jury:裁判員制度への賛否アンケート(愛知)
どうも、世の中には都合の悪い結果が出ると公表を差し控えるという安易なやり方を選択したがる人がいて、困ったものである。
弁護士のため息で紹介されている愛知県弁護士会の理事者も、その一つの例のようだ(伝聞の伝聞であるため、違うというならご指摘を)。
「裁判員制度についてのアンケート」(愛知県弁護士会)集計結果
司法問題対策委員会は愛知県弁護士会の市民向けHPへの掲載も求めたが、理事者の意向により掲載は拒否された。
その集計結果PDFによれば、アンケートに答えた中で55人が賛成、121人が反対という結果になっている。
賛成反対のそれぞれの理由も、なかなか読ませるものがあり、裁判員制度に関心のある人々は是非上記PDFを参照するべきである。
また、上記ブログで紹介されている福岡県民新聞の「表に出ない反対の声 裁判員制度 司法関係者の本音」も面白い。併せて読むと、現状に対する認識が深まる気がする。
(以下蛇足)
いや、このように紹介すると、あたかも私も裁判員ハンターイと叫んでいるかのように誤解されるかもしれないが、刑事裁判に口を出す専門性を有していないのを逃げ口上としつつも、以下の点は確かであろうと思う。
1.裁判員制度は「裁判官による裁判を受ける権利」を保障する憲法に違反するという議論は取るに足らない寝言であること。
日本国憲法は官吏(司法官僚・職業裁判官)による裁判など保障していない。
裁判官がこのように言うのは分からないではないが、弁護士までもが裁判員制度憎しでこうした寝言を持ち出すのは情けない限りだ。こんなのに同調すれば、法曹一元は憲法上疑義があるだの、非常勤裁判官は違憲の疑いがあるだのと言われかねない。
2.裁判員制度導入の理由は、現状の人質司法と調書裁判に基礎づけられたいわゆる「精密」司法で起訴=有罪という茶番を改革しようというもの。従って、単純に導入反対、現状維持というのであれば、上記の人質司法+調書裁判=検察バラダイスという構図を維持することに荷担することになる。
裁判員制度反対論からは、これをどうすれば改善できるのかが見えてこないのである。
もちろん、裁判員制度と無関係に、起訴前弁護の充実と取り調べ過程の可視化とを進めれば、多少は状況が改善されるかもしれない。人質司法の改善には、刑事訴訟法の原則に立ち返って権利保釈をその通り認めるのが先決だろう。証拠開示だって裁判員制度とは論理的なつながりがあるわけではないので、裁判員制度の導入がなくても拡大していくべきである。
また逆に、実際の裁判員制度導入に伴う諸改革を見ると、調書裁判は調書要約裁判に変わるだけで、「市民の健全な目で見た疑問」(検察側に言わせれば素人の無理解で時間がかかる原因というわけだが)が生じないようになり、かえって状況は悪くなるとさえ言えそうである。
そういうわけで、私が上記のアンケートを突きつけられたら、やはり「どちらともいえない」と答えるだろうなと思う。
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コメント
そもそも司法制度改革において刑事裁判の実情を熟知した人がほとんどいなかったのが、最大の問題だったのですが。
なお、審議会メンバー13人中、法曹は3名だけ。
弁護士(元日本弁護士連合会会長) 中坊 公平 氏
弁護士(元広島高等裁判所長官) 藤田 耕三 氏
弁護士(元名古屋高等検察庁検事長) 水原 敏博 氏
このうち、藤田委員は民事畑の人。
中坊委員は刑事弁護はほとんどしたことがないのに「裁判所憎し」で陪審制を強硬に主張するなど、冷静な議論をする人ではありませんでしたので、水原委員の現状説明にも全く耳を傾けませんでした。
東京大学法学部教授 井上 正仁 氏
は刑訴法を専門としていますが、捜査や公判の現場からはやや遠く、問題の所在を的確に把握していたか疑問が残ります。
何はともあれ、裁判所・検察庁にとって、裁判員制度は「押し付け」以外のなにものでもありません。しかも、法律で広報義務まで課されて(裁判員法附則2条)、反論すら出来なくなったのですから。まあ、押し付けられたからといって、それを全て否定すべきというものでもありませんが(現行憲法もそうですし(汗))。
投稿: 通りすがり | 2008/09/15 22:48
本日、「裁判員の心理カウンセリング、5回まで無料。」という記事を読み、大きくため息をついています。
人には知らなければいけないこと、知らなくていいことがあり、それぞれ感受性の個体差も大きくあります。
デメリットが大きくても、少数派の意見だとしても取り入れなけばならない制度もあるかもしれませんが、裁判員制度については否定的にならざるを得ません。
常々、「教育」の大切さと重さを思っていますので、コメントさせていただきました。
投稿: ウマ | 2009/06/15 09:49