允長官は最高裁判所判事を経ずに直接長官として任命された。
裁判官出身者は竹崎長官のほか、涌井判事、近藤判事、金築判事の3名。いずれも、上記リンク先の経歴を見ると、司法行政に長く携わった、いわゆる司法官僚であって、裁判実務一筋というタイプではない。
弁護士出身者は那須判事、田原判事、宮川判事の3名で、当代一流どころが揃っている。いずれも、少数意見に活発に意見表明をしており、最高裁判決の先例としての意義を考える手がかりとなるような補足意見や、大きな一石を投じる反対意見などを出している。
官僚出身者は厚労省の櫻井判事と外務省の竹内判事の二人であり、櫻井判事の方は現在唯一の女性判事でもあり、前任者が不正怠惰の極みのような社会保険庁の長官経験者であったため早期に交代したという経緯を有する。
今回は、検察官出身判事が国民審査対象にいないようである。
主な少数意見を拾い出してみよう。
田原判事
「民法724条後段の規定は,時効と解すべきであって,本件においては民法160条が直接適用される結果,被上告人らの請求は認容されるべきものと考える。」平成21年4月28日pdfの意見
痴漢事件に関して「上告審たる当審としての事実認定に関する審査のあり方を踏まえ,また,多数意見が第2,1において指摘するところをも十分考慮した上で,本件記録を精査しても,原判決に判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認がある,と認めることはできないのであって,本件上告は棄却すべきものと考える。」平成21年4月14日pdfの補足意見
「過払金返還請求権の消滅時効は,その発生時から進行すると解すべきものであると考える。したがって,それと同旨の見解に立って,平成9年1月10日以前の弁済により発生した過払金返還請求権については,発生から10年の経過により消滅時効が完成したとして,その部分について上告人の請求を棄却した原判決に違法な点はなく,本件上告は,棄却されるべきである。」平成21年3月3日pdfの反対意見
女性のズボンをはいた臀部を写真に撮った行為について「「卑わい」な行為と評価すること自体に疑問が存するのみならず,被告人の行為が同条柱書きに定める「著しくしゅう恥させ,又は不安を覚えさせるような行為」には当たるとは認められない。」平成20年11月10日pdfの反対意見
詐欺行為の手段として加害者が被害者に渡した金員を損益相殺の対象に出来るかに関して「加害者から被害者に対してなされる給付が,当該不法行為と一体をなしていると評価できる場合には,その給付相当額は,被害者の財産上の損害額の算定において差し引かれるべきものであると考える。」平成20年06月24日pdfの反対意見
国籍法違憲事件において「胎児認知子に当然に日本国籍の取得を認め,生後認知子には準正子となる以外に日本国籍の取得を認めない国籍法の定めは,憲法14条1項に違反する」平成20年6月4日pdfの補足意見
家事審判の乙類審判事項抗告審において「憲法32条,31条が要請する当事者の手続関与権,審問請求権の保障の問題は,当該手続全体の中で捉えられるべきものであり,その手続の一部において手続保障が充足されていなくても,手続全体としてみたときにそれが確保されているときには,憲法32条,31条の趣旨は反映されているものといえるところ,上記のとおり,家事審判法9条1項乙類の審判手続には,当事者の手続関与権,審問請求権が一応充足されている以上,その抗告審の手続において,その保障を欠いていることをもって,上記の憲法各条違反の問題は生じない」が、「抗告審の手続において,相手方の手続関与権,審問請求権が法定されていなくても,抗告審は職権による審理をなすに当たり,申立人の主張と相手方の主張とが対立していることが原審の記録から明らかなときには,即時抗告申立書の副本又は写しを相手方に送付する等,相手方に即時抗告の申立てがなされた事実を通知して,相手方に反論の機会を与えるべきであり,相手方にかかる機会を与えないまま原審判を相手方に不利益に変更した場合には,審理不尽の違法の謗りを免れ得ない」平成20年5月8日pdfの補足意見
那須判事
痴漢事件について「被害者女性の供述がそのようなものであっても,他にその供述を補強する証拠がない場合について有罪の判断をすることは,「合理的な疑いを超えた証明」に関する基準の理論との関係で,慎重な検討が必要であると考える。」平成21年4月14日pdfの補足意見
国籍法3条1項違憲判決において、今井判事の補足意見に同調・平成20年6月4日pdfの補足意見
