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ワシントンが中国に関して本当に恐れていること:アメリカの覇権に対する障害(抄訳)

2024/02/28のブライアン・バーレティック氏の記事の抄訳。2024/02/16のフォーリン・アフェアーズの論説についての解説。ワシントンはそもそも何故中国を敵視するのか、根本的な動機についての解説。
Washington’s True Fear of China: An Obstacle to American Hegemony



 2024/02/16にフォーリン・アフェアーズ誌に掲載された論説「台湾の大惨事」は、米中対立激化の背後に存在する米国の真の動機と、ワシントンが望む結果が益々非現実性になって来ていることを理解するのに役に立つ。

 この論説の前提は、現在は機密解除されている1950年のダグラス・マッカーサー米陸軍元帥の極秘メモに基付いている。このメモは台湾を「不沈空母」と表現し、米国本土を守る為、米国から数千マイルも離れたアジア太平洋地域に対する米国の優位性を維持する為に不可欠であると述べている。

 米国が台湾を保持し、日本とフィリピンを含む米軍の駐留を維持することで、米軍は地域大国(当時はソ連、現在は明らかに中国)が「東アジアと東南アジアの天然資源を活用する」能力を「阻止」出来るとマッカーサーは指摘した。

 これによって可能となる中国封じ込め能力こそが、今日に至るまでワシントンが東アジア及び東南アジア全域で米軍の駐留を維持し続けている主な動機だ。



 アメリカを守るのではなく中国を封じ込める

 米国の国家防衛戦略(National Defense Strategy/NDS)は「中国を打ち負かす」ことをワシントンの最優先事項に位置付け、こう不満を述べている。
 
 「(中国は)世界の競争の場を自国の利益になる方向に傾けて国際秩序を作り直す意図と、その能力を増大させている。」

 NDSは、中国が置き換えようとしている「国際秩序」とやらが以下の諸事実を含んでいることには決して触れようとしない。

 ・米国は2つの世界大戦前に中国領土を占領していた。
 ・米国は1979年まで台湾に何千人もの軍隊を駐留させていた。
 ・ワシントンは1979年に「ひとつの中国」政策に従って台湾を中国の領土だと認めたにも関わらず、現在も米軍を駐留させている。

 NDSはまた、米国は「自由で開かれたインド太平洋の促進」、より具体的には「南シナ海へのオープン・アクセス」を目指していると主張している。そして「世界の海上貿易の2/3近く、全世界貿易の1/4」が南シナ海を通過していると指摘し、中国がこの貿易を脅かしていると仄めかしている。

 だが米国政府や米国の兵器産業を含む米国企業が資金提供している外交政策シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)が2017年に発表した「南シナ海を通る貿易量はどれ位?」と云う分析報告書は、南シナ海を通過する貿易の大部分は中国本土を行き来していることを認めている。

 報告書は更に、中国は南シナ海を頼りとしている為、海洋貿易の混乱に対して脆弱になっており、2003年には胡錦濤首席がマラッカ海峡の制圧を目指す「特定の大国」の脅威に対して注意を喚起していることも指摘している。

 中国が南シナ海に於ける自国の貿易の安全を確保することに関心は有っても、それを妨害する意図が無いことは明らかだ。

 現実には、マッカーサーが認めた様に、この地域に米軍が駐留しているのは海洋貿易を保護する為ではなく、海洋貿易を「阻止」する為なのだ。



 「民主主義を守る」= 米国の属国顧客体制の維持

 米国はまた、中国国境内部や国境沿いでの継続的な干渉を正当化する為に、他の煙幕も用いているが、これには台湾島も含まれる。

 フォーリン・アフェアーズの論説は、米国は「民主主義を守っている」と主張している。だが台湾の政権とそれが実施する政策は民主的な自決の産物ではなく、地球の裏側のワシントンで決定されている。

 ・北京を挑発する。
 ・台湾と中国の残りの部分との間の貿易を妨害する。
 ・経済発展やインフラではなく米国の兵器に公的資金を注ぎ込む。

 これらは何れも地元住民の利益を犠牲にして米国の利益に貢献していることを示している。

 米国がアジア太平洋地域でのプレゼンスを維持しようとしているのは、台湾、日本、ROK(大韓民国)、フィリピンの自決プロセスを守る為ではない。各国に対する米国の支配力を維持する為に他ならない。



 半導体の未来を支配する

 この論説は、米国は中国が台湾の半導体産業を支配するのを阻止しなければならないとも主張している。が、政治的な美辞麗句を剝ぎ取ってみればつまりはこう云うことだ:資源は米国にとって重要なので、それが米国本土から数千マイルも遠く離れていたとしても、米国はそれを管理しなければならない。これは正に帝国主義だ。

 半導体生産を支配しなければならないと云う米国の議論と計画には根本的な欠陥が有る。現在、台湾と西洋諸国は半導体の研究、開発、製造の面で中国に対して多くの点で有利に立っているが、これらは歴史的な要因に起因する差であって、今日ではそれらは大して意味を持たない。

 現在、地球上最大の産業基地は米国ではなく中国に在る。中国は、半導体製造のあらゆる段階の進歩に関連する科学、技術、工学、数学の分野で米国よりも遙かに多くの卒業生を輩出している。

 台湾を支配し、厳しい制裁と輸出規制を課したとしても、中国が半導体製造分野に於てリーダーシップを発揮することは阻止出来ないし、寧ろその所為で中国は必要な投資に拍車を掛けることだろう。



