« arret:留保所有権者が撤去義務を負うとされた事例 | トップページ | police:神戸で職質を受けると、こうなる »

2009/03/11

arret:取締役の責任関係

最判平成21年2月8日PDF判決全文

A株式会社の株主Xは、A社が買い受けた土地がA社ではなくA社取締役Yに移転登記手続されていると主張し、主位的には真正な登記名義の回復のための移転登記請求を、予備的にはYに登記名義を委託する借用契約の終了を理由とする移転登記請求を、それぞれ求める株主代表訴訟を提起した。

これに対して原審は、「株主代表訴訟によって追及することのできる取締役の責任は,商法266条1項各号所定の責任など,商法が取締役の地位に基づいて取締役に負わせている厳格な責任(以下「取締役の地位に基づく責任」という。)を指すものと理解すべきであり,取締役がその地位に基づかないで会社に負っている責任を含まない」と判示して訴えを却下した。

さて最高裁はどういったか?

同法267条1項にいう「取締役ノ責任」には,取締役の地位に基づく責任のほか,取締役の会社に対する取引債務についての責任も含まれる

そして主位的請求についてはY取締役に対するA社の所有権に基づく請求権の主張であるから、上記の取引債務についての責任ではないとし、却下は正当だとしたが、予備的請求については、取引債務についての訴えだから代表訴訟として適法であるとし、上告を入れて破棄差し戻しした。

なかなか微妙な判断である。要は物権的請求権と債権的請求権とで線を引いたと言うことなのだろうが、果たしてこれは正当かは議論の余地があるように思われる。
 とりわけ本件のように、所有権名義をY名義にしたという通謀虚偽表示のような事案で、最高裁は通謀を取引とするわけだが、そのようにこじつけないとならないのか? 端的に会社が会社財産に関して取締役に対して有する請求権を、物権的であれ債権的であれ、株主代表訴訟として行使できるとしては問題があるのか、それが無理だとすると、本来物権的な権利関係に債権的な関係を擬制して株主の訴権を認めることが正当なのかどうかが、逆に問われる。

|

« arret:留保所有権者が撤去義務を負うとされた事例 | トップページ | police:神戸で職質を受けると、こうなる »

法律・裁判」カテゴリの記事

コメント

う゛この論点を講義では取り扱っていないんですよね...
こうやって講義内容が増えていくのだなぁ...
その分、別のとこでスリム化しないとですね。
代表訴訟の趣旨はむしろ今までの講義ノートの説明のとおりなのが明白になったので楽にはなったのですが

物権・債権の違いなんですかね?
reasoningからすると、契約関係類似、
さらにいえば、条文上の利益相反取引の点を
重視しているようにも読めて、
なかなか一筋縄ではいかないような?

それよりも、否定された原審が
266条1項の責任をも、
かつて266条ノ3(会社法429条)で論じられた
「法定責任説」的に整理しているのが印象的ですね。
消滅時効の最高裁を超えて、
下級審裁判官にまで広まっているのですね。
日本の裁判所が今までさまざまなところで
「法定の特別責任」と言ってきたことの意味を
薄めようとしているのではないかという気がするのは
勘ぐりしすぎでしょうか

投稿: 故元助手A.T. | 2009/03/11 20:47

なるほど、物権的請求権と債権的請求権という区分にしてしまったのは早合点ですかね。
訴訟物論が頭に去来する影響かもしれません。

投稿: 町村 | 2009/03/11 23:57

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: arret:取締役の責任関係:

« arret:留保所有権者が撤去義務を負うとされた事例 | トップページ | police:神戸で職質を受けると、こうなる »