家事審判の乙類審判事項抗告審の手続が違法であることを前提に、特別抗告審では抗告棄却とせざるをえないとの多数意見に対し、「不利益変更を受ける抗告人に対し即時抗告の抗告状等が送達ないし送付されないまま原決定が維持されるという現実が放置されることになる。私の採る立場からすると,このような状況の下で原決定をそのまま残せば憲法32条違反の疑念を解消できない」平成20年5月8日pdfの反対意見
近藤判事
痴漢事件について「原判決の事実認定に合理的な疑いが残ると判断するのであれば,原判決には「事実の誤認」があることになり,それが「判決に影響を及ぼすべき重大な」ものであって,「原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるとき」は,原判決を破棄することができるのである。殊に,原判決が有罪判決であって,その有罪とした根拠である事実認定に合理的な疑いが残るのであれば,原判決を破棄することは,最終審たる最高裁判所の職責とするところであって,事後審制であることを理由にあたかも立証責任を転換したかのごとき結論を採ることは許されない」平成21年4月14日pdfの補足意見
国籍法違憲事件において「多数意見は,国籍法3条1項の定める要件のうち準正要件を除いた他の要件のみをもって国籍の取得を認めるのであるが,これはあくまでも現行の国籍法を憲法に適合するように解釈した結果なのであって,国籍法を改正することによって他の要件を付加することが憲法に違反するということを意味するものではない。」平成20年6月4日pdfの補足意見
宮川判事
警察官の取り調べメモの証拠開示命令について「広く,「本件犯行の捜査の過程で作成され,公務員が職務上現に保管し,かつ,検察官において入手が容易なものに該当する」か否かを問題とすることが適切である。」平成20年9月30日pdfの補足意見
涌井判事
国籍法3条1項違憲判決において、今井判事の補足意見に同調・平成20年6月4日pdfの補足意見
以上の他にも多くの重要な少数意見があるが、興味のある方は最高裁サイトの裁判例検索で、判決全文から「反対意見」とか「補足意見」などと入れて、時期を平成17年以降に絞って検索してみるとよい。
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コメント
いつも思うのですが、最高裁判事の国民審査の際ってその裁判官がどう言った事件でどんな判決を出したかを国民に伝えないですよね。 最低でも主要な事件での判決の賛否等を教えて貰えないと国民は判断に困ると思います。
過去に基本的に国民審査で落とされた事が無いのは、そういった情報が足りないからであって、本当に納得して信任されている訳ではないと思います。 もう少し情報公開をして透明性を高めて欲しい物です。
投稿: 迷い猫 | 2009/08/21 14:40
はじめまして・・・法律に関してはアフォな人間です。
素朴な疑問なのですが、
①国民審査では「最高裁裁判官の何を審査する」のでしょうか?
裁判員制度導入の是非の裁判官の姿勢、外交官キャリアにおける政治実績などの
最高裁裁判官とは別の審査材料で罷免権を行使していいのでしょうか?
憲法76条・裁判所法41条規定を鑑みて、裁判官になてからの法廷での法解釈・事実認定を審査材料にするべきだと思いますが、競技すぎるでしょうか?
②行政官出身という二人の判事を出自を理由に罷免することに妥当性はあるでしょうか?
③判断材料の乏しい竹崎長官以後の着任判事は審査しようもありません。
個別の裁判官の審査を棄権できない現行の国民審査は違憲性がないという判例は覆られないのでしょうか?
質問が多くて要領を得ていませんが、気が向きましたら、回答いただけると幸いです。
すでに「棄権」(国民審査制度に不満があるから・制度不要ではなく)は決定しているのですが、どうしても、理解・説明できない部分がありまして・・・
投稿: カロン | 2009/08/22 13:30
カロンさん、
何を審査の判断材料にすべきかは国民一人一人が判断すればよいでしょう。
経歴を根拠に×を付けて良いでしょうし、基本的に積極支持根拠がなければ×という投票行動でも制度としては排除されていません。
女性だけを×にする人がいても、女性以外を全部×にする人がいても、それはその人の信条です。
理想的にはどうかということについて、私なりの考えもありますが、それを国民みんながそうすべきだとは必ずしも思いません。
というのも、現状では白紙=罷免しないという投票になってしまいますので、判断つかない人はとりあえず×という方針も、あるいは他事記載してわざと無効票にするという方針も、あってよいのではと思うからです。
自覚的に棄権するのであれば、白紙投票だけは避けていただきたいと思いますが。棄権したことにならないので。
投稿: 町村 | 2009/08/22 18:18