 アジア太平洋に対するアメリカの「アクセス」と支配権を確保する

 この論説は、台湾が中国の他の地域と完全に統一すれば、地域全体で中国による征服の連鎖反応を引き起こすだろうと読者に信じさせようとした後で、東アジア、東南アジア、インド洋に対する米国の「アクセス」を難しくする力を中国が持っていると恐怖を煽り始める。台湾の半導体産業と同様、「インド太平洋」は世界で最も人口が多く、経済的に活発な地域なので、米国は何故かそこに「アクセス」しなければならないのだそうだ。

 これはより広範な米国の権利の一部だ。ワシントンは望むことを、世界中の何処であろうとやることが出来る。そこが米国本土からどれだけ離れているか、或いはそれが他の全ての関係者の平和、安定、主権、独立にどの様な影響を与えるかは関係無い。

 この論説はまた、アジアが基軸通貨としての米ドルへの依存を減らすと云う見通しについて恐怖を煽っているが、何故地球の裏側の利益によって管理される基軸通貨を維持することがアジアの最大の利益に適うのかについては全く説明していない。



 本当の恐怖:米国の優位性に対する障害としての中国

 この論説はまた読者が中国の台頭を恐れるべき理由として、驚くべきことに米国の例を挙げている。米国の歴史は、地域での優位性を達成することによってグローバルな権力の投影が可能になることを示している、と云うのだ。米国は19世紀に西半球を支配したからこそ、20世紀にはグローバルな超大国になれたのだ。

 他方、中国がグローバル大国としてどの様に行動するかを正確に予測することは不可能だが、数十年分のデータは、中国が米国よりも遙かに穏当ではないアプローチを取ることを示唆しているそうだ。そして著者達は、この「データ」として、南シナ海に於ける中国のプレゼンスと「大規模な軍備増強」を挙げているが、これらが米国の外交政策よりもどう「穏当ではない」のかは説明していない。

 21世紀だけでも、米国は2001年にアフガニスタン、2003年にイラクを侵略し占領した。後者はイラクの「大量破壊兵器」に関する意図的な作り話の上に進められ、少なくとも100万人以上の死者を出した。2011年にはリビアに軍事介入した。2014年にはシリアに侵攻し、国のエネルギー源と食料源を占領した。当時の中東担当米国防次官補ダナ・ストロールは、米国主導の紛争によって国の大部分が「瓦礫」と化したことを認めている。

 現在ウクライナで続いている紛争は、2014年に米国が行ったレジーム・チェンジの結果だ。当時EUとロシアとの間で中立を保つと決めた選挙で選ばれた政府が排除され、ロシアとの戦争で米国の代理として機能する属国政権に取って代わられた。

 米国はまた、パレスチナのガザで進行中のイスラエルの戦争を可能にし、イエメン全土の目標にミサイルを発射し空爆を実施している。

 この論説は正に認知的不協和の事例だ。著者達は、軍事力を用いて世界中の国々を脅迫する超大国に支配された未来について警告しているが、米国が現に既にその様なことをしていることを認めつつも、何故か全く非難していない。

 ワシントンが本当に恐れているのは、中国が世界中の国々を脅して屈服させる様な国際秩序を構築していることではない。世界に強制力を発揮し支配し続ける米国の能力を損なう国際秩序を構築していることだ。

 論説は更に、中国がインドを含むアジアの近隣諸国全てを合わせたよりも遙かに大きな経済を誇っていること、また中国海軍が米国に次ぐ火力を誇っていることについて警鐘を鳴らす。

 だが中国は21世紀に入ってから、地域的・世界的な優位性を確保する為に、米国の様に域外軍事侵攻の手段に訴えずにこれら全てを達成した。また論説は中国の軍事力が「比較的集中している」と指摘しているが、これは図らずも、米国が世界中に軍隊を駐留させているのとは異なり、中国軍が専ら中国領土を防衛する姿勢を取っていることを認めているに等しい。こうした姿勢を危険だと捉えるのは、(台湾を含めて)中国領土を脅かそうとしている人々だけだ。

 アジアに於ける中国の台頭を特徴付けているのは、米国の様な侵略や軍事基地ネットワークではない。高速鉄道、港湾、発電所、工場、道路等だ。その影響力は米国の様な空母打撃群による現代版砲艦外交ではなく、国際貿易を促進するコンテナ船艦隊によって維持されている。ワシントンは爆撃によってグローバルな優位性を維持しているが、中国は建設を通じてそれに挑戦している。

 例えばラオスでは、中国の技術者達は、ヴェトナム戦争中に米国が投下した大量の不発弾を処理した後、この貧しい内陸国と他の国々を高速鉄道網で結ぶ線路を建設した。

 明らかに、中国のアプローチは米国のアプローチとは似ていない。中国の方が根本的に優れており、米国は中国に全く太刀打ち出来ない。

 フォーリン・アフェアーズのに掲載される様な論説は、この問題に関するワシントン、ロンドン、ブリュッセルで広く抱かれている感情を反映している。そして世界が何故、中国が好む協力と相互利益に基付く代替国際秩序ではなく、征服と強制に基付いて構築される米国主導の国際秩序の下で続いて行かなければならないのかを懸命に読者に納得させようとしている。

 それは不合理な議論なので、ワシントンは主に恐怖を煽ることで人々の支持を得ようとする。

 皮肉なことに、中国が将来何をするかについて十分な恐怖を引き起こす為に、この論説の著者達は、米国が既に行って来たことを引き合いに出さなければならなかった。つまり彼等は現実の米国をフィクションの中の中国に投影して恐怖を煽っているのだ。
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川流桃桜

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一介の反帝国主義者。
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