Symposium:国際的子の奪取の民事面に関するハーグ条約
東京アメリカンセンターで行われたシンポジウムは、親による子供の連れ去り、特に国境を越えた連れ去りについて民事的な解決を図るハーグ条約*についてである。
アメリカ国務省のミッシェル・ボンド国務次官補代理や国際的NGOの専門家モーラ・ハーティ大使が講演を行った後、片山登志子先生や棚瀬孝雄先生の登場するパネルディスカッションがなされた。
*http://www.hcch.net/index_en.php?act=text.display&tid=21
シンポジウム後の記者会見あり。
日本は、このハーグ条約に加盟していないが、アメリカ両大陸のほとんどの国やヨーロッパ諸国、そしてオーストラリア近辺の諸国が加盟している。
ボンド国務次官補代理のスピーチによれば、アメリカと日本の国際結婚が破綻した後、アメリカから日本に子供が連れ去られたケースというのは2009年で73件、100人以上である。日本以外の国も含めたケース全体が1400件、2100人以上というので、日本関係事件は少なく見えるが、ハーグ条約未加盟国の中では最大数ということであり、かつ、この数字は年々増加している。
そういうわけで、アメリカ議会でも日本に対するいらだちが大変高まっているということである。
他方、日本の親元から外国人の親が連れ去ってしまうケースも多数存在し、その中でハナコケースというのをハーティ大使が紹介していた。ハナコをカリフォルニアに連れ去られた日本の親が、国際的NGOに相談し、アメリカの家庭裁判所を通じて子供を発見し連れ戻すことに成功したというのである。
ハーグ条約に加盟した場合は、こうした日本から連れ去れた子供を取り戻すことも法的な裏付けができ、国際管轄や執行共助がスムーズに行くということである。
質疑では、フランスのティエリ・コンシニさんが日本で国際的調停の場を設けるべきではないかと提案し、注目を集めていた。
パネルディスカッションにおいて、片山先生が日本の離婚手続や面接交渉調停・審判の概略を説明し、けっして日本の裁判所が面接交渉権を認めることに消極的ではないと説明された。
次いで棚瀬先生は、ハーグ条約のあらましを説明した後、日本では子供が現在監護されている状態を尊重する構造について説明された。面会を阻む原因はいくつかある。面会させるかどうかに子供の意思を尊重するということ、しかも年端のいかない子供に現在監護している親と同席で意思を聞くなど、真意がいえない状況で聞くこと、面会を行う前提として親同士の信頼関係を要求することとが、監護していない親に極めて不利益に働く。
一方親が監護している場合に他方が実力で子供を連れ去った場合は、その違法性が認められ、人身保護請求でも取り戻しができるが、共同監護の状態から一方が連れ去った場合は、人身保護請求に必要な顕著な違法性も認められず、審判前の保全処分も単独親権者になるということが認められる場合でない限り、被保全権利の疎明は認められない。従って、最初に連れ出した方が勝ちになるということで、事実上の早い者勝ちとなってしまっているのだ。
ハーグ条約の批准には、こうした状況を変えていく必要があり、じっくり子供の福祉を尊重した解決を図るのではなく、タイミングよく裁判所が積極介入するという裁判所に生まれ変わる必要がある。
同じくパネルの同志社大学ジョーンズ先生は、日本における子供の引渡執行について、物の引渡と同様のツールしかないことを指摘し、子供の意思を尊重する一方、子供の最善の利益を図るガイドラインがないこと、最善な解決の道筋が見えないから低年齢の子供に対してもどちらの親を選ぶことになるという。
カナダのウェイクリー弁護士は、日本法に欠けていて改善すべき点を以下のように指摘した。
・共同親権の重要性
共同親権が子供の最善の利益につながることの認識が必要である。
・法律上、共同親権の付与を強制する。
・家庭裁判所が恣意的に単独親権とすることを禁止する。
・単独親権とする場合には、特段の事由が必要で、そのためには単独親権を求める側が立証責任を負うべき。
・国籍や性別による親権付与面の差別を禁止する。
・仮の親権付与制度を創設する。
・一時的面会制度を創設する。
・強制手段を整備する。間接強制金10万円程度では十分でない。法廷侮辱などの刑事罰が必要。
・面会についてもルール化が必要で、強制力を伴ったルールが必要である。
・面会が履行されているかどうかのフォローアップを裁判所で行う必要。
・保証金の供託。
・エンフォースメントには刑事罰も必要である。
・違反者が訴訟費用・弁護士費用を負担する。
これらの一部は、家事審判法・規則の問題でもあり、その改正過程にこの問題は考慮されているかどうか、片山先生に聞いてみたが、全然考慮されていないという。
少なくとも面接交渉の審判過程、とりわけ手続の透明化や家裁の裁量のルールかなどは家事審判法改正の基本方針でもあるし、仮の親権付与、離婚過程における連れ去りの原状回復、一時的面会制度、そして各種エンフォースメントについては、家事審判法改正により対応可能な部分である。
条約加盟も重要だが、国内法の整備という観点でも、可能な部分を家事審判法改正に取り入れていく必要がある。
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